Love melting -前編-


「あれ?もう仕事終わったの?」
ボスのベッドで昼寝しようとしていた時だった。珍しい。こんな時間に家に戻ってくるなんて。
「いえ、また戻りますよ」
「そうなんだ...」
ぽすりと枕に顔を伏せると、優しく頭を撫でてくれた。大きな手のひら。あたたかくて、心地いい。
「残念そうですね」
「だって...」
「ふふ...1時間程いるつもりですよ」
「ほんと?!」
嬉しくて顔を上げると、にっこりと微笑まれて胸がきゅうってなる。
「君が寂しがっていると思って」
ボクの為に時間作ってくれたんだ!
ボスはコートを脱ぎ、シワにならないよう整えてからラックにかけている。その後ろ姿。
少しラフな服装。かっこいい。
「やった...やった!」
ベッドへ腰をかけたボスにぎゅうっと抱きつくと、優しく背中を撫でてくれた。
「甘えん坊ですね」
「えへへ...」
見上げると、そっと微笑まれる。
好き、好き。大好きだ。
全てを包み込んでくれる温かさ。
丁寧に、慈しむように頭を撫でられると、全身が心地のいい感覚になっていく。
ボスと過ごす時間は一等特別。
これだけは誰にも邪魔されたくない。
優しくて、包容力があって、ボクの話をちゃんと聞いてくれる。
そしてそれは、愛し合う時も変わらなかった。
ずっとずっと、ボクを大切にしてくれる。
「あのさ...」
「なんでしょう」
抱きついたまま小声で切り出すと、優しい声色で聞き返される。
1時間、あるなら。
邪な考えが頭に浮かんでいた。
優しくされたい。愛でられたい。
そして...気持ちよくなりたい。
恥ずかしくてモゴモゴと言い淀んでいると、心を読まれたように「おやおや」と微笑まれた。
「昨夜も沢山して差し上げたのに...ふふ」
ゆっくりと腰を撫でられれば、それだけでピクリと感じてしまう。
ボスには全部、筒抜けなんだ。
そう思うとじわじわと羞恥心に蝕まれる。
耳が熱い。
喉がつまる。
「や、やっぱり、いい...」
羞恥に耐えかねてボスの体から離れようとすると、優しく腰を抱かれ引き戻される。
耳元でそっと、囁かれた。
「可愛いですね」
「...っ」
ボスの低くて穏やかで。
色気のある声が、脳に響く。
ただそれだけで、くたりと身体の力が抜けていった。
「いい、だなんて。本当は求めてやまないでしょうに」
誘惑するように囁かれる。
要らない訳がない。
そんなこと、あり得ない。
ボスが与えてくれるものはいつだって、蕩けるくらい気持ちがいいものなのだから。
けれども恥ずかしくて...とても答えられなかった。
顔が赤くなっていくのを感じながら俯いていると、指先で優しくあごを引き上げられた。
全てを見透かすような灰紫の眼差し。
はしたない欲望をつまびらかにされる感覚に、いたたまれなくなる。
「駄目ですよ。目を逸らしては」
お叱りの言葉。叱られてる筈なのに、嬉しい気持ちでいっぱいになる。
そっと、ボスの指が唇に触れた。
優しくなぞられるとぞわりと気持ちのいい感覚が這い上がって、とろとろと全身へ溶けていく。
「欲しいのでしょう?」
「...っ」
「お返事は」
「ぅ...はい... ♥」
求めていることを自ら認めさせられ、羞恥に涙が滲んだ。
でも、決して嫌じゃない。
ボスにいじめられるのは、消え入りそうなくらい恥ずかしくて...そしてどうしようもなく、気持ちがいいものだった。
「教えた呼び方で、呼んでみましょうか」
呼び方。二人で取り決めた、愛し合う時にだけ使うもの。
それを言うのは、いつも恥ずかしくて仕方なくなる。でも。
「パパ...」
「そうです。いい子ですね」
ご褒美によしよしと優しく撫でられると、胸がいっぱいになって、恥ずかしくてももっと呼びたくなる。
好き。パパ...。
優しい眼差しと大きな身体でボクを包み込んでくれる。
怖いことなんてない。
こんな変な子でも、生きてていいんだと思える。
ここが居場所なんだ。
ボクの、ボクだけの...。
「パパすき...だいすき...」
嬉しくなってぎゅうっと抱きつくと、「おやおや」と微笑みながら、包み込むように抱きしめ返してくれた。
「可愛いですね...」
そうして触れるだけのキスをしてくれた。
ただ存在しているだけで愛してもらえる。
それに、突然いなくなったりしない。
その絶対的な安心感は、心の隙間を満たしてくれた。
「とってもいい子ですよ」
「ぅ...♥」
両手で包み込むように頬を撫でられる。
ボスは決して乱暴にしない。
愛おしむように触れてくれる人だった。
キスだって貪るようなやり方はしない。
互いを確かめ合うようにゆっくりと舌を絡めると、境界線がなくなって、ボクらは1つになる。
「後ろ、向きましょうか」
「うん...」
何をされてしまうんだろう?
