※デンジ→オーバ(オーバ不在)





 身体がやけに重たくて暑苦しかった。纏わりつく熱を振り払うように身体を捩るが、ほとんど意味はない。滴る汗が生温く湿って気持ちが悪い。
 逃げ出したいのに、逃げ出せない。

(……っ、オー、バ?)

 内在する熱と裏腹な冷たい頬にへばり付く髪を剥がして薄目を開く。けれどそこには誰もいない。ただ俺一人だけがシーツの上で寝ていた。
 白いそれは滲んだ汗で湿り、捩った自らの肢体に合わせてくしゃりと歪んでいた。よれたシーツを乱暴に直して溜め息をひとつ。ぐしゃりと掻いた髪の毛は濡れていてひやりとした。
 何回こんな夜を繰り返せばいい? 何度こんな思いをすればいい?
 ……こんな、こんな。
 誰のせいでこんな惨めな思いをしているかと言えば無論あの糞アフロだ。あいしてるなんて言ったくせに、キスして、抱いて、それからまた旅に出ていきやがった。挙げ句の果てに帰ってくることはおろか、連絡すら寄越しやしない。
 それ以来、俺の、よく分からない熱病みたいな何かに魘されて眠れない日が続いている。

「あー…くそ、」

 舌打ってから、ぐちゃりとした水音をたてそうなほど濡れそぼって重たくなった髪を再び掻く(というよりは握るの方が正しいが)。
 どうして俺がこんな思いをしなきゃならないんだ?
 先に想いを寄せたのはあいつの方だったのに、いつの間にか俺の方があいつに想いを寄せていた。だからこんな思いばかりしなきゃならない。くそ、くそ。
 揺れる陽炎のように、あいつの熱が俺の身体に纏わりついて離れない。
 陰ることを知らない、あいつの残り香が俺の鼻腔にくっついたまま消えない。
 もうあまり明瞭に思い出せない、蜻蛉みたいになってしまったあいつの姿が瞼に焼き付いてゆらゆらと同じ仕草を繰り返す。
 それらは、幾度も幾度も夢の中で俺を惑わすのだ。
 蜻蛉のオーバが俺を確かにその腕で抱き締め、キスをし、それから諸事を行う。上り詰めようとすると、夢うつつは霧散し現実に引き戻される。……全くもって嫌な兆候だ。
 あの赤いアフロと底抜けに明るい笑顔だけが取り柄のあいつに、俺は心底惚れ込んでしまっていたらしい。それこそ無意識のうちに精神が自慰を行うほどに。
 改めて気付かされた感情にむしゃくしゃして、枕元のシガレットケースに手を伸ばす。

「……こんなつもりじゃ、なかったんだけどな」

 暗闇に煙る小さい赤と溜め息とともに揺らめく灰。そうやって俺の肺は汚れていく。俺も、汚れていく。だけれどそれが何よりも落ち着くのだ。
 オーバにあいされて、忘れられなくて自分を慰めて、きっと俺は道徳的な人間からはどんどんどんどん遠ざかっていく。けれど、それでいいのかもしれない。否、きっとそれでいい。それだけ俺はオーバに陶酔しているのだから。それは恐らく、どんなに慈悲深い神様の与える愛よりもふかいと言えなくもないのだから。だから、いい。
 だがひとつだけ言うとしたら――。

「早く帰ってこい、オーバ」

 呟いてぼすんとベッドに倒れ込んで、暗転。人をあいしてみるのも、悪くはないのかもしれない。





ろう、




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2011.12.28
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