白ひげ海賊団というのは、毎日恒例のように宴が行われる。大体みんないい年こいたおっさんばっかで酒も強い。一番強いのは当然オヤジだが、俺を含め隊長達は軒並み呑める奴が揃う。一番弱いのは……エースだな。ダントツで。あぁ、ほら呑めねぇくせに張り合うもんだからもう酔っ払ってやがる。酔うと絡み屋になって鬱陶しいエースから離れ、別の輪に入ろうとすると、同じく逃げ出してきたマルコに肩を叩かれた。

「どした?」
「"また"だぞい」
「名前、お前またかよ」
「ふぇ…っ!サッチ隊長……」

甲板の隅っこまで引きずって、名前を見遣ると、いつも通りというか、くしゃくしゃに泣いた顔をこっちに向けてきた。酒が入ると泣き上戸になっちまうコイツの世話をしだしてどれくらいになるのだろう。初めこそ焦ったり、若い名前の無防備な泣き顔に理性をとばされそうになったわけだが、もう年単位で世話をしていると変に慣れてくる。

「も、一杯…」
「やめとけ。これ以上飲ますわけにはいかねぇよ」
「サッチ、たいちょ…!」

……前言撤回。未だに上目遣いで名前呼ばれたら弾けそうになる。酒を貰えなくてベソベソ泣きじゃくる名前が、何だか憐れに思えて(あれ、何だこの正しいことしてるのに罪悪感)、名前の頭を撫でてやるが、煩わしそうに首を振って振り払われた。そのまま、酒瓶に伸びる名前の手を防ぐと、恨めしげな視線が突き刺さる。

「わた、しの気も知らな…、で、サッチ隊長…の、ばかぁ…!!」
「お前…!」

一瞬期待しかけたが、すぐにありえねぇ、と考えを打ち消した。ありえねぇっつーか、あっちゃならねぇ、って方が正しい。確かに、俺は名前に惚れてると思う。だが、エースとそう変わらねぇ年のコイツが相手だ。下手すりゃ犯罪レベルだぜ?(海賊がンなこと気にするのもおかしいが)俺だってもう世間ではオッサンの歳だ。今後の名前を思うと俺がコイツを拘束しちまっていいのかって迷う部分もある。それでも俺が酔ったコイツの世話してる理由ってのが、名前を他の野郎といさせてうっかり奪われちまいたくねぇから、なんてんだからバカらしいったらありゃしねぇわけだが。

「好き、なんです!サッチ、隊長の、こと…!」

こうもやることなすこと嫌がられちゃあ、どうすりゃいいのかわからねぇ。

「や……で、す…!」

普段よりもどこか荒れた様子だし、今は名前を一人にしておいてやった方がいいのかもしれねぇ。

そう思ったのに

「ひくっ…!呑ませて、下さいよぅ…」
「もう完全に呑まれてる奴が何言ってやがる」
「女には呑ま、なきゃ…やってられない日もあるんです!」

おい、どこでそんな言葉覚えてきやがった…。宥める意味も込めてもう一度頭に手を伸ばすが、また弾かれた。

「なぁ名前、俺はいない方がいいか?」

服の裾掴まれて止められた。それさえ拒否されて、じゃあ俺にどうしろってんだよ。

「何で、わか、ってくれないんですか、サッチ隊長の、ばかぁ…!」

分からず屋はこっちのセリフだ。
そう言ってやろうと思ったのに、縋るみてぇに甘えてくる名前の泣き顔に、俺は変な気起こさねぇようにするので精一杯で、何も言い返すことができなかった。まぁ、大方の予想通りというか、なんというか。しゃくりあげながらも懸命に好きだと言ってくれる名前を愛しいと思う。流されそうになるのを寸前で必死に食い止めなきゃならねぇ程に。

「まぁ、待てよ、名前。ちゃんと考えてしゃべれ。お前酔っぱらって勢いで言ってんだよ」
「勢いなんか、じゃ…ありません……!」

俺の言葉に、名前が酒が理由じゃねぇ涙を流した。分かってる。名前が思いつきで告白するような軽率な女じゃねぇことくらい。俺のこの発言が何より名前を傷つけてることくらい。だが、それでも俺はな、名前。お前の気持ちに答えてやることは…

「わ、わたし、じゃ…サッチ隊長、の、一番に、は…なれませんか……?」

………俺ってマジでゲンキンな奴

たった一言でほだされちまいやがった。いや…でもほら、さっきも言ったじゃねぇか。

海賊が小せぇこと気にするなんておかしいんだよ



次の日、



「名前に男だと!?」
「しかもサッチだぁ!?」
「納得いかねぇ!!今からでも遅くねぇ。俺にしとけよ、名前!」

エースが名前の肩を掴んで声を荒げる。おいおい、人の女に何すんだ。

「ごめんね、エース。私、サッチ隊長じゃなきゃやなの」
「名前〜!!」

少年よ、男が泣き言はみっともないぜ?

「ま、そーいうこった」
「サッチ隊長」
「名前、別にもう隊長ってつけなくていいって言ったろ?」
「ああっ!その余裕な表情がムカつく!サッチのくせに!!」

負け犬の遠吠えなんか無視して、名前を横抱きにしてその場を後にする。

後ろから"犯罪者!"とか"ロリコン!"とか聞こえたが、俺の腕の中で名前が好きって言っただけで全部チャラになった。


つーか20歳相手はロリコンじゃねぇだろ!!








(お前の涙に、お前の声に、お前の告白に、)
(俺の愛が溢れた、なんてクサすぎるか?)


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企画サイト『哭声』様に捧げます
素人ながら受け入れてくださり、本当にありがとうございました。





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