一方的に主導権を握られるのは、心地が良かった。こんなボクを導いてくれる。放っておいたりしない。最後まで一緒にいてくれるのだから。
言われた通りにすると、視界が暗くなった。
「ぁ...」
「じっとしていなさい」
ボクを気遣いながら、手慣れた手つきで目隠しを巻いてくれる。
「キツくありませんか?」
「うん...」
「良かった。言いつけ通りできていい子ですよ」
「うん....」
もう、骨抜けだ。
後ろから抱きしめられて、大きな身体にすっぽり収まる心地よさ。
居場所がある安堵感。
安心して身を預けられる、優しいパパ。
ドキドキしてる。ずっと。
「動くと危ないですから、これも着けておきましょうか」
そう言うと、後ろ手に手錠をかけられる。
目も見えない。
勝手に動くことも許されない。
ボスがいないと動けなくなった身体。
──支配、されている。
「ぁ...うぅ...っ♥」
「ふふ...もう感じているのですか」
愛しむような声が耳にかかる。
恥ずかしくて縮こまっていると、触れられる感覚にピクリと身体が跳ねた。
真っ暗な視界の中、ボスの大きな手が身体を這う。
「ん...っ♥」
優しく、丁寧に...首元から太ももの辺りまで、ゆっくりと撫でられていく。
決してボクを傷つけることはない。しかし快楽はどこまでも与えてくれる、大好きな手。
こんな、こんなの、感じないという方がおかしかった。
「気持ちいい、と言ってごらんなさい」
「...っ♥」
命令、命令されちゃった。
吐いた息に熱がこもる。
言わなきゃ。でも、でも、恥ずかしい。
喉がつまって、追い詰められる。
「ほら、パームくん」
口元を優しく撫でられる。
「言えるでしょう?」
そうしてボスの指が、舌に触れた。
や、うそ。
舌の上を弄ぶように撫でられて、唾液が溢れた。ちゅくりといやらしい音が耳を犯す。
身動きもできず、大好きな人にじりじりと責められていくのは、えもしれぬ快楽だった。
「き、きもちい...♥」
消え入りそうな声でなんとか絞り出すと、優しく抱きすくめられた。
「ふふ...そうですね。よく言えました」
よしよしと頭を撫でられて、幸せな気持ちでいっぱいになる。
甘えるようにボスの指をやわく咥えると、「赤ちゃんみたいですね」と優しく褒めてくれる。
ここが天国だと、ボクは思った。
「ごろん、しましょうか」
「うん...♥」
支えられながらゆっくりと寝転がる。
さらりと肌触りの良いシーツ。
高級な布だと、聞いた。びっくりするような値段。それなのに、ボクのために揃えてくれたらしい。
ボスの愛情を感じるベッド。大好き。
「身体は痛くありませんか?少しだけ外しましょうか」
手錠を解き、「力を抜いて、楽にしてくださいね」と優しくマッサージしてくれる。
ボスはこういう気遣いを忘れない人だった。
身体に負荷をかけて行うものだからと、いつも十二分に配慮してくれる。
道具だって清潔な状態で保管されているし、メンテナンスも怠らない人だった。
「ありがと...」
「君には無理をさせていますから」
ぽやぽやと口に出すと、ほんの少し申し訳なさそうに返される。
ボス、ボス、無理なんかしてないよ。
この行為がどれ程ボクの心を満たしてるか。
どれだけ、生きる支えになるか。
「ううん...好きだから、ボクも」
「手錠が?」
「全部。パパのしてくれること全部、大好き...」
「...良かった。君はいつも喜んでくれますから、私も嬉しいですよ」
ボスは安堵したように言う。
一方的な独りよがりでも、わがままでもない。
互いに求め合っている事実が、ボクらの寂しい心を満たしてくれる。
そうして優しくマッサージされた後、今度は頭の上で手錠をかけられた。手錠はベッドとも繋がっている。
つまり、もう、何も隠せないということだ。
「み、みない、で...♥」
「こらこら。足を閉じないように」
「ぅ...♥」
この身体の自由は、ボスが握っている。
何をされても抵抗なんかできない。全部、全部、ボスの好きにされてしまう。
身体の奥からじんわりと気持ちのいい感覚が滲んで、くたりと力が抜けていく。
「楽にしましょうか」
「ぁ...や....!」
ボスの手がタイツにかかり、ゆっくりと脱がされていく。
でも、何も抵抗できなくて。それが恥ずかしくて、嬉しくて。
「おや、もうこんなにして」
「ぁ... !♥」
白地に水色のリボンがついた、かわいいショーツの上から柔く撫でられれば、大袈裟なほどに感じてしまう。
優しくていじわるな手。
快楽に腰が浮いたり、身を捩ったりすると、ボスの楽しそうな声が聞こえてきて恥ずかしくなる。
「濡れていますね」
「我慢できませんでしたか」
「すごいですね...」
じっくり撫でられながらそんなことを言われれば、もう、どうしようもなかった。
まだ、まだ、布の上から触られてる、だけなのに。
「だめ、だめ...!♥♥」
「ふふ...」
「パパ、パパだめ、で、でちゃ....っ♥♥」
「おやおや。早いですね...」
揶揄うような言葉にまた全身が熱くなって、快感が強くなっていく。
「ぅ、ぅ、うぅ♥♥」
「すごい音ですよ...」
「やだ、やだぁ...!♥♥」
「こら...暴れない」
そうして太ももを抑えられれば、もう逃げられない。言いようもない興奮が、身体の奥から湧き上がった。
あ、だめ、これ、もう。
