シロガネ山の一番奥で待ち構える青年はきっと、すべてを知っている。だから彼は誰もいない山の奥で一人でいるんだ。 「一体どういう気持ちだったんですか」 「……」 ずかずかと踏み込んで、その先にいる最強と謳われるトレーナーの肩を掴んで思い切り揺さぶる。だけど彼は不快の意も何も現さないその表情で、俺を見つめていた。嗚呼これが悟った顔とでもいうんだろうか。納得がいかない。 「ロケット団を壊滅させて、ジムを制覇して四天王も倒して……それが全部、敷かれたレールの上だったなんてさ」 「……」 目の前の彼は依然冷めた視線をこちらに寄越すだけで、声を出そうという気配はない。真一文字に結ばれた口許だけが、やけにはっきりと見える。 ぐだぐだぐだぐだとした俺の声だけが、この深い山の中でわんわんと反響した。 「……何とも思っちゃいないのかよ」 この人同様、俺が旅をしてジムを制覇したのもホウオウを捕まえたのも四天王を倒して今に至るのも――全部ツクリモノの人生だったなんてさ。 そんなの笑っちゃうよな、まったく。 「なあ、」 我ながら哀れな声をしたと思った。震えて情けないその声は確かに山の中で木霊している。 「どんな気持ちか教えてくださいよ、レッドさんよお」 衝動的にぐい、と揺さぶっていた肩を押せばいとも簡単にその肢体は地面に転げた。 その拍子にばさりと彼の帽子が落ちて遠くに転がっていった。帽子の鍔でよくは見えていなかった表情が露わになる。 レッドさんの無彩色な赤い瞳に映る俺自身の表情は本当に哀れな子羊のようだった。 「……どんな、なんて」 君と同じだよ、ゴールドくん。 漸く微かに開かれた唇から泡のように零れた彼の言葉。初めて触れた同じ気持ちの人間の言葉。 細められた赤い瞳に、不覚にも引き込まれてしまいそうだ。嗚呼この色は無彩色なんかじゃなかった。絶望そして諦念の色だった。 虚しく確かめ合うように触れ合った体温は、確かにあたたかかったのに。 (ツクリモノ、なんだ……) シンパサイザー (同じ体温を、同じ気持ちを共有して眠りに就く。) -------------------- 10.11.02 ゲームの中という自覚が芽生えたふたりのおはなし |