※ライバルの名前は便宜上カナデにしてます 「そう言えばさあ」 偶然(という名の必然)に街中で出会ったコトネが不意に声をかけてきた。鈴のような澄んだ声が隣で響く。俺は視線を彼女に寄越すことなく「何だ?」とだけ返す。 「わたしたち、よく会うよね」 「……まあな」 「ウバメの森とか、ロケット団のアジトとか、それからチャンピオンロードにおつきみやま……」 コトネはつらつらと俺と遭遇した場所の名前を挙げていく。その大半が造られた偶然であることも知らずに、彼女は楽しそうに話す。その笑顔に多少の罪悪感は覚えるが、それでもその偶然を享受してくれるなら幾らかはマシだ。 「すごい偶然だよね」 「……だな」 「実はわたしたち、運命のあかい糸で結ばれてたりして」 その言葉に思わずぶふっ、と盛大に吹き出してしまう。それを見てコトネは、手をぱたぱたと仰ぎながら「やだなあ冗談だって」と言ってからから笑う。 「だ、だよな」 「ふふっ、カナデってやっぱり面白い」 「は、どこがだよ」 面白い? 俺が? からかわれているんだろうか。ちらりとコトネに視線を遣ると案の定、彼女は笑顔。笑いながら「うーんとねえ」と腕を組んでいた。 「やっぱり分かりやすいところ、かな?」 「!」 「ほら、その顔」 ぎくりとした俺に、ビシッと指を向けるコトネ。俺の顔が何だっていうんだ? 少し眉を顰めると、彼女は「初めて会ったときより、ずっとずっと表情が豊かになったよね」と続けた。 「わたし、そんなカナデがすきだよ」 「……は?」 「ほら、ちょっと嬉しそうだもん!」 それだけ言うと、コトネは俺の反論も聞かずに「じゃあまたね」なんて残して駈けていく。待てよなんて追いかける隙もなく、みるみるうちにコトネは人混みに紛れていなくなってしまった。 そうして俺はまた、偶然という名の必然を造りにかかるのだった。 everlasting lie (ずっと続く、うそ) -------------------- 10.09.07 |