※マツバ(旧)×マツバ(HGSS)→ミナキ





「ねえ、なんで、」

 淡い色合いの服を纏った僕が、目の前で(自分で言うのも変だけど)妖艶な笑みを浮かべている。細められた目は鋭さを孕んだ視線となって僕を刺す。
 答えの代わりに曖昧な視線と沈黙を示すと、やはり面白くないのか、「僕」は眉を僅かに顰めた。

「なんでって言ってるの」

 今度は強い語気。どうやら向こうは苛立っているらしい。とはいえ「僕」を苛立たせているのは他でもない、僕だ。
 答えてよ、と詰るように肩を掴まれる。同じ僕なのに、力の差は明らかだった。
 ぐらり、どさっ。ありきたりな音を立てて僕はひっくり返った。鈍く痛む背中。それから「僕」に支配される視界。
 予期していた痛みではあったけど、やっぱり痛い。顔をしかめると「僕」は距離を縮めて僕を見つめてくる。

「あんな男のどこがいいの」
「……っ、君には…関係ないでしょ」
「関係ないわけないだろ?」
「……ああ、」

 そうだよね、君は僕だ。だから君は「あんな男」のどこがいいか分かって然るべきなのに、なのに。
 そう言ってやったならば「僕」ってば、怒ったような、悲しいような顔をして僕の肩に爪を立てるんだ。可笑しいじゃないか、僕なのに。

「あんな男、悲しいときもいてほしいときもいつもいてくれないじゃないか!」
「……」

 ああ、そういうことか。「僕」は僕だからだ。悟って僕は「僕」を見つめた。「僕」は紛れもなく、僕だった。
 今度は悲しそうに呟く、「僕」。

「……でも、俺なら一緒に、ずっと一緒にいられるんだよ?」
「分かってるよ、」

 でも君も分かってるでしょ。寂しいときも、いてほしいときもいない彼がいないことが寂しいんだ悲しいんだ。それってつまりは、僕がそれだけミナキくんが、好きってこと。
 真っ直ぐに「僕」を見詰めてそう告げる。彼の瞳に映る、僕がとても不安がっていたことに、気づく。

(だから、か……)

 こんな風に自らを問い質して詰ってみないと分からないくらいに、不安だったんだ。本当は寂しかったんだ、ミナキくんがいないことに。
 この表情は、「僕」のじゃなくて僕のなんだ。

「……ごめんね」
「分かってたけど」

 そう言うと「僕」はふわりと笑って僕を優しく抱き締めた。ぎゅ、という弱々しい力が籠もると同時にそれは温もりとともに霧散していった。

(気づかなかったけど、)

 僕はそれくらいミナキくんが好きだったんだ。





「……不思議な夢を見たよ」
「どうした?今日のマツバは甘えん坊だな」

 久々に帰ってきたミナキくんを抱き締めると、笑い声と一緒に降ってくる優しいテナー。

「寂しかった」
「……そうか」

 思いの外いじけたような声が漏れて驚く。どう解釈されたのかは分からないけど、ミナキくんは「仕事もひと段落したから、これからはもっとエンジュに立ち寄るよ」と言って僕の髪をふわりと撫でた。






それくらいにはきみをあいしてるということ


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2011.12.27
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