やだって言っても聞き入れてもらえなくて、何も考えられなくなってー...。
「ーーっ..!!!♥♥♥」
出ちゃっ、た。のに。
「いっぱい出ましたね...綺麗にしましょうね」
「あっ♥♥」
溢れたもので汚れてしまったショーツ。
ゆっくりと脱がされて、恥ずかしい場所が丸見えになる。足を閉じようとするのを制され、むしろ大きく開かされた。
「駄目でしょう。ちゃんと見せなさい」
「はず、かしぃ...っ♥♥」
「そうでしょうね...こんなにおもらししたのですから」
おも、らし。
「どろどろですよ...ほら、わかりますか?」
ボスの手に収まる程のそれをにゅくにゅくと可愛がられれば、女の子みたいな声で感じてしまう。
達したばかりなのに、もう、耐えられないのに。
「あぁ...また溢してしまいましたか。ふふ、こんなにいっぱい...」
言葉で嬲られ、ぬるりと撫でられ、その度に溢れてしまう、いやらしい液。
もう、息が上手くできない。
「ぱぱ、やめ、へ...♥♥」
「いいのですか?やめて」
「...!!♥♥」
とても、とてもやめてなんて言えなかった。
こんなに気持ちいことを、どうして手放せるだろう。ましてや世界で一番大好きな人がしてくれると言うのに。
「ふふ...言えないのですね。パームくんはえっちなこと、大好きですものね」
よしよしと頭を撫でられ可愛がられれば、反論なんて出来やしない。
もう、ずっとこのままで良い。
この人に、強くてかっこいいご主人様に、ずっと飼い嬲られていたい。
「よしよし、気持ちいい気持ちいい..」
「ぅ...♥あぅ...♥♥」
「そうです。そのまま...心地良い感覚に身を委ねなさい」
「ぁ、ぁ、ぅ~....♥♥」
「ほら、もう一回...」
「ーーっ♥♥♥」
そうしてとろりと溢れ、またボスの手を汚していく。快楽に犯された身体が跳ね、くたりと力が抜けた。
「上手にできましたね...いい子」
そう言うとそっと頬を撫でて、優しくキスをしてくれた。好き、大好き。世界で一番好き...。
優しく啄まれる中、ほんの少しだけ舌を出すと、嬉しそうに笑って深く口づけをしてくれた。
「パパ、パパ...♥」
「ふふ...どうしましたか」
「ぎゅ、したい...顔見たい...♥」
「パームくん...」
もっともっと、ボスとくっつきたかった。
全身を密着させて、溶け合って...1つになりたい。
ボスは覆い被さって、手錠と目隠しを外してくれた。涙で滲んだ視界に、ゆったりと微笑むボスが映る。
優しいパパ。大好き。
「パパ...っ♥」
ぎゅうーって抱きつくと、心が温かいもので満たされていくのを感じた。
やっぱり、こうして抱きつき合うのが一番好き。大好きな人を全身で感じられる。
背中を優しく撫でられればくたりと力が抜けた。
仕事の匂いがするスーツ。キッチリした格好でこんなことをされているという背徳感と、ボスが合間を縫ってまで愛してくれるという優越感。
そのどちらもが、心を満たしてくれる。
「パパ、ちゅー... ♥」
「ふふ...はいはい」
頭をなでなでしながら、甘やかすように口づけしてくれる。ずっとずっと、この時間が続いて欲しかった。だけど...
「パームくん...」
「んー...?」
「その、そろそろ行かなくては」
「ゃー...」
離れたくなくて抱きついた手に力を込めると、困ったように微笑まれる。
「行かないで...」
甘えた声でおねだりするも、ボスは嗜めるように頭を撫でてくれるだけだった。
「帰ってきたらまた可愛がってあげますから」
「ゃ...」
「夜ご飯、パームくんの好きなものにしましょうか」
「ん...」
「私が食べさせてあげますから。ね?」
「んーん...」
幼稚園児をあやすような声。
その優しさに、ボクは赤ちゃんみたいに甘えてしまう。
「なんじ...?終わるの...」
「20時には帰って来れると思います」
「おそい...」
「では、メッセージを沢山送りますよ。通話もしましょうか」
「ん...」
「いい子でお留守番できますか?」
「...わかった」
渋々承知すると、「偉いですね」とにっこり微笑まれて胸がきゅーん...となる。
ボスには敵わない。褒められると嬉しくて頬が緩むし、頭がぽーっとする。
ゆっくりと起き上がるボス。スーツを整える姿を寝転がったまま見ていた。
「パームくん、綺麗にしましょうね」
「うん...」
あやすように言うと、温かいタオルで優しく拭いてくれる。ボクはただ大人しくしていれば良い。赤ちゃんのように、ただお世話されることが重要なのだ。
「あったかくてきもちい...」
「痒いところはありませんか?」
「首...」
「ふふ...はいはい」
かいかいと優しく掻いてくれる。気持ちいい。ボスの手はどこまでも優しくて、温かかった。
「ボス、お昼ご飯どうするの?」
「シンガンの喫茶店に行こうかと」
「前に行ったとこ?執事みたいな人がオーナーしててカラジェルトがいるとこ...」
「えぇ。あの店は料理も美味しいですから」
話ながら腕や首もマッサージしてくれて、ぽやぽやと心地良い感覚に包まれた。
「時間いいの?」
時計はもう、1時間を過ぎている。
「良くは...ありませんね。食事を摂りながら仕事を進めるつもりですよ」
「えっ」
「君が愛らしくて、つい」
そう、困ったように微笑む。
仕事よりもボクの方が大事なんだ!
