不意に思い出したのは、あの日のこと。兄様がしんだと聞かされ、ボクにも追っ手がかかったあの日のこと。しあわせだった日常が突然終わって――ああでも今不仕合わせかと訊かれたら、そうでもないんだけど――そして現在に至るわけで。 こんなことは無意味ではあるけれど、ふと思うんだ。もし、あの日があの日なっていなかったならば、或いは今もボクはオルランヌで毎日剣の稽古をして、兄様も元気でいたのだろうか? そう、思わずにはいられなかった。 「なに考えてんだ?」 「……痛っ、何するんだ君、は、」 声とともに頭に軽い衝撃。人が物思いに耽っているというのに、どうして物なんか投げてくるんだ。そう思い、不機嫌な顔で振り返ってさっきの衝撃の正体を見つめる、と、それは。 「キャラ、メル……?」 「それ、やるわ」 それは、箱に詰められたキャラメルだった。箱を拾って、声の主であるマキシミンを見ると、彼は相変わらずの仏頂面で「やる」と、ボクが手にした箱を指差した。 「なんで急に?」 「あ? だってお前、そりゃあ……」 マキシミンはその次の言葉を続け倦ねていた。もごもごと喉元で出掛かった言葉を無理に飲み込むような、元から言葉なんて見つからないような、そんな風だった。 けれど、彼とともに、決して短くない時間を過ごしてきたのだから。何を言いたいのか、何となくではあるが、分かる気がする。 「……ありがとう」 ボクが言うと、背を向けたマキシミンから「別にいらなくなったからやるだけだからな!」とつっけんどんな返事が返ってくる。表情は見えない。 「うん、でも、ありがとう」 「……ふん」 どこか不器用なその優しさに、ボクは少し安堵した。 ビター・スウィート -------------------- 10.09.05 何故キャラメルなのかって、たまたま自分が持ってただけです…。 |