Short story


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▼有里

 抜き打ち検査の日はどの棟も連中もそわそわして落ち着きがないと聞くが、うちの棟に限り例外だ。
 その理由は明白で、この67棟を管理している責任者がとてつもない面倒臭がりで、大抵のことは見逃してくれるという神対応だから――というだけでなく。もしも規則違反をしていてそれが看守に見つかろうもんなら、監督不行き届きで注意を受けた責任者様が大層お怒りになり、看守よりも恐ろしい責任者鉄槌が待っている。
 そのため、うちの棟の連中は普段から細心の注意を払って生活していて、抜き打ち検査となって焦って隠すようなことはしない…という理由が一つ。
 そしてもう一つは、どうせ隠しても意味がないと誰しもよく分かっているので、誰も無駄な抵抗をしようとしないというのが理由だ。

「ということで、どうぞ存分にお調べください」
「何を堂々と漫画と菓子を広げてんだよ」

 普段から人を眼力で居抜けそうなほど目付きの悪い稜海は、抜き打ち検査の日はその眼力の原因であるコンタクトをしてないことがごく稀にある。そもそも目が良すぎてその視力を抑えるために度のキツいコンタクトしてるなんて、コンタクトもさぞプライドを傷つけられてるだろう…なんてことはどうでもよくて。
 とにかく、今日の稜海は稀にあるノーコンタクトデーのため、睨まれても眼からビームが飛んできそうなほどの勢いがない。
 というかむしろ、

「おい何だこの棚は。看守が来たらどこに隠す気だ?」
「ちょっと、まだ俺が脳内で喋ってる途中なんだけど。それを打ち切るってあなたそんな」

 未だかつてこんなことがあっ

「うるさい」

 ほらまたそうやって割り込んでくる。
 そんなんじゃ俺たちの日常をコミカルにお伝え出来な

「俺の質問に答えろ」

 おいいい加減にしろよ。
 と言いたいとこだけど、今すぐ答えないと棚破壊待ったなしだなこれは。

「それは蒼が作った特注品で、伸縮自在なんだよ。中身ごと小さくなる優れものだが…人が入ると細胞崩壊を起こして死ぬとかなんとか…とにかく、小さくなるから大丈夫だ」
「殺人兵器じゃねぇか。こんな危ないもん盗まれたりしたら承知しねぇからな。後は…クローゼットのお粗末なレンジも気になるが、今日はもういい」

 うわまじかよ。
 絶対突っ込まれると思ってたのに。わざわざ完璧に壁に見せかけてるクローゼットから、電子レンジの電気コードが出てて台無しになってる様を散々言われることは覚悟してたんだけど。
 まず何でコードしか見えてねぇのにレンジだって分かるのかはコンタクトをしてないからなんだけども、それはそうと普通にスルーされるとは。

「何でそんなに急いでんだ?」
「今日は44棟と33棟まで回らないといけないから、お前の茶番に付き合ってる暇はない。5069号室、検査の時間だ出てこい」

 稜海が俺の質問に答えつつさっさと次の部屋に進み扉の前から声をかけると、「はいっ」と勢いよく2名の囚人が飛び出してきた。看守には微塵も見せないこの従順さと来たら、教育が行き届いているのがよく分かる。
 ちなみに、何で俺の次の部屋が5069号室かというと、各部屋の番号は責任者以外はそこに人が入るときに看守が適当に決めるからだ。だから希望すれば好きな番号にしてもらえることも…ほとんどないけど、看守に媚売りまくればあることもあるらしい。

 え、てかちょっと待って。
 33棟と44棟って、龍遠と蒼の所じゃね?

「…何でお前がそこまで面倒見んの?」
「他地区の責任者が揃ってインフルで検査出来ねぇから、蒼と龍遠はそっちに回されてる」
「ああ、なるほど」

 それで龍遠と蒼の棟が稜海に回ってきたってことね。
 なんて俺が考えてる間に、稜海は5069室の洗濯物の溜め込みを指摘しつつ、前回より部屋全体が綺麗になってることを誉めることも忘れずに…もう次に向かってんじゃねぇか。早ぇよ。

 待て待て。
 こんなおいしい機会、絶対逃さないからな。

「俺も付いてっていい?」
「はぁ?」
「暇だし。助手ってことで」
「…勝手にしろ」

 面倒臭がりの稜海だからな。
 断っても俺が引かないことは明白で、それを予測した上で凄く嫌そうな顔で了承を勝ち取れることは最初から分かってましたよ。
 本当に凄く嫌そうな顔してっけど、俺はそんなこと微塵も気にしねぇから。マジで付いていくからな。
 ということで、楽しい抜き打ち検査にレッツゴーと行こうじゃねぇの。





