ホットかアイスか@
「あー…」
先程から一向に動かない画面についため息が出た。
今朝、久しぶりに休みが取れた翔は朝食のサンドイッチを食べながら今日は何処か買い物でも行こうかと何の気なしにテレビを付けると、
見覚えのあるビルの前でリポーターが穏やかとは言えない雰囲気で中継をしているところだった。
思わずテレビに釘付けになっていると、狙っていたかのように着信音が鳴り響き…
「そっち動いたか?」
「全然動かねーよ、完全にロックされてて手が出せねーわ…」
「頑丈すぎるセキュリティが裏目に出てるよな…噂じゃ誰かが社内の情報をリークしてたってさ、しかも計画的な犯行じゃないかだと」
「…俺の優雅なサンドイッチタイム返せ」
「なんだよそれ、サンドイッチなら俺が買ってやるから」
ほら諦めんな今日は早く帰りたいと苦笑いしているこいつ、陽平は今夜どうしても外せない約束があるらしい。せっかく忘れてたのに思い出させやがって。
(俺と飲み行くよりも大事な用事かよ…)
さっきから鳴りやまない電話に部屋に響く怒鳴り声、必死に電話口に向かって謝り続けている同僚を横目に見ながらパニック状態の社内にまたため息が出た。
「まあ予想はしてたけど、今日だけじゃ終わらないか…せっかくいい店予約してたのになー」
「そんなのしょうがないだろ、まあ今日のお前やたらとそわそわしててうざかったしな、当然だろ」
「…翔がそんなに機嫌悪いの久しぶりだな、そんなにサンドイッチ食いたかったのか?」
「違うわ、あほ!」
ようやく社内も落ち着いて帰宅が許されたのは夜中の2時過ぎで、かといって今から帰ってもということでビジネスホテルに泊まることになった。
(正直ラッキーかも…)
自分よりも高い位置にある横顔についつい見とれてしまう。
ふと見下ろしてきた陽平と目が合い心臓が跳ねた。
「…あのさ」
「な…なに?」
普段はあまり見せない真剣な表情に胸騒ぎがした。
(もしかして…気づかれた…?)
浮かれていた気持ちが急激に冷えて息が詰まる。
「…っなんだよ、そんなにいい店だったならまた予約すればいいだろ」
「それは、そうなんだけど」
「なんなら俺も上手いラーメン屋ぐらい教えてやるし…ってそういう店じゃないか!」
「翔…あのさ」
「あ、ほら!もうホテル着くぞ!」
早く行こうと捲し立てる翔はいきなり後ろから腕を引っ張られバランスを崩し転びそうになる。
気が付くと翔の身体は陽平の腕の中におさまっていた。
「よ…陽平…?」
「…翔と行こうと思ってたのに」
「…っ」
耳元で囁く低く枯れた声に思わず変な声が出そうになる。
「ほんと…すっげ可愛かったし」
「…え」
「大切な約束があるって言うたびに拗ねてるから
可愛かった」
ほんと嘘つけないよね翔、と大きな手が頭を撫でる。身体中が熱を帯びるのと同時に視界が滲んできた。
「…お前ほんとやだ」
「ふは、ごめんって許して?」
「ほんとなんなの」
頭を撫でる手も優しさを含んだ楽しそうな声も、
笑うと目尻にシワができるところもぜんぶ…
「ようへい、ぎゅってして」
「はいはい」
ほんとに大好きだ。
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