いつだって怖がってるのは俺の方なのに、なんだってあいつはこんな風に俺に触れるのだろう。
 触れられた手は、いつもあたたかかったのに。

「……なあ、」
「なんですか、綱吉君」

 骸はいつも通り、素っ気なく返事をした。向けられた視線がぎらり、それは俺にはいつも鋭いナイフのように見えるのだ。
 そんな俺の考えを見透かしたのか(実際に見透かしてそうで怖いけど!)、骸は髪をくしゃりとさせて溜め息を吐いた。

「……いい加減、やめたらどうですか」

 何を、とは訊かない。何度も言われた言葉だから。
 ボスなのに(僕は君の部下であるつもりは毛頭ありませんが)部下にビクビクするのとか、挙動不審な態度とか。仮にもマフィアのボスでしょう? 一見嘲るように、けれど本当は優しく、あいつが言った、言葉。

「……だったら、」
「?」
「お前も、止めろよな」
「何を、?」

 訳が分からない、といった風に肩を竦める骸。だけど、さ。
 本当は、気付いてるんじゃないのか? いつだって、怯えるみたいに俺に触れていることに。本当に怖がってるのは、どっちだよ。

「……っ!」

 手を差し出して、あいつに触れてみたらやっぱり怯えたようにおののいて、ほうら、やっぱりじゃないか。

「俺に怯えるのを、だよ」
「……ハッ、誰が、」
「だったら!」

 どうして俺が手を伸ばすと拒絶しようとするんだ。俺を掴もうとするくせにその手がいつも震えていたのはどうしてなんだ。どうして……どうして?
 溢れた言葉は止まる術を知らずに一気になだれた。骸は俺を見ながら黙って――少しだけ寂しそうに――顔を伏せていた。
 それから、少しだけ震えた、骸の声がした。

「……こわ、いんです」

 僕は、壊すことしか知らない。生憎それ以外の感情も持ち合わせていない……正確には持ち合わせていなかった、になりますね、この場合。壊したくないなんて、大切にしたいなんて、そんな気持ちなど、どう翳していいものか、僕には、分からない。だから、どう触れていいのか、分からない。壊すことしか知らない僕はきっと、君を壊してしまう。

「だから、怖いんです」

 そう弱々しく吐き出す骸は何だか今にも消えてしまいそうで、俺が今手を伸ばさなければいなくなってしまいそうで。

「……大丈夫、だから」

 ちゃんとその気持ち、伝わってるから。
 飛び込んだあいつの胸はやっぱりあたたかくて、まだ怖がってんのかなって思ったら背中に腕がまわされて、けれどその手は――慈しむように俺を包んでくれた。





きみの理由
  と
ぼくの意味






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2011.01.08
title:花洩
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