※小説『ペーパークラフト』より

平成三十一年 四月三十日

 僕達は三十三歳になっていた。僕―南道(なんどう)裕樹(ひろき)はよりいい条件の貿易系会社に転職し、彼女―南道睦(むつみ)は多忙だった会社を辞め、自分で作った創作紙工作を本にして売っていた。彼女曰く、今の方が自分の収入は減ったものの、生活的には幸せだと言っている。もちろん、僕も彼女との生活に満足していた。
 そうだ、僕達は何も間違えていなかったのだ。たとえ、過去にあった出来事の十字架を、共に背負おうとも。
 元号の変わり目を含んだ十連休。僕は完全に休みだったので、連休を軽井沢にある彼女の別荘で過ごすことにした。新幹線ではなく、今回も在来線とバスを乗り継いで軽井沢入りした。
 初日は掃除で一日が終わったものの、それからは、昼間は、彼女はパソコンで新作を作り、僕は積読を消化する日々。もちろん、夜は共に過ごす。映画を見たり、東京で録り溜めたお笑い番組を見て、思いっきり笑ったり、星空の下で散歩をしたり。
 でも、「そういうこと」は僕達はしない。お互い興味がないし、そういうことをしなくても、僕と彼女の間の愛は、確かに存在し続けている。

 だけども、その日は事情が違った。天皇の退位の日。テレビでは一日中、平成を振り返る番組を流しているので、僕らはそれをながら見していた。彼女は珍しく、居間で最近やり始めた刺繍をしながら、僕は東京から持ってきた、小さなイーゼルに収まるサイズのパズルをやりながら。このパズルのピース、ピンセットで組み立てなければいけないほどの小ささなのだ。
 そして、午後五時。今日のクライマックス。僕も彼女もその作業の手を止め、お茶を用意して、テレビに集中することにした。


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