「2076号室」
「待ってました!って、ずみさんコンタクトしてねーじゃん!」

 他の棟に行く前に、まずはうちの棟でコンタクトをしてない稜海による少し常識離れな検査風景を体感(?)しておくのも悪くない。
 稜海が検査の合図を告げる前に颯爽と出てきた捷は、どこからでもかかってこいと言わんばかりだった表情を一瞬でしかめ面に変えた。

「勘弁してーや。そんなん事前にお知らせしといてくれんと」
「もうダメ。今回こそはと思ったけど、コンタクトなしとか俺らにどーしろってんだよ」
「違反物を所持するな」

 これ以上ない程にごもっともな意見ですね。

「てか、ゆりちゃんは何でいんの?」
「今回限定特別助手」
「助手?」
「そ、まぁ細かいことは気にすんなって」

 俺も特に細かい設定とか考えてねーから。
 適当なこと言ってるだけだから。

「床下にテレビか。龍遠の部屋にあったやつだな」

 少なくとも俺の視界には、床下収納の痕跡は見当たらない。見えないけど多分、ベッドの下にでも作ったんだろう。と、俺は想像するんだけど。
 それが文字通り見えてるってのが、稜海の常識外れな検査風景というわけだ。コンタクト稜海ならいけてたかもしんねーけど、ノーコンタクト稜海に障害物なんて無意味だからな。


「龍遠が要から新しいの押収したらしゅーて、また余ったからって貰ってん」
「床が3ミリ浮いてるから底を深くしとけよ。あと、ガラクタは箱にでも入れてまとめとけ」
「3ミリなんて誰も気づかねぇだろ。てか、ベッドの下に作ってんだから絶対見つかんねーし、俺の遊び道具をガラクタって言うな!」

 やっぱベッドの下だったか。
 ガラクタってのはきっと、縄跳びとかフラフープとかホッピングとか、子どもと…つまり要と遊ぶための道具のことだな。

「お前らこれ、自分達で掘ったのか?」
「夜な夜な必死に掘りましたとも。なぁ」
「せや。思い出すのも辛い日々でした」

 お前ら普段は夜勤してるか夜遊びしてるかなんだから、むしろ部屋で大人しくしてる分健全な囚人生活と言えるんじゃないですかね。
 いやでも、掘ってる所にひょっこり看守なんてやって来た暁には、脱獄未遂で速攻独房送りだろうけどな。

「収納そのものはいい出来だな」
「ほんまに?よう出来とる?」
「頑張った甲斐があったってこと?」
「だからといって合格にはならねぇけどな。次までちゃんとしとけよ」
「あと3ミリくらい楽勝だし!」
「次こそ合格したるからな!」

 さっきまで3ミリなんて誰も気付かないとか文句言ってたくせに、ちょっと誉められるとこれだからな。
 コイツらが単純過ぎるだけなのか、稜海の扱い方が上手いのか。
 多分どっちもかな。


**

 さて、稜海の行き届いた教育のお陰で、67棟の抜き打ち検査はものの1時間で全部屋をコンプリート。
 俺と捷&雅以外の連中は部屋の汚さを指摘されたり、洗濯物の溜め込みを指摘される程度のいい子ちゃんばかりで面白味もなく終わってしまいましたが。
 
 やって来ました33棟。
 ここからは俺の知らない未知の世界が待ってるというわけだ。

「龍遠の恐怖政治で成り立ってる棟をどう攻めんの?」

 龍遠の棟は要を始め特に質の悪い連中ばっかだからな。
 あいつが恐怖でねじ伏せてるから言うこと聞いてるものの、他の奴が行って素直に部屋ん中見せてくれるもんかね。

「それは相手次第だ。1098号室、5秒以内に開けないと息の根を止めるぞ」

 今相手次第って言ったよね?
 まだどんな相手か分かってもないのに、武力行使で挑む気満々じゃないですか。

「うるせぇな。何で違う棟の…
「タイムアウトだ」

 ええ…あなたそんな。
 ちょっとだけ顔出したじゃん。扉開けたわけじゃないけど、そこはセーフにしてあげようよ。

「!?」

 睨みを効かせて顔だけ覗かせた部屋の主は、稜海がパチンと指を鳴らした瞬間にその顔を真っ青にし首を押さえて苦しみだした。
 容赦もへったくれもあったもんじゃねぇな。

「部屋の引き出しにある植物は何だ?」
「っ…ぅ…」

 ですよねー。
 言葉通り息の根止められてますもんねー。
 そりゃ喋れねぇっつの。
 でも謎の植物なんて所持してっから悪いんだぞ。多分、麻薬の類いなんだろうけど。
 どうやって入手すんのか、この牢獄ヤク中が多いんだよな。

