※ホウオウイベント後/黒ヒビキ警報!





 さも僕の気持ちを知ったように、あの子――ヒビキくんは「悔しいですか?」と今僕が一番聞きたくない言葉を吐いた。
 目を細めて薄く笑う彼の表情に僕はギクリとした。鈍色の何かを飲み込んでいるかのように、胸が、くるしい。

「……そんなこと、な」
「あるんでしょ、ねえ、悔しいですよね?」

 ちゃんと正直に言ってくださいよ。コトネみたいな新人トレーナーにずっとずっと恋い焦がれていたホウオウを、あっさり…いともあっさりと取られちゃったんですよ? 悔しくないわけ、ないですよね?
 口調は半ば強制的で決めつけてかかったようで、その言葉に僕は怯んだ。実際僕はどうしようもないほど悔しかったから、違うと声を上げて否定することなどできなかった。
 今までの僕の修業の価値ってなに? 人生の価値は? これから生きていく、意味は?
 頭に溢れかえる混乱した疑問たちを掻き消すように、僕は小さく首を振った。

「……それを知ったとして、君はどうするんだい?」
「どうもしません」

 吐き出した声は、自分でも驚くくらい掠れていた。微笑を浮かべて目を細める彼の瞳はどうもしないという言葉通り、無関心や虚無のような色が窺えた。それが僕の心をやけにざわつかせる。
 無彩色の瞳には僕だけ、ひとり。

「ただ」

 ヒビキくんは色を呈さない瞳を僅かに伏せた。

「ただ、俺はマツバさんの、ホウオウのせいでぽっかり空いたところを埋めてあげたかっただけなんです」





ミスフライハイ





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2011.10.10(初出)
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