そう思うと嬉しくて、嬉しくて、また1つつらかった記憶が癒えていく気がした。
「大人しくできて偉かったですよ」
そう言いながら柔らかい毛布をかけて、ぽんぽんしてくれる。この赤ちゃん扱いが、ボクの心をどこまでも癒してくれた。
「では、行ってきますね」
ちゅっとキスをしてくれてから、ボスは身支度を整える。
部屋からでる時に手を振ってくれて、ボクもばいばいって手を振る。
そうして、ボスはとうとう行ってしまった。
「はぁー...」
大好き、大好きだ。
かっこよくて優しい。
品があって、声が良くて。
それに、それに、嘘をつかない。
突然どこかに行っちゃうこともない。
ボクのことを一番に大切にしてくれる。
仕事が忙しいなんて理由で、放っておいたりしない。
「ボス...」
胎児のように丸まって、ボスがかけてくれた毛布にくるまる。
早く帰ってきて欲しい。早く...。
ボスが残してくれた熱をゆるやかに味わいながら、眠りについた。

・・・

「おかえり!!!」
今から帰りますねと連絡があってから30分。
ドアの開く音が聞こえて、飛び出すように玄関へ走った。
「おっと...ふふ、ただいま帰りました」
思いっきり抱きつくと、大きな身体で受け止めてくれた。大好きなボス。
ちゃんと帰ってきてくれた!嬉しい!
「ワフ!」
ウインディもボクに続いてボスにアタックする。グラエナは表情こそ落ち着いているが、尻尾をパタパタと嬉しそうに振りながらボスの周りをまわっていた。
インテレオンは控えめに、だけども嬉しそうにボスを見ている。引っ込み思案なところは、メッソンの時から変わっていなかった。
「いい子にしていましたか?」
「よしよし、私ですよ」
「インテレオン、君もおいで」
そうしてポケモン達を可愛がるボス。
ボクも負けじとボスに抱きついて、可愛がってもらう為にアピールするんだ。
「ボス、ボス!抱っこ!」
「おやおや...インテレオン、これをお願いできますか」
ボスが鞄と買い物袋を渡すと、テレ!と嬉しそうに受け取っていた。そんなインテレオンの頭を、ボスは褒めるように撫でる。
...羨ましい。ボクだって、ボクだっていい子いい子されたいのに。
「パームくん、良いですよ」
「ぁ、うん...」
手を広げて、おいでって屈んでくれるボスの首に腕を回すと、軽々と抱っこしてくれた。
離れたくなくてぎゅうっと全身で抱きつく。
首元に顔を埋めて甘えると、ボスは嬉しそうに微笑んで背中をぽんぽんしてくれた。
「甘えんぼですね」
そう言って甘やかしてくれるボス。
大好き、大好き。
「パームくん、ほら、ご飯作りますから」
「やだ...」
「これでは作れませんよ」
リビングについても、ボクは抱っこをやめたくなかった。ワガママを言って、子供のように甘えたかった。そして、そんなボクを受け入れて甘やかして欲しかった。
「後で可愛がってあげますから」
「いっぱい待ってたのに!」
「パームくん...」
「お昼からずっと、ずっと待ってたんだよ!」
「あぁ...寂しい想いをさせてしまいましたね」
ボスは頭をなでなでしながら身体をゆらしてあやしてくれる。
ゆりかごみたいに、優しくて温かい。
「私と離れたくありませんか」
「ボスがいい...」
「好きですか?私のこと」
「うん...だいすき...」
「私も大好きですよ」
ボスはほっぺにちゅっとしてくれた。
甘えんぼになると本当に心から満たされる。
もう、これ無しでは生きていけない。
「エニャー!!」
エネコがご飯用のお皿を持って、尻尾をたしたししてる。お腹が空いてご機嫌斜めらしい。
「あぁ...すいませんエネコ。すぐに用意しますからね」
とんとんと背中を優しく叩かれ、ボクは渋々と顔を上げる。
「まだくっついてたい!」
「エニャァ...」
エネコはこいつしょうがないな...と呆れた様子でボクを見てきた。完全に舐められている。
「パームくん」
「もう...わかったよ」
ボスまでそんな風になだめる。
悲しい。ただ、ボスが大好きなだけなのに...。
「ウインディ」
ボスがちょいちょいと手招きをすると、嬉しそうにウインディが駆け寄ってきた。
「支度をしますから、パームくんと遊んであげてください」
「な、なんでそういう言い方するのさ!」
まるでボクがお守りをしてもらうような言い方だ。恥ずかしさと子供扱いされて嬉しい気持ちがないまぜになる。
「君は赤ちゃんですから」
にっこりと返されると何も言えなかった。
赤ちゃんと言われると、どうしようもなく嬉しくなる。ボクはこの言葉に弱かった。
「では、お願いしますね」
そう言って、ウインディの背中に乗せてくれた。
頭を撫でられた彼はすごく嬉しそうに、僕がお兄ちゃんだからね!!と言わんばかりにこちらを見てくる。
5歳くらいだと思われているのか、ボクを乗せたまま楽しそうにリビングを歩き回って...そのうちにエネコも乗っかって、一緒にぽすっともたれかかる。
「エニャ~ン!」
「ね、気持ちいよね...」
褒められたウインディは得意げで、幼かった。
柔らかな体毛。温かい。ほのおタイプ特有の体温だ。
そのうちにウィンディはどしりと座り、ゆったりとくつろぎ始める。
ボクはその身体にもたれかかって、何となしにキッチンで準備をするボスを見つめた。
髪をゆるく縛り、袖を捲ってお米を研いでる。
なんだか、ボスのイメージとは違ってて可愛い。絶対そんなことしなそうなのに。
グラエナとインテレオンはポケモン用のお皿やフードを運んでお手伝いして、ネンドールはサイコキネシスでテーブルマットやグラスを用意していた。
皆、皆ちゃんと役に立ってる。
じゃあボクってなんだろう?