「このまましばらくしたら、薬なんて使わなくても夢の世界に飛べるぞ。よかったな」

 それ多分夢の世界っていうか、三途の川が見える世界な。
 必死に首を振ってるからさ、もう降参してるから許してあげて。

「全部持って出て来い」
「…っ…はぁっ…はぁ……は、はいっ」

 それはもう凄いスピードで謎の植物を持って出てきて、部屋に声をかけてからものの3分で押収完了だ。
 そして最初に威勢のいい奴が出てきてくれたお陰で、その様子を見た連中はもう稜海に逆らおうとはしないだろう。
 なんとも見事な出だしだな。




「4036号室」

 さぁ、順調にここまでやってきました。
 この棟はとにかく麻薬の押収が半端ないが、この部屋は多分もっと違うもんが溢れ返ってるに違いない…ってか、いつも遊びに来て見てるから決定事項なんだけどな。


「勝手に開けて入っていいぞー」
「おいコラ大晟!まだ俺が隠し終わってねぇんだからダメに決まってんだろ!」

 本当に君はおバカさんだな。
 隠すとか言っちゃったらもうダメじゃん?

「何を隠すって?」
「ああ、龍遠の代わりは稜海だったの…あれ?稜海だよな?」

 大晟さん、ノーコンタクト稜海は初めてお目にかかんのかな。
 いやでも、何回か見たくらいじゃ慣れないからな。俺も最初に見てから以後10回くらいは毎回本人かどうか確認してたからな。

「助手もいまーす」
「珍しいもの見たさで付いてきたか」
「ぴんぽーん」

 いつもはソファがある場所の床で寛いでいた大晟さんが挨拶代わりに手を挙げたのに同じく手を挙げて返していると、その言葉を聞いた要がベッドの下に突っ込んでいた顔を出した。
 稜海を認識すると、何かを必死に隠そうとしていた手を止める。

「うわっ、本当だガチ稜海じゃん!じゃあ隠しても意味ねぇしやーめた」
「どうしてお前は毎回ギリギリになって動くんだ?もっと早くから準備しておけ」
「朝起きてからずっとやってるっつの!大晟は自分の必要なもん隠すだけで手伝ってくんねぇし!」

 お前、ちゃっかり大晟さんまで巻き込んでんじゃねぇよ。
 後ろで思い切り顔しかめてんぞ。絶対後から殴られんぞ。

「…なるほど。それでソファ、冷蔵庫とタブレットに本棚とチョコレートは隣の空き部屋の天井なわけか」
「マジかよ。どっかに監視カメラでも付いてんじゃねぇだろうな」

 まぁ普通はまずそう思うよな。
 分子レベルで見分けられるほど視力がよくて、だから壁の向こう側も見えるとか言われても理解出来ねぇし。
 流石の大晟さんもびっくりですよ。

「俺は龍遠ほど無能じゃないからな」
「龍遠を無能呼ばわりか…」
「そりゃただの稜海じゃなくてガチ稜海だもん。抵抗するだけ無駄無駄。どうぞ、持ってけドロボー」

 いや泥棒はお前な。
 あといくら諦めたからって、ベッドの下から堂々とあらゆるものを出してくんなよ。


「……凄い量の遊び道具だな」

 大きめのプラスチックケース2箱に、ありとあらゆる物が詰め込まれている。
 もちろん、フラフープとかホッピングとかじゃない方の遊び道具だけども。

「変態看守ばっかだからな」
「何で2箱に分けてんだ?片方に全部入るだろ」

 これだと無駄に場所も取るのに。
 まとめといた方がこういう時も隠しやすいだろうに。

「こっちは使用ず…ぶへ!!」
「黙れ」

 なんという荒業。
 大晟さんに思い切り頭を踏みつけられて床に土下座状態の要を前に、俺と稜海は何も聞かなかったことにする他ない。

「全部持ってっていいからな」
「いや、大晟さんには悪いけどこんなもん絶対没収したくない」

 ああ…うん。
 まぁ、そうだろうな。

「心中お察しします」
「ご丁寧にどうも」

 大晟さんも多分俺と同じことを思ったようで。それはもう嫌そうな顔をしている稜海に、それ以上ないほどに共感と哀れみの目を向けていた。
 きっと、通じるもんがあんだろうな。
 
