缶や瓶が卓袱台とその周辺にずらりと並んでいる。よくもまあこれだけ飲めたなあ、なんて頭の隅で考えるけれどそれももう難しい。何故これほど飲むに至ったかすら思い出せないくらいだった。何故かと言えば、酔いが回っていたから、で。

「も、いっぽん、くれぇ」
「もうないって」

 僕以上に、ミナキくんの酔いの方が格段にひどいらしい。彼は、呂律すら危うい口調でアルコールを所望していた。
 僕の周りには空き容器しかない。恐らくミナキくんの周りにも空のものだけだろう。それを確認してからそう告げると、彼は卓袱台にぐったりと突っ伏した。

「マツバぁ」

 片手を力無く上げて僕の名を呼ぶミナキくん。それに「なんだい?」と返しても彼は、依然として僕の名前を繰り返すばかり。あーあ、完全に出来上がっちゃってる。

「マツバ、マツバ……私は」

 もごもごとした口調で続いた言葉に耳を疑う。今、なんて? 僕も酔いがかなり回っているから、きっと聞き間違えに決まってる。なんて自分に言い聞かせていたが、その必要は次の一瞬でなくなってしまった。

「お前が、すきだ」

 伏せていた顔をがばりと上げて、今度はしっかりした口調。向けられた眼差しに、不覚にも僕の心臓はドキリと跳ねた。
 ミナキくんは酔っている。酔っ払いの戯言だ。真に受けちゃいけない。先程までの酔いのせいもあって、思考が上手く働かない。
 すきだ、なんて、今言うことじゃないじゃないか。

「わ…っ、ミナキくん?」

 自分の思考回路に夢中で気付かなかったが、いつの間にかミナキくんは立ち上がっており、ついでに言うと僕のすぐ隣までやって来ていた。
 次の瞬間、世界が回った。
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。背中に柔い衝撃、それから目の前にはミナキくん。その奥には天井が見えた。思考が追いついた頃には既に遅し。
 つまり僕は、押し倒されたらしい。
 どうすればいいのかを、回らない頭で考えてみるけどやっぱり分からない。

「み、ミナキくん……?」

 とりあえず声をかけてみるけど、相変わらず彼は酔った眼差しをこちらに向けるだけ。どいてくれないかな、と試しに押し返してみてもそれは意味を成さなかった。
 暫くその体勢のままだった。あまりにも近すぎる彼との距離と、酔いのせいで頭の中はめちゃくちゃだ。気まずさで妙に速まった鼓動が気持ち悪い。

「……っ」
「ミナキくん?」
「ダメだ、無理だ」
「?」

 不意に身体にのしかかっていた重さから解放された。無理だと言ったミナキくんはそのままソファにダイブして、それきり起きあがらなかった。寝息が聞こえることから、どうやら眠りに就いたようだった。

「……」

 一人取り残された僕は、ばくばくと変に暴れる心臓と、くらくらする頭のせいで、朝方まで眠ることができなかった。





くらくら





「ミナキくん、昨日のことなんだけど……」
「それがだなマツバ、私はどうしてソファで寝てたのか思い出せないんだ」
「覚えて、ないのか?」
「何のこと……ってマツバ、何か機嫌悪くないか?」
「……別に」





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10.09.14
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