役に立ってるのかな。
何もしないボクに、価値ってあるのかな...。
そんなことを考えていたら、ちょっぴり涙が出てきた。
ウィンディの温かさが救いだった。
「パームくん」
ぼんやりしてた。
ボスが呼んでる。
「なーに?」
「ご飯が炊けるまで時間がありますから、お風呂入っちゃいましょうか」
「めんどくさい...」
「あぁ、違いますよ」
「何が?」
「一緒に、という意味です」
「え!」
「洗ってあげますから、おいで」
そう腕を広げられればボクは、ボクは嬉しくて、ぎゅうっと抱きつくと、そのまま抱っこしてくれた。嬉しい、嬉しい、心が満たされていく。
「ふふ...嬉しそうですね」
「だって...」
「好きですものね。私のこと」
そう言って優しく髪を撫でられれば嬉しくて、また頬が緩んでいく。
お風呂につくと、お父さんが子供にするように服を脱がしてくれた。
ばんざい、と言われると本当のパパにお世話されてるみたい。
「上手に脱げましたね」
「いい子?」
「えぇ、とってもいい子ですよ」
そう、よしよしと撫でてくれる。
もっと褒めてもらいたくてボスの服にも手をかけると、「手伝ってくれるのですか?」と嬉しそうにしてくれた。
ボスの身体は、綺麗だと思う。
引き締まっていて、筋肉があって。
それに、それに...大きさが、全然違うし。
シェービングでケアされた肌は、触れ合うと心地よかった。
ボクとは違う。
男の人の身体...。
「パームくんは綺麗ですね」
「えっ?」
「幼くて、柔らかくて...」
そう言いながら腰をゆっくりと撫でられる。
また、熱が。ついてしまう。
「ボ、ボスの方が...」
「私が?」
「だって...ボクと全然違って、かっこいいし...」
「照れてしまいますね」
「思ってる?」
「勿論」
大きな身体にぎゅっと抱きしめられる。
大人の身体。
ボクは...まだ、子供みたいで。
中間のない、両極端なボク達。
そのアンバランスさが好きだった。
顔を上げるとボスと目が合う。
優しげな目に釘付けになって、つい背伸びをした。そうしてどちらともなく唇が触れ合うと、ボクの身体を支えてくれる、大きな手。
「...っ♥」
舌、だ。
柔らかくて熱い。
おしりを撫でられながら口内を可愛がられて、もう、ボスのことしか考えられなくなる。
「ぁ...♥」
唇が離れる頃にはすっかりとろけて、立っているのがやっとだった。
「おやおや」
キス1つでこんな風になってしまった身体を見ながら、ボスは愛おしそうに微笑む。
「ボス、もっと...♥」
もっと愛して欲しくて、抱きつきながらめいいっぱい背伸びすると、優しく嗜められる。
ボク、しつこかった...?
悲しくなっていると両手で頬を包まれて、愛でるように撫でられた。
「ヤだった...?」
「まさか」
「じゃあなんで...」
「止められなくなりそうで」
「止めなきゃいいじゃん!」
「大切にしたいのですよ」
そう言って額にキスされれば、なんだか悪い気はしなかった。でも、大切にしたいって言うなら一秒だって多くくっついていたいと思わないのかな...。
「大切にしたいって何?」
「そうですね...手順を踏み、丁寧に可愛がってあげたいということです」
「それってお風呂じゃできないこと?」
「お風呂でしたいのですか?」
「なっ...」
そういうことじゃと訂正する間もなく、「あぁ、なるほど」と嬉しそうなボスに両手を取られた。
「そういうことなら構いませんよ。君が望むのなら、どこででも」
「ぁ、ゃ...」
「もっと早く気付いてあげるべきでしたね」
違う、違う...!
え?じゃあ今からお風呂でするってこと...?
お風呂...ボディソープ...ぬるぬる...。
「全て私がしますから、君はリラックスしていてください」
「ぁ...うん...」
「お湯、熱くありませんか?」
「だいじょぶ...」
ボクはドギマギして、まともな返しができなかった。
都心のタワーマンションと言うだけあって、この家のバスルームは広い。ボスと2人で入っても全然余裕があった。床暖房もついていて温かいし、そういう部分からボスってお金持ちなんだなと実感する。
ボスは丁寧に髪をすき、優しく洗ってくれた。
水や泡が目にかからないように気を配りながら、頭皮をマッサージするように揉んでくれる。気持ちいい...。
「相変わらず綺麗な髪ですね」
「そ、それこそボスだって」
「髪質だけの話ではありませんよ。白くて清らかで、美しい」
「いつも言うよね...」
「本当のことですから。何度だって言いたくなるのですよ」
ボスはいつも、真っ直ぐに褒めてくれる。
なんだか気恥ずかしくて、でも嬉しくて。
曖昧な返事をしてしまうけど、ボスは気にもせずにこにこしてくれる。
「身体、綺麗にしましょうか」
な、何をされてしまうんだろう?
