バンっと、強い音と共に、太刀川隊の作戦室に戻ってきたのは、出水とさあら。
出水に腕を引かれながら、その背中に体を隠して入ってきたさあらに、国近は首をかしげる。

「どしたどしたー?」

ゲームから顔を上げると、出水は国近の視線の先ですごく不機嫌そうな苦々しい声をあげた。顔もかなり怖い。

「柚宇さん、ちょっとパーカー貸して」
「え、良いけど。どうしたの?」

着ていた太刀川隊のロゴ入りパーカーを脱いで、それを出水に渡しつつ、出水の背中に貼り付いているさあらをよくよく見る。
すると……

「え。さあら、なにそのかっこ」
「柚宇ちゃぁぁん」

出水によりパーカーを着せられつつ、涙声のさあらが結宇を呼ぶ。
その彼女の格好は、頭には黒の猫耳。上の服は、ほぼ水着か下着か、と言ったレベルのフリルとレース多めの黒のチューブトップ。ばっちりへそ出し。下はこれまた布の多めの黒の何重にも重なったフリフリのスカート。丈がかなり短くて、その上猫の尻尾までついていた。

「……どこのエロゲー?」
「それな」

パーカーのファスナーもきっちり上まで出水に締められて、少しだけ露出度の下がり、少しホッとした様子のさあらは、はぁああと大きなため息を吐き出した。

「一体なにがあったのー?」

そりゃぁこんなに露出度高い格好をさあらがしてたら、あの束縛の鬼出水が黙ってるわけがない。
かといって、さあらが自分からこんな格好をすることもないだろうということで、国近は訳が分からず首を傾げた。

「なんかね、きょうね、ハロウィンでしょ?」
「そのせいでトリガー起動すると、ランダムで変なコスプレをさせられるって」
「変なシステムを開発部が組み込んだらしくて……」
「俺らそれ知らなくて、ラウンジで換装したらこんな羽目に」

あーそれはやばいだろうねぇ。と国近はため息を吐き出した。
平日の午後のラウンジはかなりの人がいる。その中で、この格好に、さあらがなってしまったなんて。そりゃぁ、出水が黙っているわけがない。

「ちょっと、俺ラウンジにいるやつ全員片っ端から蜂の巣に……」
「まてまてまて。いずみん落ち着いて」
「なんでっすか」
「不運な事故だったわけだしね?ほら、さあらもなんとかいって」
「もうしばらく外に出れない。もうむりやだ」
「あー!こっちはこっちで!さあら大丈夫、かわいいから元気だして」

助けて、慶さん!そう思ってしまうのもしょうがないだろう。
国近は、いつになく真剣に、まだ現れていない自分の隊長を強く呼んだ。



「ん?なにしてんだ」
「慶さん!」
「お、さあら。大当たりか。クソかわいいな」

国近の心の声が届いたのだろうか。遅れて顔を出した太刀川に、国近がはずんだ声をあげた。が、太刀川の視線は、国近を通り越して、奥で出水になぐさめられているさあらを追っていた。

「おおあたり?」
「そー。さっきまで個人ランク戦してたんだけどな。ミイラ男とか、ゾンビとか、かわいくねーしうっとおしいのばっかでさ。それに比べてうちのさあらの可愛いさったらねーなぁ」
「まぁ確かにすげーかわいいですけど」
「うん、かわいい。にあってるしねぇ」

めそめそしていたさあらは3人からの言葉にようやく顔を上げた。

「ほんと?かわいい?」
「おー。文句なくかわいい」
「かわいいのは間違いねーわ」
「すごいかわいいよー大丈夫だよー」

よかったぁと、ふにゃりと笑うさあらに、3人の顔が緩むのは止められない。

「けど、ラウンジでこんな格好をさせやがった開発部は許さねー」
「いずみん、落ち着いてって。ほら、慶さんもいずみんになにか言って」
「え、何さあら、ラウンジでこんなエロいカッコになったのか?」
「そうなんすよ、どいつもこいつもジロジロさあらを見やがって」
「それはダメだろ。よし出水、あとでラウンジの奴全員ぶった切りにいくぞ」
「出水りょーっかいっす」
「えええええ」

ぐっと腕を突き上げて、頷き合う隊長と天才射手を止められるものはもういない。
国近は、もう諦めて、ラウンジの人々に早く逃げてと、届かない祈りを捧げた。



「さあら先輩!!」
「うるっせーぞ、唯我」

祈る国近が顔を上げると、同時に。バンっと、隊室に飛び込んできたのは太刀川隊の最後のメンバー、唯我だった。
その手に握られているのは、彼のスマートフォン。

「これ!これどういうことです!?」

そして、そのスマートフォンには……さあらの露出度の高すぎる例の写真。どうみても隠し撮り。

「おい、この画像」
「……どこで手に入れたその画像」

スマートフォンを覗き込んだ太刀川と、出水は、地の底から響くような低い低い声を上げた。唯我はその声に、ひいいいと背中を震わせ、逃げようとしたが、太刀川と出水のコンビから逃げられるはずもない。
あっという間に退路を立たれ、唯我のスマートフォンは、出水の手の中。やむを得ず、画像の入手先を告げる。

「ラウンジでこれを見せびらかしている人が……」
「よし、殺す」
「おっけー、手伝うぞ。出水」

バキリ、と無情な音がして、唯我のスマートフォンにヒビが入る。が、懸命にも唯我は黙っていた。何しろ太刀川と出水からは本物の殺気のようなものが漂っていたから。

唯我が、そっと国近を見ると、国近はふるふると首を横に振っていた。
結果、唯我も先程の国近と同じくラウンジを襲う事件に対してせめて命だけは、と祈っておいた。





「おかえり」
「ただいま」

1時間後、太刀川と出水は揃って隊室に戻ってきた。
出迎えたのは猫耳がついたままのさあらだった。

「柚宇ちゃんと、唯我は今ジュース買いに行ってる」
「おー」

ふう、とソファーに体を沈めた太刀川と出水に、さあらは後ろからそっと近付いた。

「ねー、慶さん」
「ん?どうした?」
「ねー、公平」
「んだよ」

「トリック・オア・トリート?」

やられた。
出水も、太刀川も、耳元で囁かれた甘い声に、自分の耳まで赤くなるのを自覚しながら。
更にソファーにその体を深く沈めた。

はっぴーはろうぃん


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