「天井裏とそこの引き出しの煙草は回収されんのか?」
「おい大晟!何でわざわざ言うんだよ!」

 言わなくてもバレてるだろうけどな。
 でもきっと、さっき大晟さんが何か隠してるってのを言ったことへの仕返しだな。

「騒がなくても押収しやしねぇよ」
「えっ、まじ?龍遠の棟だから龍遠式なんじゃねーの?」
「あいつみたいに片端から押収してられっか。面倒臭ぇ」

 極度の面倒臭がりの稜海が、違う棟に来たからってその棟に習って全部押収なんてするわけないだろ。
 いつも通り、基本的に所持してるだけで危険度の高い麻薬と凶器くらいしか押収しねぇよ。
 つっても、うちの棟じゃそんなもん所持してる奴なんてまずいねぇからな。
 押収品なんてほとんどなくて、俺が誰かから貰ったヤバい道具押し付けるくらいだよ。そしてそれがよく悲劇を生むわけだが、決して俺のせいじゃないと言いたい。
 とは言うものの、この間のは流石に俺も反省したから、今度からヤバめのやつは自分で処分することにしたんだけど。

「じゃあ今回は何もなし?」
「ああ。…但し、このガラクタは有里が持ってる棚に入れろ」
「有里ちゃんの棚?」

 いやいやいや、急に?
 急に俺に矛先が飛んでくんだもん勘弁して。

「俺あの棚めっちゃ使ってんだけど…」
「要にやらないならすぐに粉々にするからな」

 やると言ったらやるからな。
 それがどんなに貴重なものでも、まるで躊躇なく壊すからな。
 せっかく蒼に作って貰ったのに、粉々になるくらいなら要に譲った方がいいに決まってるだろ。

「後で持ってきてやっから、心して使えよ」
「…よく分かんねぇけど、ありがと」

 よく分かんねぇとか呑気なこと言ってっけど。
 お前、あの棚を使って尚も龍遠に見つかろうもんなら、多分即刻血祭り確定だからな。
 本当に心して使えよ。


**


 最初に稜海が一発かましたお陰か、33棟の検査も比較的スムーズに終わりを告げた。
 行く先々で自主的に麻薬を出してくる囚人たちと来たら、面白味なんて何もなかったな。もちろん中にはすんなり物を出さない狂犬みたいな奴もいたけど、一度稜海が指を鳴らせばあら不思議。みんな従順な子猫ちゃんに早変わりだ。

 そんなわけで残すところは44棟だ。
 蒼の管理するこの棟は穏やかな連中が入れられてるために、それほど警戒することはない。
 それに、この棟の魅力は囚人達ではなく蒼の大改造によってまるでからくり屋敷みたいになってる所にある。

「こんな迷路みたいな所でよく暮らしてんな」
「慣れだろ」

 まぁ、それしかないわな。
 検査自体には全然時間を取らないが、移動時間がバカみたいにかかる。隣の部屋に進むのに何回扉を開けたことか。
 おまけにただ開けて進むだけじゃなくて、いくつかある扉のうちどの扉かが正解で、間違えると玄関に戻っちまうという鬼使用ときた。
 玄関に舞い戻らないように地図を広げて何回も確認するから、それでまた時間がかかる。

「まぁでも、看守対策には持ってこいだからな。良く出来てるよ」
「かなりの時間を足止め出来るだろうしな……ここか」

 扉ばっかすぎて、危うく部屋番号付きの――つまり囚人がいる部屋を見逃すところだった。
 これまでも稜海と2人であーだこーだ言いながら来たから、もしかしたらもう何回か見逃してるかもしれないけど。この棟はそんな大それた違反してる奴もいねぇだろうし、見逃された連中はラッキーってことで。