やっぱり、やっぱり、ぬるぬる、なのかな。
「ふふ...期待していますね」
「っ!」
バレてる。
何も言い返せなくて俯くと、肯定と取られてまたボスの機嫌が良くなっていく。
「何を想像したのですか?」
後ろからすっぽり抱きしめられて、耳元で囁かれる。
ボスのこういうところがズルい。
かっこよくて、その、勝てないって思わせてくるところが、どうしようもなく...好き。
「言いたくない...っ」
「言えないような事...ですか」
”いやらしいことを考えている“と見透かしたような口ぶりが恥ずかしくて...同時に、追い詰められる快楽が湧き上がって、どうしようもなくなる。
「ふふ...恥ずかしい子ですね」
「だ、って...」
「パームくんがして欲しいこと、当ててあげましょうか」
「ぇ...」
そうしてボクの目の前で、見せつけるようにボディソープを手に馴染ませ始めた。
テラテラと光を反射するそれが、普段はどうとも思わないのに妙にいやらしく感じた。
ぬるぬる、するんだ。
期待に息が浅くなって、また、ボスにふふと笑われて。
「これでしょう?」
大きな手が、ぬるりと胸を這う。
「ぁ...!!♥♥」
身体が仰反る。
ボスに身を委ねるような体勢。
お腹や鼠蹊部のあたりも愛られ、全身が熱くて、ドキドキして。
でも、肝心な場所には触れられない。
焦らすように撫でられ続け、くたりと力が抜けていった。
「あぅ、うぅ♥ぼしゅ、ぼしゅ...♥♥」
「よしよしして貰えて嬉しいですね。気持ちいいですね...」
あやされながら胸を優しく揉まれて、とろけていく。
男の子にしては、膨らんだそれ。
女の子みたいですねと言われるたびに、恥ずかしくて嬉しくて、自分の性別があやふやになっていく。
「も、ちゃんと触ってよぉ...♥♥」
「まだお預けです。我慢、ですよ」
「なん、...っ♥」
「パームくん」
低くて、とびきり色っぽい声で、囁かれる。
「命令です。我慢しなさい」
「っ...♥♥」
命令、と言われた瞬間。
身体がボスに支配される。
そうして決定的なものを与えられないまま、じわりじわりと犯されて。
全身が痺れるように気持ちよくてー...。
「ぅ~...♥」
「ふふ...我慢できていますね。偉い偉い」
「ぼしゅ、ぼしゅ...♥もぅ、や...♥」
「まだもう少し...あと5分我慢しなさい」
「~...っ♥♥」
ボスの無慈悲な命令。
でも、守ったらいっぱい可愛がってくれる。
それにそれに、こうやってもどかしいのに焦らされるのも、大好きなんだ。
あと5分、あと5分...!♥
「もどかしいですか?」
「もどかしぃ...!♥はやく...♥」
「可愛いですね...あと4分ですよ」
ご褒美までの間、ボスは優しく撫で続けてくれて...”きもちいい“がゆっくりと蓄積されていく。目線が絡み合えばとけるような口付けをしてくれたし、耳やうなじにも所有印をつけてくれた。
「ふふ...可愛い」
「ん、ん、ぅ...!♥」
「そんなに腰を動かして...いやらしいですね」
「...っ!♥」
そんな風に囁かれればたまらなく恥ずかしくて、耐えるようにじっとする。
一生懸命我慢していると、ボスは嬉しそうに「健気ですね」と笑って...脇腹のあたりをくすぐるように撫でてきた。
「ぁ...!!♥♥」
ビクッ、ビクッと身体が跳ねる。
くすぐったいと気持ちいいは紙一重。
本当にその通りだと、身体でわからせられる。
「気持ち良かったですか?あと3分ですよ」
「しゃんぷん...♥♥」
焦らされ続けた身体はもう、何をされても気持ちが良かった。
胸を、可愛がられたら。どんなに気持ちがいいだろう?多分、すぐに、果ててしまう。
たった3分が、気が遠くなるような時間に感じた。
「柔らかいですね...ここも、ここも」
「ぁ...うぅ...♥」
「パームくん」
顔を上げると、ボスが見ていた。
見られて、いる。
恥ずかしいところ、全部。
「は、はぅ...♥」
「気持ちいいですか?」
口元に手を添えられながらそんなことを言われれば、逆らえない。
絞り出すように答えれば、「どこが気持ちいいのですか」と言われて、また、恥ずかしくて。
「からだ、ぜんぶ...♥」
「全部?どこに触れられても気持ちがいい、と」
「ぁぅ...♥」
何をされても気持ちよくなってしまういやらしい身体だと、暗に指摘されて。
「ここは?」
「きもちぃ...♥」
「...ここも?」
「うぅ...♥」
そう、大きな手で、身体を支配してくれる。
触られて、感じている様を見られている。
他の誰でもない、ボスに。
それだけでボクは、ボクは....。
「ぁ、イ...っ♥」
身体の奥から、痺れるような快楽が溢れて。
もう、自分では止められ、なくて。
駄目なのに、あと3分でご褒美なのに、こんなところで。
とろり、と いやらしいものが溢れた。
「こら...何をしているのです」
冷たい声。
言いつけを破った時の、お叱りの声。
「ご、ごめんなさ...ぁ!♥♥」
「悪い子です」
ペシッとおしりを叩かれる。
