「あーもう、暑いね」

 そう言ってダイゴは額に浮かぶ汗を拭った。シャツの袖を肘まで捲ってそうする様は、まるでサラリーマンだった。邪気もなくにこりと笑うダイゴの顔が少し憎い。

「……それで?」
「すまないね、ミクリ。君に来てもらったのは他でもない」
「部屋を冷やせとか言うんじゃないだろうね?」
「……」

 どうやら図星だったようで、ダイゴの額から再び汗(恐らくこれを冷や汗というのだろう)が滲んでいた。
 確かに私の水ポケモンなら、クーラーの壊れたこの部屋を涼しくすることも可能ではある。しかし、そのためだけに呼び出されたのかと思うとやはり癪に触る、というよりは幾ばくかの寂しさを覚えた。
 ダイゴは滅多に私を呼び出したりしない。だから今回彼に呼ばれたことが、柄ではないが少なからず嬉しかったのだ。しかしその嬉しさも今や微塵となって消え去ってしまった。

「す、すまない……急に呼び出したりして……でも、」

 言葉とともに手に触れた温もり。ダイゴのてのひら。訳が分からない。ちらりとダイゴを見遣ると、機嫌が悪そうにしているだろう私の顔に、彼は眉尻を下げていた。

「やっぱり、冷たい」
「……は?」
「暑かったから、その……ミクリのてのひらなら冷たいかなあって思ったんだよ、それで」

 君の手に触ったら涼しくなると思って、君を呼び出してしまったんだ。すまないね、ともう一度謝ってからダイゴは私から視線を逸らす。そんなこと、だったら。

「……構わないよ」
「?」
「私の手で、あなたが涼しくなるなら呼び出してくれても」

 そう言ってやると、曇天がさあっと晴れ渡るようにダイゴの表情が明るくなる。いい年齢だというのに喜怒哀楽が判りやすいやつだ。

「……というかダイゴ、手が暑すぎる」
「ミクリが冷たすぎるんだよ、だからさ、」





クーラーが壊れたはなし
「僕と半分こしてよ」
(相変わらずの無邪気さには適わない)



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2011.10.04(初出)
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