「4444号室」
「はーいどうぞ……げっ、ゆりちゃん」

 おいこら。

「ちょっと純くん?げっ、とは何だね?」
「蒼の代わりが稜海さんってのは想定内だけど…ゆりちゃんは予定にないから」
「だからって、その反応はねぇだろ」

 言葉だけに足らず顔まで本気で嫌そうじゃねぇか。
 愛しい恋人捕まえて、なんて酷い態度だ。

「痴話喧嘩なら余所でやれ。さっさと入れろ」
「あ、いや。ちょっと待って。享が体調悪くて…寝込んでるから……移るかもしれないし…」

 いや、さっき普通にどうぞっつったろお前。
 何で急にしどろもどろしだすんだよ。


「純?何して……げっ、ゆりちゃん」

 お前もかこら。
 しかも全然体調悪そうじゃねぇし。

「……享が、体調不良で」
「………ごほっ、ごほっ」
「わざとらし過ぎんだろ!」

 これはいよいよ怪しい。
 一体何を隠してんだこいつら。

「入るぞ」
「えっ、ちょ、あー…」

 純と享の制止を振り切り乗り込むと。
 視界一面に広がったのは……ベッドだ。うん、ベッドだな。
 えっ、つまり…部屋が一面ベッドなんだけど。
 何これ。

「寝るためだけの部屋か。面白い発想だな」

 これまで数々の違反物を目にしてきた稜海でも、このタイプは初お目見えらしい。
 まぁ、部屋をまるごと寝床にしようなんて普通考えないからな。

「俺は欲しいものはゆりちゃん所に置けばいいし、享は蒼の所に置けばいいからな。この部屋は基本的に何もいらないんだ」
「でも何も置かないのも勿体ないから…要に看守室にある一番デカいの持ってきてくれって頼んだんだ」

 で、このサイズと。
 キングサイズってやつ?それとももっとデカい?
 とにかくでかすぎて2人どころか10人くらい寝られそう……ちょっと待て。

「てことはお前ら、一緒に寝てるってことか?」

 同じベッドで?2人仲良く?
 何だそれ、ふざけんなよ。


「……だから嫌だったんだ…」

 俺が言わんとすることを悟ったらしい純が、頭を抱えるように溜め息を吐く。その隣で、享は苦笑いを浮かべていた。
 この確信犯共、まじでふざけんなよ。

「つーか、蒼は何やってんだよ。こんなもん野放しにしやがって」
「蒼が知ってるわけないだろ。いつも検査日朝に片付けてんだよ」

 こんなでかいもんどうやって片付けんだと思うけど。
 俺の部屋の棚が一瞬で小さくなるんだから、蒼に頼めばこのベッドを小さくするか…もしくは小さく収納する何かを作ることだって簡単なはずだ。
 蒼は享が頼めば例えそれが核兵器だとしても、訳も聞かずに作るでしょうしね!

「とんでもない奴等だな。稜海、没収!」
「これだけデカいんだから、別々のベッドで寝てるのも同じだろ」
「そうそう。むしろ端と端で寝てたら普通のベッドより離れてるじゃねぇか」
「枕がくっついてますけど?はい没収!!」

 何が端と端で寝てたら、だ。
 思い切り仲良く寝てんのがバレバレなんだよ。

「別に一緒に寝るくらいいいだろ。何が減るってわけでもないのに」
「誰に迷惑かけてるわけでもないしな。最近寒くなってきたから、減るどころかむしろ風邪引きにくくてお得だし」

 何を2人して開き直ってんだコイツらは。
 風邪引きにくくてお得って何だ。意味分かんねーよ。

「つーか、お前は蒼んとこでも行っとけよ」
「享がいなくなったら俺が一人になるだろ。俺なら風引いてもいいって?」
「俺の所に来いよ」
「月の半分以上検体で朝方までいないくせに何言ってんだ」
「………は、半分以上は言い過ぎだろ」

 少なくとも今月はまた10回くらいだし…連続じゃねぇし…。
 今月あと半分あるけど。
 流石にもうあと5回もぶちこまれてたりなんか……しねぇよ。多分。

「どっちにしても、蒼もあれこれ作るのにほぼ軍事施設にいるから蒼の部屋に入り浸るのは無理だ」

 ちなみに軍事施設ってのは共有地の近くにある基本的に看守しか入れないエリアだが、武装機器を数多く作ってる蒼は特例で夜間のみ自由に出入りする許可を得ている。
 だからまぁ、機械いじりするのは夜間しか出来ないってことなんだろうけど。

「つまり、享と純が一緒に寝てるのはお前と蒼のせいってことだな。後は勝手にやってろ」

 勝手にやってろって。
 今はっきり俺に敗戦宣言したよな?俺のせいだって言ったよな?
 そんなハッキリ言われてどう反撃しろってんだよ。


「……とりあえず蒼に報告だな」

 この続きをどうするかは、帰ってから考えよう。




え?これで終わり?
ねぇ、こんなお粗末な終わ
「邪魔だ退け」
おい最後まで割り込んでくんな。
……こんな終わりで大丈夫なんだろうな?



end.


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