例えば手首の傷だとか食べたものを全部無に帰すのだとかタスケテと私を求めるのとか、そういったことは昔からあった。
 ホウオウに見合うための修験者としてとかジムリーダーを任せられたプレッシャーと、マツバはいつも闘っていたから。
 それにしたって、最近のマツバは殊更に可笑しくなっていた。歯車がギシギシと噛んだまま、まるで動かなくなってしまったようだ。

「ミナキくん、ミナキくん」

 そう、繰り返し呼ばれる声にいつも引き摺られる。「タスケテよ僕もう壊れちゃいそうだよ」なんて言いながら縋るような、濁った眼をしたマツバに、結局私は何も出来やしない。寧ろ彼から逃げていることにも、気付いてしまった。だから結果としてマツバと会うごとに彼の癇癪だとか傷だとか戻したりとかの程度が酷くなっていくのだ、きっと。

「タスケテ、」

 纏わりつくような言葉に耳を塞ぎたくなる。頼むからもう止めてくれ! 私にはもう壊れていくお前に何もできない支えられない助けられない。だからもうそんな声でタスケテだなんて求めないでくれ私を、こんな、無力な、私を。
 目の前で少しずつ狂いながら退廃しながら弱っていくマツバに嗚呼私はどうしてやることも出来ずにいるだけ。
 こういう時はただ一緒にいてあげれば良いのだなんて誰が言ったんだ? いるだけで良いならどうしてマツバはもとに戻ってくれないんだ、前みたいに優しく笑ってくれないんだ。
 私がダメなのか? 私じゃダメなのか?
 壊れていくマツバを抱き寄せればその体温はひどく仄かで冷え切っていた。その冷たい肢体は私の体温をも奪っていく。一緒に冷え切ってしまって終ぞ、私も可笑しくなるんじゃないだろうかとさえ思えてくる。
 支えられないのではなく、支え切れずに一緒に折れて潰れてひしゃげてしまうのだ、きっと、いつか。疲れた拍子に恐らく私も壊れてしまうだろう。
 それでも私は、マツバからは離れられないのだ。





ケルテ・リーベ
いずれ体温すら奪われて、





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10.12.31
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