少年、テオは、教会内の掃除を、自分と同じような孤児の子供たちと一緒に掃除を終わらせた後、年下の子供たちの遊び相手をして、隠れんぼをしていた。

とてもとても大きな教会のため、隠れる場所には困らない。しかし、制限時間のお昼までまだ時間はある。隠れんぼの鬼であるテオは、ゆっくりと教会の廊下を歩いていた。

一つ一つ扉を明け、誰もいないのを確認すると、次の部屋へ。それをずっと繰り返し、今までに五人見つけた。見つけられた子は、テオの部屋に集まることになっている。

そうして、教会の中央の塔の最上階に着いた。まだあと一人、見つかっていない。


「おっかしーなぁ」


テオは頭を掻きながら、部屋を見回した。ここには誰もいなさそうだ。どこで見逃したのだろう、と考えながら念のため部屋の奥へ進む。


「ん?」


真ん中に石の壁があり、ドーナツ状になっているこの部屋のちょうど扉とは正反対の場所で、真ん中の石の壁に扉があるのを見つけた。


「なんだろ、これ」


長年教会にいたが、滅多に来ない最上階の部屋。しかも入口からは死角のこんなところにあっては、本当に今日のテオのような偶然がなければ見つけられなかっただろう。


「地下の扉に似てるな」


神父様やシスターたちから、決して近づいてはいけない。決して開けてはいけないと言われている、地下へと繋がっているらしい扉に、とてもよく似ていた。いや、一階にあるそれと、同じかもしれない。

テオはそっと、鉄の扉に手を添えた。窓からの日光はぎりぎり届かず、鉄の扉はひんやりとしていた。

テオはふと、興味がわいた。

この先には何があるのだろう。神父様の秘密でもあるのだろうか。

旺盛な好奇心は、テオを扉の先がどうなっているかを想像させるに留まらせなかった。

ここは最上階。まさか、地下につながっているわけがない。扉は、ただ似ているだけだと結論づけ、テオは扉を開けた。


「……、」


扉の向こう側には、降る石の螺旋階段が続いていた。

テオはゴクリとつばを飲み込んだ。

部屋に置いてあるカンテラを手に取り、油が残っているのを確認すると火を灯した。

お昼まではまだ時間がある。

テオは階段を、一歩一歩、しっかりと確認するように降り始めた。鉄の扉が、彼と外の世界を遮断した。


コツ、コツ、と靴が石を叩く音を聞きながら、テオはカンテラで足元を照らし注意深く階段を下りる。もう、どれくらい降りただろう。大分長いこと下り続けている気がした。

もしかしたら、地下につながっているのかもしれない。

ふとそんな考えが浮かび、テオは足を止めた。続けて、好奇心がわく。

胸中では不安と恐怖、好奇心がせめぎ合う。


「少しだけ、少しだけだ」


そして、テオは神父様やシスターたちに見つからないうちに、少しだけと心に決め、再び歩き始めた。彼の地下への好奇心に、神父様の言いつけや暗闇の恐怖が負けたのだった。

そこから少し行くと、階段は終わり、テオは開けた場所に出た。

そこは少し埃っぽくて、鼻を通る空気は冷たい。


「ここが、地下……?」


テオは、カンテラの明かりを大きくし、高く掲げた。


「うわぁ……」


すると、見えてきたのは本棚だった。たくさんの本が詰まった本棚が、たくさんあった。

今テオが見ているものは、きっとこの部屋の中にあるほんの一部でしかないに違いない。カンテラを左右に向けても、部屋の端は見えてこない。


「すげぇ……」


テオはゆっくりと部屋の奥へ進む。

本棚は、本当にたくさんあった。順番に数え、八つ目の本棚のところで、同じような景色に飽き、テオは進むのをやめた。そして、カンテラの明かりを少し小さくし、手近な本を手にとった。


「重、」


分厚い本は埃をかぶっており、ふっと息を吹きかけると埃が舞った。

カンテラと本で両手がふさがっているため、テオは目を瞑って埃が収まるのを待った。

そろそろ、と思い目を開け、カンテラの明かりで本を照らす。

本は深緑色の装丁に金色の文字で、

『History of the old world』
9:1201〜1350


と書かれていた。


「旧世界の歴史、九巻……」


カンテラを本棚に近づけると、この本は一巻から十二巻まであった。

今年は帝国歴627年、この教会で信仰する宗教の教典によると、1687年だから……大体400年くらい前、聖戦のあったころか……

神父様から教わった歴史を思い出しながら、テオはカンテラを床に置き、自分も床に座り込んだ。少し冷えるが、我慢できないことはない。

本をカンテラの傍に置き、表紙を開く。目次があったが、無視して適当なページを開いた。


「1283年、ローズハリストス王の南征、帝国ゴルティガが将軍アレッソ率いる帝国軍一万を以て隣国イストワールへ進撃、イストワール北方防衛部隊八千を相手に開戦。リュドミーヤ戦争、女騎士リュドミーヤの活躍により、リラ王国とイゴール神国との国境を廻る小さな揉め事から始まった争いはリラ王国の圧勝に終わり、敗北したイゴール神国はリラ王国に吸収された」


そこからは口には出さず、流し読み程度に読んでいった。


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