それにすら感じてしまうのだから、どうしようもない。ボスの腕の中で、逃げられないままおしおきを受けるしかないんだ。
「私の命令が聞けませんでしたね」
「誰が達して良いと言いましたか?」
「おしおきが必要ですね」
そう、言葉で嬲られる度。
ボスの声が脳に染み込んで、麻薬のように快楽を生み出す。その背徳的な快楽に、どうしようもなく感じてしまった。
「ぼしゅ...あっ♥」
「ご主人様と言いなさい」
両の手首を片手でまとめられながら、そんな風に攻められればたまらなくて。
「ご、しゅじん...さま...♥♥」
声に出せば、主従関係がより脳に刷り込まれていく。言動は自然としおらしくなって、この人のペットとして、従順であろうとする、
...それが、至上の快楽なのだから。
「私はなんと言いましたか」
「我慢、しなさいって...」
「そうです。それで、君は?」
「イ、イっちゃ...♥」
「聞こえませんね」
「イっちゃっ、た...♥」
絞り出すように言うと、「全く、恥ずかしい子です」と無慈悲に言い渡された。
「私を見なさい」
ご主人様の命令に、一も二もなく従う。
大好きな人の顔。
強くて、かっこよくて、美しい。
支配者の目に貫かれれば、もう、身動きすら許されない。
「...少し躾が足りなかったようですね」
「しつ、け...」
「悪いと思っていますか?」
「うん...」
「よろしい。おしおきは後です。今はゆっくり、湯船に浸かりなさい」
意外なことに、猶予が与えられた。
ボクはこのまま...おしおきされてしまうのだと、ちょっと期待してた。
「いい、の...?」
「...ここでは君の体に負担がかかるでしょう。それに、食事もまだです。君も、ポケモン達も」
「そ、そう...だよね」
広々としたジャグジーに身体を伸ばせば、確かに、同じ態勢のままで身体に負荷がかかっていたのだとわかった。
ボスがシャワーを浴びる姿。
もう何度も見てきたけど、やっぱり...直視するのは恥ずかしい。
それでも横目で覗けば、お湯に濡れたオールバックが乱れていて。ドキドキしながら、縮こまってしまった。
「パームくん」
不意に呼ばれて顔をあげると、チカリと目が合う。目を逸らせない。
「君は準備をしておきなさい。夕食の用意をしてきますから」
「じゅん、び...」
言わずともわかる。
ボスを受け入れるための、準備。
「わかった...」
「待っていますよ」
そう言ってボスはバスルームから出る。
いつもであれば頭を撫でてくれるけど、今は、おしおきが待っているから。
寂しいけど、おしおきを耐えたら...いっぱい、いっぱいご褒美をくれる。ボスはそういう人なんだ。
「しなきゃ...準備」
ご飯もあるんだ。ゆっくりしていられない。
ボクは急いでやるべきことに取り掛かった。

・・・

「あ!」
「もうできていますよ。さぁ、おいで」
準備を終え、リビングに戻ると美味しそうな匂いが部屋を満たしていた。
お店で出されるような、綺麗な形のオムライス。モンスターボール型の旗は、ボクのお気に入りだ。
「エニャー!」
ポケモン達も、フーズにオムレツを乗せてもらったものを美味しそうに食べていた。
無我夢中で食べるエネコ。
こぼしたフーズをグラエナがやれやれと戻してやり、世話を焼いていた。
「ボスって料理上手いよね」
「普通ですよ」
「そんなことないよ!お店みたい」
席につき口に運ぶと、バターのコクを感じた。
ショクダイ産のバターだ。
ピカチュウもなかのコーンスープや、スターの実入りのサラダ。どれも、どれも美味しかった。
「仕事、どうだった?」
「ヌムリネくんに会いましたよ」
「え?ヌムリネ?」
何気なく聞くと、意外な人物の名前が出た。
バハギア地方のチャンピオン、その人だ。
「な、なんで?」
「偶然ですよ。色々とお話ししたいこともありましたから、丁度良いタイミングでした」
「アプリのこと?」
「それもありますが...」
ボスは、躊躇いながら目を伏せる。
少しだけ、悲しそうに。
「ガイア団のことに触れていました。私はその...誤魔化しましたが。彼は...恐らく」
「気付いてる?」
「...気付き始めている」
テーブルの上で手を組み、静かに溢す。
「そして、そう遠くないうちに気付くでしょう。...巻き込みたくはなかったのですが」
「そういえば、部下の子が戦ったってね。よつまたいせきで」
「...予想外でした」
ボスはどこか、チャンピオンのことを子供みたいに思ってる。まだほんの、10歳くらいの。
「チャンピオンだってもう子供じゃないんだから」
「シチトウ先生のご子息でもありますから」
「あ...そういうこと」
恩師の息子。
確かに、それは巻き込みたくない。
「それと、君が言っていたシェンくんやリケくんにも会いましたよ。マイマイも」
「会ったんだ!どんな感じだった?」
「ふふ...元気いっぱいでしたね。マイマイも、彼らといて幸せそうでした」
「じゃあ...余計、やだね。捕獲」
そう、捕獲だ。
この計画はマイマイ無しに成り立たない。
