※微妙に過去捏造





 それは点と点でできた単なる要素の集合でしかなかった。それを、いつからだろう、誰かが線で結んだのだ。だからそれは意味のあるものとして僕らの目に映るのだ。それがなければ、点と点は交わらないまま、永遠を過ごしていたのかもしれないね。

(なんて、我ながら気障な言い回しかもしれない)

 がさごそとした物音のなかで読み物を漁る。本の整理という名目で始まった読書タイムで偶然見つけた本を読みながら、僕はそう思うのだった。
 ミナキくんも僕同様、無益な読書タイムに没頭している。「マツバひとりじゃ日が暮れたって終わらないんだぜ」なんて莫迦にしたくせに、僕より当の本人の方が寄り道にはまってしまっていた。
 さすがに読書にも飽きが生じてきた。片付けに戻らなきゃ。次の本に手を伸ばして取り出すと、ぱらり。

「……ん?」
「どうしたマツバ?」

 本の中から落ちてきたのは、一輪のよれた花だった。押し花として保存しようとしたのだろうが、色もセピアに褪せ気味で、当時の面影は曖昧だ。
 それをそっと拾い上げて、まじまじと見つめる。

「なんだろう?」
「おっ、あれじゃないか!」

 首を傾げる僕に対してミナキくんは懐かしそうに、花だったものを見ていた。あれってなに、と未だ疑問符の外れない僕に、ミナキくんは笑う。

「覚えてないのか?」

 少し残念そうに、けれど嬉しそうにミナキくんは続ける。
 それは、昔話だった。



 初めてその地を訪れた少年にとっては、そこで触れる何もかもが新鮮だったのだ。都会育ちの少年は、嬉しそうに色とりどりの植物を眺めていた。
 この地に来ることになったのは両親の気まぐれで、深い意味はなかったらしい。ちょうど旅行をしようとしていたときに、たまたま目に留まったパンフレットの地がエンジュだった程度の、些細な。
 遠くに行かないよう釘をさされたがそんなものは知らない。少年は嬉しくて色々な場所を歩き回り、それぞれで草花を集めていった。
 けれど途中で誰かが泣くような声が聞こえた。こんな綺麗な花が咲く場所で泣くなんて聞き間違いだと思いつつ、少年は声の方へ歩を進めていった。
 そこにはやはり泣いている男の子がひとり。

「どうしたの?」
「……」
「いたい?」
「……」
「まいご?」
「……」

 少年が話しかけてみても、男の子は言葉を返さない。代わりにぐずぐずとした音だけが返ってくる。少年は、どうしていいか分からなくなって途方に暮れていた。
 どうしていいか思いつかない少年が悩んだ挙げ句に渡したのがその花だった。

「これ、あげるから」
「……どうして?」
「だってきみがないてるから、だから」
「ありが、と……そんなことされたの、はじめて」

 躊躇いがちに吐かれた言葉は少年には想像もしないこと。そう言ってさらに涙を零す男の子。泣いているのに誰も慰めてくれないなんて、おかしい、かなしい、と少年は顔を歪めた。

「なんでそんな、おかしい!だったらおれがなぐさめる……だから、なかないで」
「あ、りがとう」
「だからなんでなくんだよ」
「うれし、んだ」

 そう言って涙を拭いた男の子は笑った。
 少しして、心配した両親に連行されるように少年は男の子と別れを告げた。



「……そのときの男の子が、ずっとこの花を大切にするって泣いてたんだぜ」
「ああ……その日のこと」

 もう忘れてしまっていた。僕がずっとその少年を待っていたこと、その少年が今は大人になって隣にいてくれること、そして悲しいときは慰めてくれることを。
 そしてそのすべてがあの日に始まっていたこと。
 もしそのときミナキくんがエンジュに遊びに来ていなかったら僕らは出逢うこともなくて、ただの点と点でしかなかったんだろう。
 ありきたりな言葉を使うならばそれは、神さまのおかげだとか運命だとか言うのだろうか――そんなものが僕らを線で繋いでくれたから、今ふたりでここにいられるのかもしれない。

「なんか感慨深いな」
「そうだね」

 褪せてしまった花をもう一度見てみたら、それは今も変わらぬ鮮やかな色彩をもっていた気がした。





アステリズム回顧録



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2011.06.25

もともとのイメージだった曲があるのですが、ずれてしまったので割愛。
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