※オデン前提のヒョ→デン





 あの表情は、決してこちらには向けられはしないのだということを、僕は知っている。僅かな変化――きっと他の人は気付かないであろうそれを見るのがとてもすきだった。そして悲しかったのだ。
 どれだけ願ったところで彼は僕を同じシンオウ地方のジムリーダー仲間くらいにしか思っていないのだろう。
 だって今、だって。

「こないだ、あのアフロがな」
「またオーバさんの話ですか?」
「ん?俺、そんなにあいつの話してたっけ?」
「……してますよ」

 もうちょっと別な話はないんですか、と問えば「ない」なんて即答が得られた。案の定だ。だってデンジさんは基本的にはオーバさんとしか連まないんだから。
 はあ、と行く宛もない溜め息ひとつ。それからうなだれた拍子にずれてしまった眼鏡のブリッジを押し上げて、直す。

「まあ、いいんですけど。ところでまた雷の石拾ったんですけど、いります?」
「おお!いるいる!」

 やはり雷のポケモン使いな彼はこういう話には目を輝かせてくれる。もっと他愛ない会話でもそうしてくれれば、なあ……なんて、やっぱり我が侭なんだろうか。

「おー!デンジじゃねーの」

 向こうから歩いてくる赤いもじゃもじゃ。手を振りながら、にかっとした笑顔でこちらに近寄ってくる、オーバさん。

「どうしたアフロ」
「つれないなー……ま、いいけど。それより飯、食いに行こうぜ!」
「あー…ああ」
(嗚呼、顔が、ゆるんだ)

 少しだけの変化。デンジさんがすきで、ずっと彼を見ている僕だからこそ分かる、変化。きっと彼らだって気付いてなんかいないそれに、僕の心臓はなんだかギュッとした。

「それじゃ、またな、ヒョウタ」
「あ、はい。じゃあ次に会ったときに持ってきますね」
「おー、頼んだ」

 そう言って笑うデンジさんの表情はオーバさんと話すときのそれとは少し違って。ひらひらと手を振る別れの合図に僕は切なくなるけど、結局このままなんだろうと思った。





ハンプティダンプティ・イースター
それでも割れた卵は何度だって復活するから、





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2011.06.04
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