だから...最後には、奪わなくてはいけないのだ。
「...いずれ、そうせざるを得なくなるでしょうね」
「別の方法とかないの?」
「残念ながら。ですから...捕獲は、直前に行おうかと。石板もそうしようと思っています」
「そうだね...それがいいね」
「その時は、君に協力してもらうかもしれません」
ボスは申し訳なさそうにこちらを見る。
きっと、ボクのことも巻き込みたくないと思ってるんだ。なんだかおかしくて、笑みが溢れる。
「今更、でしょ」
そんなの、ずっと前から覚悟していたことだ。
どこまでも、どこまでもついていく。
ボスの側が、唯一の居場所なのだから。
「ボクだってガイア団だよ。最初からそのつもり。そりゃ...一応、友達だけどさ。シェンとリケは」
「...ありがとう。頼りにしています」
「そもそも石板なんか誰のものでもないんだから。今、たまたま、チャンピオンが持ってるだけで」
「ふふ...そうなのかもしれませんね」
バッサリ言うと、ボスはおかしそうに微笑んでくれる。ボスだけだった。こんな風に受け入れてくれるのは。皆、皆おかしいって言うから。
「やるしかないよ。ボスのお父さんあんなんだし。森、燃やしちゃったし」
「...そうですね。彼らの命を無駄にしない為にも」
そう言ってボスは祈るように手を組む。
あの日命を奪ったポケモン達へ、と。
ボスはこうして、あの日から祈りの儀式を欠かさなかった。自分でやったことなのに、不思議だと思う。
じゃあ燃やさなきゃ良かったのにって思ったし、言った。そうするとボスは眉を下げて微笑み、そうですねと言うから...なんだか、悪いことを言ったような気がして。
不思議な人。頼まれたわけでもないのに、背負わなくていいことを背負って。そんなことしたって、罪人として咎められるだけなのに。
そんな不器用なところが、ボクは可愛いと思った。
「あ...そういえば」
そろそろ食事も終わりそうだったけど、お昼に約束したことをふと思い出した。
「ねぇ!あーんしてもらってない!」
「あぁ、そうでしたね」
ボスは慌ててスプーンを差し出すけど、なんだか納得いかなかった。忘れられてた...しかも、事務的に済まそうとしてる。
「もっと気持ち込めて」
「こもっていますよ」
「違う!」
ボクは気に入らなくて。
駄々をこねてるのはわかってるけど、でも、ちゃんと可愛がる気持ちでやって欲しかった。
「では、これでどうでしょう」
立ち上がったボスにひょいと抱っこされた。
「抱っこ、好きでしょう?」
「う~...」
なんだか悔しい。
膝の上で食べさせてもらえるのはすごく、すごく嬉しいけど...内心では喜びつつ、表情に出さないように努めた。けど、多分バレてる。
「はい、あーん」
「ん...」
「上手に食べれましたね」
「...うん」
「機嫌、直してくれましたか」
「...まぁ」
あくまで許してあげないこともないけど?という態度を貫く。チョロいって思われたら恥ずかしい。
「全部食べれるよう、頑張りましょうか」
そう言って、残っていたものもボスが食べさせてくれる。食べ終われば偉い偉いと褒めてくれたし、食後の赤ちゃんにするように背中をとんとんってしてくれた。
「はい、いい子です。片付けが終わるまで、待っていてくれますか?」
「...わかった」
「あぁ、そうそう」
ボスはポケモン達には聞こえないように、耳元で囁く。
「着替えておきなさい」
「っ...」
着替え。その、ボスと、えっちなことをする時に着る、やつ。
さっきまで普通に喋っていたのに、その一言で...引き戻される。
おしおきが、待っている。
「今日は君の好きなもので構いません。それと、お手洗いは済ませておきなさい。良いですね」
「...うん、」
「では、ご馳走様でした」
「ごちそうさま...」
ボクを膝から降ろし、片付けを始めるボス。
ポケモン達のお皿も回収して、食洗機にかけるべく軽く洗い流していた。
「...するんだ、えっち」
賑やかなリビングを後にし、ボスの部屋に戻る。静寂の中、そんなことを呟けばどんどん顔が赤くなっていった。
だって、ボスは...その、沢山可愛がってくれるけど、挿れてくれることは少ない。
ボクが気持ち良さそうならそれで良いらしい。
でも、でも、やっぱり...直接、愛して欲しいから。
部屋に鍵をかけ、クローゼットを開ける。
似合うからと言ってプレゼントしてくれた服達が、ずらっと並んでいた。
ふわふわなランジェリー、えっちなメイド服、幼稚園のスモック、真っ白なベビードール...。
色は白にパステルの組み合わせが多くて、すごく可愛い。こうしてみると中々の趣味だな...とちょっと冷静に引いてしまう。でも、結局喜んで着ちゃうんだけど...。
おしおきされるなら...これ、かな。
ボスが来るまでに支度を終わらせなくちゃ。
この後のことに想いを馳せながら、ボクは選んだ服に手をかけた。





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