::彼氏欲しい


 どうしてこうなったのか。
 そんなことを考えながらまた、珈琲に口をつけた。目の前の皿には、マカロンやケーキなんかが盛り付けられ飾られている。イギリス式のアフタヌーンティーの盛り付けかたに似ている。
 普段では考えられないほど、ふわふわと可愛らしくてつい口元が緩む。
 けど、ここがどこなのかという疑問は解明されないまま。
 取り敢えず目に見える悪意や害意は感じないものの、知らない人たち……それも、大体が年下の女の子という、普段関わる人種とは別の人たちに内心おっかなびっくりしてる。
 私、なにをすればいいの。

 「……なにを考えているのです?」

 「え、いえ。大それたことは別に」

 英語で話しかけてきたのは、私と同い年くらいだろうベアトリスさん。

 ぎこちないところも気まずそうな素振りもない、堂々たる態度。
 そんな彼女は優雅にティーカップをつまみ上げて紅茶に口をつける。
 手持ちぶさたに手遊びをしていれば、ベアトリスさんはまた口を開いた。

 「……なにか持ってきましょうか?」

 「あ、いえお気遣いなく」

 戸惑ってるだけなのだ、柄にもなく。
 知り合いがいない状況がこんなに緊張するものとは思わなかった。
 普段、いかに交遊関係が狭いかが分かる。
 仕方ないといえば仕方ない。日本にいた時も仕事の関係上休みは少なかったし。イタリアきてからは制限があるし。というか、普段の面子が濃すぎて休みくらい一人でいたいとも言える。
 ……女子としてどうなんだろう、これ。
 もう年齢的に女子と言えるかどうかは別として。気にしたら敗けだ。
 年齢なんぞ気にしたら終わりなんだよ。と内心で言い聞かせるようにしていれば、ランさんがカナメさんと一緒に――先ほど勘定して出ていったものの、どうやらこの空間は堂々巡りしているらしい――こちらに向かってくる。ベアトリスさんに用だろうか。

 「ナマエ」

 「はい?」

 私? とばかりにジェスチャーを送れば、頷かれる。……私でしたか。
 いや、でも私面識ないぞ。

 「カナメがさあ、そっちのマカロン食べたいんだって」

 ランさんに英語で話しかけられる。
 そういえばカナメさんは筆談しかできなかったっけ……。

 「成る程。でしたら、どうぞ」

 日本人らしいカナメさんに日本語で言いながら皿をさしだす。
 と、三人が硬直した。

 「こちらではありませんで?」

 「いや、いや、あってる、あってんだけど……!」

 『ナマエさん、にほんご、』

 ……なんと。そこで驚かれたのか。

 「私日本とイタリアの混血なんですよ」

 「はあ!?」

 大声出された。なんでだし。

 「だってナマエって!」

 「ああ……」

 確かにややこしいかもしれないなぁ、なんて考えて納得する。
 しかし、本当のことを話すのも憚られるし。

 「最近、日本語から離れてたものですから。つい」

 「そーゆーもんか……?」

 「そーゆーもんです」

 ランさんの言葉をまぜっかえすようにして呟く。
 それにしても英語でも日本語でも通じるとは。
 皆さんハイスペックだなぁ。
 美人でかわいくてハイスペックとか。

 「なになに、どしたのー?」

 イオさんがひょこり、と顔を覗かせる。その目には「面白そうかも」なんて文字が見える気がする。

 「いえ、ここは」

 「え!?」

 またか。私はそんなに話せないように見えるか。

 「……皆さん、驚きすぎでしょう」

 「そりゃ驚きますって! 話せたんですかナマエさん!」

 イオさんの声がよく響いたからか、遠くにいたノエルさんやナエコさん、アオさんがこちらを見る。
 皆さん流石に観察力は悪くない。

 「……そうそう、彼氏欲しいですね?」

 悪戯心を出して日本語で言ってみれば、アチコチから吹き出すような音が聞こえてきた。
 キャラじゃない人が言うと可笑しいよね。
 私多分キャラじゃないしね。

 「なになに? ナマエさん気になる人いるの?」

 ナエコさんが興味津々と言った様子で話しかけてくれば、一斉にその話題で花が咲く。

 「いや、支え合える人がいればいいのになんて願望ですよ」

 「確かにそれは思うかも……」

 「お互いにハードな毎日みたいだしね……」

 「いっそ、自分が支える側だけというのは?」

 「ノエル男前すぎだってそれは」

 「支え合うからこそ、また新しく見えてくるのもあるんじゃね?」

 「そこですよね。一方的に甘やかして頂いてるというのはどうも……」

 「いや、私は甘えたいんだけど……」

 おう。流石恋愛話になると花が咲く。意外な人が意外な発言したりとか。
 若いっていいなあ、なんて考えながらフォークでケーキを切る。柔らかい。
 肩を軽く叩かれて振り返ってみれば、カナメさんがボードを持っていた。

 『ナマエさん』

 「……? なにか?」

 マカロンはさっき彼女の皿にのせたはずだ。

 『気になる人、いるんですか?』

 「まあ、いないと言えば嘘になりますね」

 どんな生活してるんだ、っていう意味で。
 あの人たち、本当に生活感ないし。

 「そういうカナメさんは?」

 『え、いや、あの……』

 途中から字が読めない。焦らせてしまったらしい。可愛い。

 「まあ、大事な人がいるっていうのは良いことだよね」

 アオさんがへらりとこぼせば、周りから突っ込まれていた。
 こういう会話って、発言によっては自爆するよなあ。
 そんなことを考えながら、クリームとスポンジを口に放り込んだ。
 柔らかい甘さは女子力の塊。
 つまり、女子会というのは女子力を食べていくものなのか。なんてあほな考えに陥って、思わずにやけてしまう。
 わいわいと賑やかな女の子のおしゃべり。
 話の矛先はどうやらイオさんに向かったらしい。
 色々と質問されて困っている。
 まあ、それを見ているのも、悪くない。
 なんて思いながらまた、ケーキを切り崩した。




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皆様の夢主さんたちが可愛くてどう関わらせてもらおうか……と考えた結果、こんな風にごちゃごちゃしてしまいました……。すみません。でも楽しかったです。
この度はありがとうございました。