::来週どこ行く?


 散歩の帰り道にたまたま立ち寄った旅行代理店で、目的もなく沢山のパンフレットを持ち帰った。何処かに旅行をしたい訳でもない、読んで未開の地に思いを馳せたい訳でもないが、ちょっとした暇つぶしにはなるだろうと夏の陽射しが照りつける杜王町の駅前を歩きながら美しい景色の写るページをめくっていた。
 そして「ドゥ・マゴ」のオープンテラスの前を歩いていた時に、丁度学校帰りに寄り道をしていた伊緒、要、碧の姿を見つける。柵に寄り掛かり「テスト期間の寄り道は指導対象、って本当?」と声をかければ、伊緒の肩が跳ね、要が大学ノートに「驚かさないでください」と綺麗な文字で書いて見せた。

 「みんなでお茶会?」

 「…というか、暑くて冷たいものを求めてここに来たっていう方が正しいのかも」

 汗をかいたアイスティーのグラスを持ち上げてみせる碧。この暑さなら、冷たい飲み物が欲しくなるのは当たり前だ。
 ナマエもそろそろ喉が渇いてきた所だったので、三人に許可を得て相席させてもらうことにした。店の扉を開けて出迎えてくれたウェイトレスに案内を頼み、アイスコーヒーの注文を彼女の髪型についての感想と共に口にすれば、碧と伊緒からは呆れられた目で見られる。

 「君たちも可愛いからそんな顔しなくても」

 「もうそれは聞き飽きた」

 「ナマエのお陰で口説き文句にも動揺しなくなったなー、あー感謝感謝」

 白々しく棒読みで話す二人の言葉に頷く要を見て、これは参ったなと苦笑する。
 木製でクッションの固い椅子に腰掛けて、荷物になっていたパンフレットたちをテーブルの上に置く。平日だからか空席が多く、長居しても迷惑はかからなそうだ。

 「綯子たちも呼んでいいかな」

 どうせなら沢山人を呼んでお茶にしよう、と提案すれば、それに文句は出てこない。メールで綯子と連絡を取り合い、彼女の人望で数名増えることを期待してナマエは氷でキンキンに冷えたアイスコーヒーのストローに口をつけた。



 結果、8名もの大所帯になった。
 テーブルをくっつけて、適当に食べ物も追加して立派なお茶会へと変わった。
 そして女子がこんなにも居れば自然と話題が尽きないもので、学生同士の恋バナ、仕事関係の愚痴など話題は次から次へと変わっていく。ナマエは人の話に茶々をいれながらチョコレートパフェに舌鼓を打っていたが、ビーの「ナマエはイギリス旅行をしたいの?」という問いから、旅行の話に変わっていった。

 「旅行なら、うちの国もいいと思う。治安はそこそこだけど、見るものは色々ある」

 「ああ、ベニスとかローマとか。北は巡業で行ったことがあるけど、南はまだないね」

 ベニス、という言葉を聞いて同業者のギアッチョを思い浮かべるタッツィーナ。彼がこの場にいたらヴェネツィアだと訂正しお茶会は台無しになるのだろうと想像しつつ、アイスティーに口をつける。
 イタリアもイギリスもアメリカも、首都やそれに近い大都市なら昔所属していたサーカス団の公演の関係で行ったことがあるのだが、今自国自慢を始めた彼女らにそれを言えば水をさすことになるだろう。
 それに、ここに居る人間の殆どが海外へ行った経験がある。

 「えーっと、伊緒とランと碧は、エジプトまで言ったんだっけ?」

 ナマエがそう振れば、三人は様々な反応を示した。
 エジプトへの旅で好きな人を見つけられた碧は、あまり表情に出さないようにしているが、旅のことを思い出して少し笑みが見える。しかし元々自分の想い人とは知り合っていた伊緒は、色々と振り回された日々を思い出して苦い顔をしている。ランも、それに近いのかもしれない。

 「ラクダでの旅とか羨ましいなァ」

 「ううっ…ただ暑かった思い出しかない…」

 「動物園で体験するような気楽なものじゃあなかったからな」

 「でも、インドとかシンガポールはそこそこ楽しかったかな」

 カマをかければやはり予想通りの感想が返ってきた。普通の旅行としてもなんだかエジプトはめんどくさそうだな、と思い見ていたパンフレットをテーブルに置く。

 「そうそう、君たちは、これから好きなヤツと旅行に行くのなら何処に行きたいわけ?」

 ナマエがニコニコと人の良さそうな笑みを選んでそう言えば、顔を赤くして抗議するものが数名。

 「綯子は?どこ?やっぱりジャイロの故郷のイタリア?」

 「そ、そりゃあもちろんイタリアは普通に旅行に行きたいけれど…!」

 「ジャイロは今週末に一度帰省するらしいってジョニィから聞いたし、一緒に連れてってもらえばいいじゃないか。うん、すごくいい」

 色々と下世話な二人旅を想像していたら「ナマエ、そのまま両親にご挨拶とか想像してそう」と要にノートで突っ込まれる。
 全くその通りであった。
 「意外と私と気が合うのかもね」と笑みを投げかければ、要はランに守られるようにして抱き寄せられ、「全く逆じゃないか」と胡散臭いものを見るような視線を送られた。

 「それじゃ、ランはどうなの? ジョータローと何処に行く?有数の温泉で一つの布団でやらかしちゃう?」

 「どうしてそっちに持って行くんだ…」

 「いいじゃないか。別に。そうだな、じゃあ、ビーはスピードワゴン氏とサンフランシスコでのんびりしてひと時のバカンスを楽しみ、碧はポルナレフとフランスでもどうだい? フランスがいい所なのは保証するし、彼なら案内も上手いんじゃあないか」

 「ボスとそんな…私は働いている方が性に合いますし」

 「ボスを休ませてあげるのも君の役目じゃあないか。ね、そうだろ?」

 「そう言われてしまっては返す言葉がない」

 ビーは口をモゴモゴさせる。

 「それで…うーん、要と伊緒は難しいなあ」

 花京院が遠出するイメージが湧かず、そして要の雰囲気がどこの国に似合うか決めかねる。すると復活した綯子が「要ちゃんはイギリスとか似合いそうな気がする!」と数あるパンフレットの中からロンドンのものを手に取る。

 「ロンドン?」と書いたノートを、「なぜ?」と問うように綯子に見せる。
 そして綯子はページを捲り、大英博物館や有名な赤いバスを見せ「ここ、要ちゃんっぽいなーと思ったの」と熱弁してみせる。

 「それって、つまり」

 「深い意味はないと」

 タッツィーナとランがそう締めくくる。要は苦笑しつつ、「そういうナマエは何処に行きたいの?」とノートを見せてくる。

 「私?別に、だいたい行ったことあるからね。それに、週末にケンタッキーダービーの応援に行くし」

 「…金持ちめ」

 「じゃあ伊緒も花京院の家に行ったらいいじゃないか。週末、とも言わず、今日これからでも」

 ニヤリと笑ってみたのだが、伊緒はキョトンとして望んでいる反応を見せない。拍子抜けして隣に座るタッツィーナに「マジにあれ言ってるのか」と聞けば、「超がつくほどのアレだもの」とクッキーを紙ナプキンに包み手に取った。




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現パロのような、そうでないような世界の杜王町でのお茶会になりました。夢主全員可愛かったので楽しく書かせていただきました、ありがとうございます。