「おいデンジー」

 飯だぞ、と声をかけても案の定デンジはキャスター付きの椅子で左右にゆらゆら揺れながらパソコンの画面と睨めっこを決め込んでいた。うんともすんとも言わないデンジにはもう慣れっこだ。

「飯、食えよ」
「あとでなー」
「冷めんぞ」
「したらレンチンして食べる」

 大体二言目で折れて食卓に着くはずなのだが、今日はやけにディスプレイに食いついて離れてくれない。可愛げのない奴。
 結局折れたのは俺の方で、一向にそっぽ向いたままのデンジはスルーして、ため息混じりで作った料理は冷蔵庫にしまうことにした。
 せっかくのほっかほかな俺お手製のディナーが冷めた挙げ句にレンチンによる加熱で胃に放られることを想像すると、少し、否かなりせつない。けれどそれももう慣れっこだ。


 かち、かち、と秒針の鳴る音を何千回と聞いた後だろうか、俺はもう一度デンジに声をかけてみることにした。

「おいデンジー」
「……」
「デンジ?」
「……」

 やはりうんともすんとも言わないデンジ。余程大変な作業なのかと首を傾げつつ近寄ると、規則正しい呼吸音。すー、すー、すー。
 案の定だが、デンジは一人で夢の国へ行ってしまったようだ。お前の作業が終わるのを待って二人で飯食おうと思ってたのにな、やられたぜ。
 こめかみを押さえて溜め息を吐いてブランケットを引っ張り出す。ふわりと広げてデンジに羽織らせると、少しだけ寒そうにしていたデンジの顔が緩んだ気がした。

「……いつもこうなら可愛げってもんがあるのにな」

 おやすみ、デンジ。そう耳元で呟いて俺も眠ることにした。





ロンリーファイター





《翌朝談》

「……おい、糞アフロ」

 ずるずるとブランケットを引きずりって、デンジは起き抜けの不機嫌のためか、不快そうな顔をしていた。

「起きたのか? 風邪引かないようにブランケットを、」
「じゃなくて!」
「……?」
「お前、なんかボタン押したろ」

 徐々に露わになるデンジの怒りのオーラに俺もさすがに後ずさる。ボタン、なんか押しちゃったような押してないような……ピーとか謎な音がなったとか、そんなん知らねー…ぞ?

「データ吹っ飛んだじゃねえかどうしてくれんだこんの糞アフロぉ!」
「わー! 悪い、デンジ!」

 朝っぱらから跳び蹴りを食らう羽目になったのだった。そもそもお前もバックアップくらい取っとけ!




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2010.12.25
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