※「さよならワールド」の続き的な何か





「世界って、きたない」

 そう言って諦めたように空を見つめたヒカリを、俺はただ傍観することしかできずにいた。彼女の言っていることは確かに真実で、現にどうしようもなく世界は汚くて、無垢な少女が生きていくには充分すぎるほど苦しいものだった。
 それはいつの間にか大人になっていた俺にとっても同じだったはずなのに、気付いた頃にはもう何てことはないものとして受容してしまっていた。
 これといって効果もないサプリメントの、まるで魔法の薬みたいだと主観だけで喜ぶ人々が流れるだけの広告よろしく、嘘ではないけれど根拠もないはずなのに、知らず知らずのうちに受け入れてしまっていた。
 つまりはそういうことだ。

「嗚呼、汚いな」

 ――世界も、俺も。
 吐き出すように零れた声は思ったよりも透き通っていた。ヒカリの瞳は、俺のそれと同じ色になっただけのことだ。そうやって人間は世界で薄汚れてく。

「なんで諦めるんですか」
「……は?」
「足掻いてくださいよ」

 何を言い出すのかと思えば。自分が先に投げ出しておきながら俺には諦めるなとか足掻けとか、一体どんな了見だ。

「わたし、すきなんですよ」
「何が?」
「デンジさんが」

 溜め息を吐くように紡がれた言葉は何の脈絡もなくて、なんだか拍子抜けだ。相変わらずヒカリは諦めたような目をしているが、単に放り投げただけのそれとは少しちがう、気がした。

「だからですよ、」

 デンジさんが足掻くなら、世界がどんなに汚くったってどうしようもないくらい変えられなくたってわたし、こんな世界だって生きていける気がします。
 そう言ってヒカリは目を伏せて天を仰いだ。嗚呼、堕天したって天使は天使であるように、彼女もまた綺麗だと思った。
 薄汚れたってきっと、それでも綺麗なままで、俺たちは生きていける気がした。







だけど俺たちはそんな世界で生きてかなきゃならない、つまりはそういうことだ。





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11.02.09
title:花洩
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