九巻を読み終わって、本を閉じて元の場所に戻し、テオは一巻を手にとった。

神による世界と万物の創造を記す創世書。そして、150年までの歴史が書かれていた。
テオはそこから、二巻、三巻、四巻……と、次々に読み進めていった。

書いてある内容は、ほとんど神父様から教えてもらった歴史と相違なかったが、よく読んでみると所々異なる場所を見つけた。


「なんでだろう……」


うーん、と唸りながら考えていると、ぐうとお腹が鳴った。


「わ、やっべ!」


読むことに集中しすぎて、だいぶ時間が経っていたようだ。もしかしたら、子供たちが逆に鬼のテオを探しているかもしれない。

テオは慌てて七巻を閉じ、元の場所に戻した。カンテラの明かりを大きくし、元来た場所へ戻り、急いで階段を上った。

鉄の扉を明け、最上階のあの部屋に出る。外を見ると、太陽はちょうど真上に来ていた。

ふっとカンテラの火を消し、もとあった場所に置く。

息を整えながらゆっくりと階段を下り、テオは自分の部屋に向かった。


「テオ、おっそーい!」


扉を開けると、子供たちが六人、全員揃っていた。

そして、声をかけてきたのはテオが最後まで見つけられなかったその子であった。


「リーサ! お前、どこにいたんだよ」

「えへへ、この部屋にいたんだよ! ずーっと」


リーサは得意げに言った。


「テオに見つかってここに来たら、もうリーサが居たんだ」


そう言ったのは、一番最初にテオに見つけられたハンス。


「ずりーぞ、リーサ!」

「リーサ、ずるくないもん!」

「いーやずるい!」


やがてリーサと、子供たちの中では一番体格のよい、ガキ大将的な存在のダリルが言い争いを始めた。

まだ年も十に満たない二人のことだ、きっとまた、そのうち手や足の出る喧嘩に発展してしまうだろう。

テオはため息をついて、言い争いの仲裁にはいろうとした。


「や、やめなよ」


テオが声をかけようとして、それよりも前に二人の言い争いを止めようと、仲裁に入った子がいた。


「喧嘩はよ、良くないよ」

「うるさいぞ、コニー!」

「そうよ、コニーは黙ってて!」


しかし、コニーは二人に邪険にされ、今にも泣き出しそうなほど涙目になってしまった。

テオは呆れたようにため息をついてから、コニーに近付き、そっと頭を撫でてやった。


「おい、二人とも、コニーの言う通りだぞ。いい加減にしないと、神父様に言って昼飯抜きだぞ」


ぴたりと止む言い争い。ダリルが拳を振り上げているところを見るに、もう少しで手を出すところだったようだ。

ダリルは行き場を失った手を渋々下ろし、リーサは決着を付けられなかったことに不満そうに唇を突き出していた。コナーはホッとしたような表情でテオを見上げた。


「よし、昼飯食いに行こうか。ダン、アンナも、行こう」


部屋の奥で、ソファとベッドに不安そうな表情でリーサとダリルの喧嘩を見ていた二人も呼んで、テオたちは食堂に向かった。










次の日、テオはもう一度あの歴史書を見に行こうとしていた。今日は都合良く神父様が居らず、シスターも少ないからだ。

カンテラの油が残り少なくなっていたので、残っているシスターに貰いに行くと、こんな昼間から、と訝しまれたけれど、今夜星を見に行くのだと苦し紛れに誤魔化した。

教会の最上階の部屋へ向い、鉄の扉の前に立つ。カンテラには十分に油を注ぎ、空になったビンはカンテラの置いてあった場所に置いておいた。

テオは、カンテラの明かりをつけてから、鉄の扉を明け、一歩一歩下りて行く。

そして、また開けた場所に出た。目的の本棚は、ここから八つ目。順番に数えながら進む。


「ここだ……」


八つ目で足を止め、本を見る。昨日の続きを読もうと、八巻を手にとった。

昨日読んだ九巻を飛ばして、十巻、十一巻と読んでいき、最後の他の本よりやや薄い十二巻を手に取り、テオはまた床に座った。カンテラで本を照らし、文字を読む。


「……1687年、今年か」


ページをめくり、テオは呟いた。そこには、今年世界中で起こったことが書かれていた。知っていることもあれば、知らないこともある。


「ん?」


ざっと目を通しながら読み進めていくと、三ページめくったところでテオの手が止まった。


「1688年?」


来年起こることが決まっているはずがない。何が起こるかわからない未来、しかし、そのページはぎっしりと小さな文字で埋まっていた。

テオは中身を読まず、一ページずつ最後までめくっていった。


「1695年……」


それが、最後の項目だった。1695年の項目には、他の年とは違い、一文しか書かれていなかった。いや、年が1695年に近づくにつれて、各年に書かれていることがどんどん少なくなって来ている。

テオは、1688年のページに戻り、その内容を見ながら思った。

これは、未来に起こると予想されることが書かれているのだと。

即ち、未来の予言。

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