そういえば今日ホワイトデーだっけ、ふとそう思い出したけど。きっと公平は覚えてないだろうな、と少しだけ残念な気持ちを胸の奥にしまいこんだ。
あと一時間程で始まる夕方からの防衛任務が終わることには夜中だし、今の今までホワイトデーのホすらも匂わせていない恋人に、彼女は少しだけ面白くないと頬をふくらませた。
そんな恋人は、結局今もいつもと変わる様子もなくA級三馬鹿と呼ばれるいつもの面子と模擬戦をしていた。
「公平のばーか」
誰に聞かれることも無い小さな声は、本当に誰にも届かず消えていった。
防衛任務を終えて、手を繋いで公平と向かうのは自分の家。帰りなれた道をマフラーに顔を埋めながら歩く。
3月だというのに今日は随分と寒かった。
「あーさみぃ」
「ね」
「換装して帰りたくなるよな」
「うん」
忘れられたホワイトデーに心がチクリチクリとするから、さあらはいつもより口数が少ない。勿論そんな様子に、出水も直ぐに気がついたようだった。
「機嫌わりぃな、なんかあった?」
「べつにー」
首を傾げる出水に、さあらは漏れるため息を我慢できそうになかった。
「なぁ、こっち来いよ」
家の温かさに包まれて気がつけばホワイトデーのことなんて忘れていた。その時、呼ばれてリビングのソファーに近付くと手を引かれてそのまま出水の膝の上に収まって、さあらはなぁに?と声を上げる。いきなりだったので、少しだけその声には不機嫌さが滲んでいたが、出水はそれを綺麗に無視してどこからともなく小さな箱を後ろから抱き込んだ恋人の膝の上に乗せた。
「……」
「今日1日、これ気にしてただろ」
「……公平ぃ」
「泣くなって」
「ありがと」
「イライラしてるお前が珍しくてつい意地悪したごめんな?」
「しょうがないから許す」
「はいはい」
箱からでてきたのは華奢なチェーンの青い石のついた可愛いネックレス。
慣れた手つきで出水は彼女の首にそれを通した。
「絶対外すなよ」
「うん、外さない」
ホワイトデーにすら自分の誕生石をネックレスに紛れさせたのは言うまでもなく出水の独占欲の現れ。
嬉しそうに笑うさあらが可愛くてしょうがない。結局、我慢出来ずに彼女を引き寄せて噛み付くように唇を奪った。
ほわいとでー
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