天恵物語
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第十章 17-2

カレンがナムジンとポギーの手当てをしているのを視界の端に捉えながら、リタはシャルマナの杖を避ける。物理的な攻撃をかわすのは簡単だ。だが、シャルマナは魔法を得意とする。厄介なのは呪文での魔法攻撃だった。避けにくい上、何の呪文がくるのか直前まで分からない。
シャルマナが杖を振ると、突風が巻き起こった。体の小さいリタやレッセは、踏ん張って耐えるのがやっとだ。
その間にも、シャルマナは次の攻撃をしかけてくる。
レッセは突風のせいで視界の悪い状況の中、シャルマナが杖を振る動作に注視する。


(あれは……マヌーサか?!)


シャルマナの杖の振りに見覚えがあり、相手の攻撃を先読みしたのだ。呪文を得意とする魔法使いだからこそ出来る芸当だ。


「皆下がって……!!」


レッセの言葉に、リタとアルティナが弾かれたようにシャルマナから跳び退く。
レッセは急いでマホカンタを唱えた。この呪文は完全に攻撃呪文を弾いてくれるが、それは一人だけ――つまり自分しか防ぐことが出来ない。
弾いた魔法が跳ね返り、シャルマナは幻を振り払うのに注意がそれた。今がチャンスとばかりに一斉に攻撃を仕掛ける。リタとアルティナが打撃を加え、その間にレッセは呪文を唱える。


「……メラミ!」


レッセの杖の先から火の玉が撃ち出される。シャルマナへと向かったそれは、ごうっと音を立てて燃え上がり、確かな手応えを感じた。
しかし、ダメージを与えはしたもののさすがにトドメを刺すまでに至らない。レッセは思わず顔をしかめた。


「ダメだ、あまり効いてない」


「魔法に耐性があるようだな」


剣を構えながらのアルティナの言葉に、リタも頷く。


「武器で攻撃した方が良いかもしれない。でも、相手は魔法を使うから気を付けないと……」


相手も魔法の使い手だ。魔法によるダメージは物理攻撃のそれに比べれば明らかに軽減されてしまっている。……となれば、自分は攻撃よりもサポートに回った方が良いだろう。それなら、とレッセは杖と目線をシャルマナに向けたまま言葉を発する。


「僕が、サポートに回ります。そしたらリタとアルティナは攻撃に専念出来ますか」


レッセは学院で武器を使った授業などほとんど受けなかった上、杖は攻撃するための武器として能力が乏しい。しかしその分、魔法や呪文についての勉強は人一倍してきたつもりだ。
レッセの提案に、アルティナはニヤリと口元を歪めた。


「へぇ、そりゃ頼もしい限りだな」


「だてにエルシオン学院で首席だったわけじゃないよ」


強気になってアルティナに言い返すが、不安がないわけではない。見栄も良いところだが、そうしていないと不安ばかりが募って出来ることも出来なくなってしまいそうだったから。これ以上、皆の足を引っ張りたくはないし、冒険者初心者だからと状況に甘んじることもしたくはない。
そんなレッセの心の内を読み取ったわけではないだろうけれど、やり取りを聞いていたリタは微笑みを浮かべた。


「そうだね……頼りにしてるからね、レッセ!」


「う、うん」


向けられた瞳の温かさに、レッセはドキリとしながら頷いた。自分を信じてくれる仲間がいる。それだけで、自信が湧いてくるようだった。


(ヘマをするわけには、いかないな)


そう思うのは、焦燥からではない。不安を押し退けるような、高揚感。仲間が一緒なら、目の前の魔物にもきっと勝てる。


「どっちかっつーと、俺らの方が頼りになるところを見せないといけない気がするんだがな」


アルティナのもっともな一言にリタは一瞬うっ、と息を詰まらせた。
レッセが仲間に入る以前からずっと冒険をしてきたリタとアルティナである。言わば冒険者としての先輩なのだから、安心させるくらいの働きをしなくては。


「……が、頑張ります!」


意気込むリタの頭をぽんと軽く叩いたアルティナは、一歩前へと進み出る。


「まぁ、これで攻撃に集中出来るしな。補助は任せたからなチビ助」


「この期に及んでチビ呼ばわりなわけ?!」


いつも通りにレッセが噛みついたところで、別の声が飛び込んだ。


「ごめんあそばせ、私も入れていただけるかしら?」


「カレン!」


ナムジンとポギーの手当てをしていたカレンが駆けつけた。カレンは早速、回復呪文を唱えて三人の負った怪我を治してしまう。


「ナムジンさんが目を覚ましましたわ。ポギーを看てくださってますし、これで私も戦闘に参加出来るというものですわね」


そう言って、茶目っ気たっぷりの笑顔で槍を構える。


「必ず倒してみせましょう!」


回復役も揃った。勢いに乗るリタ達を、シャルマナはふんと鼻を鳴らして一蹴する。


「一人増えたところで同じことじゃ。わらわを倒すなぞ百年早いわ!!」


「それはやってみないと、分からないんじゃないかな」


しっかりとシャルマナを見据えたレッセが首を傾げて答える。会って間もないだとか、あまり喋ったことないだとか、そんなことは気にしない。
相手は倒すべき敵。ただ、それだけだ。









(呪幻師との戦い)
17(終)



―――――
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