どこの専門書で読んだんだったっけ…まあともかく、細胞って死なないように外部からプログラムをかけられてるから生きていられるらしい。つまり外部から「生きろ」って言われないと細胞は死んでしまうんだ。
 それは、細胞の塊である人間にも言えるんじゃないか、とか思うわけだ。もしかしたら人間も「生きろ」って誰かに言われなきゃ死ぬんじゃないのか、なんて。

(嗚呼、だって、)

 あいつの声ひとつで俺はここに生存しているのだから。あいつの声が、姿が、存在が、俺をこの世界に繋ぎ止めてるんだ。そんなことは、死んでも言ってやらないけど。

「デンジ」

 優しく呼ぶ声。無視をすればもう一度「デンジ」と繰り返されて、視界に入る赤いアフロ。まじまじと俺を見つめてから、オーバはにかっと笑った。

「返事くらいしろよ、せっかく遊びに来てやったんだから」
「四天王さんも暇だな」
「開口一番がそれかよ…」

 呆れながら赤いアフロをもさもさと掻くオーバ。こんな俺に飽きもせずちょっかいを出してくるのなんてこいつだけだ。
 たとえばご飯を食べてなきゃ食べさせてくれるし眠れなければ眠るまで一緒にいてくれる。言葉がほしいならほしい言葉をくれるしおまけに笑顔もくれる。生きたかったから、「死ぬな」って、言ってくれた。
 どれだけ困らせたって悩ませたってオーバは俺に「生きろ」ってメッセージをくれる。今だってそうだ。

「で? 飯どうすんだ? どうせまた食ってないんだろ」
「ん。オムライスがいい」
「オッケ、ケチャップでエレキブルでも描いてやるよ。今つくっから待ってろ」
「はーい」
「返事だけは宜しいようで」

 そう言って台所に向かうあいつの背中を俺はじっと見つめていた。



 あいつとの他愛ないやり取り。それが俺という細胞の塊の生存因子。





ンドサイトーシス
(死なせて、くれない)





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2010.10.04
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