Long story


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弐拾――病気は物事を進展させるフラグ?

 夏風邪は馬鹿が引くと言う。
 6月は夏なのだろうか。6月のイメージとしては梅雨ということが大きい。今も外ではぽつりぽつりと雨が降っている。この時期は、生徒会室での侑の悲鳴が名物なのだと風のうわさできいたが、どうやら今年はその悲鳴があまり聞こえないらしく、1年生のファンをがっかりさせているらしい。その傍ら、新聞部では例年になく騒がしい梅雨の日々が送られているということを知っているのは、新聞部と心霊部に御曹司、そして騒ぎを起こしている張本人の生徒会長だけだ。
 さて、話を元に戻すが。梅雨は夏なのだろうか。それとも、梅雨という季節で一括りして、夏とは別に考えていいのだろうか。やはり四季、と言うからには季節は4つに限らなければならないのだろうか。
 そもそも、誰が夏風邪は馬鹿が引くなどと言いだしたのだろう。そんなこと誰も言い出さなければ、秋生がこんなに悩むこともなかっただろう。

「やっぱり俺は馬鹿なんだろうか…」
「今更何を言っている。お前が馬鹿なのは夏に風邪をひかなくても分かりきっていることだ」
「先輩、酷い」

 結構真剣に悩んでいた問題に、華蓮はいとも簡単に厳しい答えを返してきた。秋生は伏せていた目を開けて、一瞬華蓮を見てから時計の方に視線をやった。華蓮が部室から出て行ってずいぶん経ったような気がしたが、実際は5分も経過していなかったらしい。どうやら時間の感覚も大分おかしくなっているようだ。

「また上がったな」

 秋生の額に手を当てて華蓮がつぶやく。秋生の鼓動が早いのは、決して体調のせいではない。これでは熱が上がる一方だ。

「……すいません」
「何が」
「俺が初めから学校休んでたら、みんなに迷惑かけることもなかったのに」


 今日は朝から体に違和感があった。いつもより寝起きが悪かったり、やたらと体が重く感じたり。しかし、きっと良狐が体の中で好き勝手動き回っていたのだろうと思い込み、そのまま学校に来た。
 朝から悪霊に出くわすこともなく、1限、2限と授業をこなす中で、ようやく良狐のせいではないかもしれないと思い始めた。朝とは比べものにならないくらい体が気怠くなり、意識も朦朧としてきたからだ。そして次に気が付いたときには、何故か教室の床に転がっていた。

 しかし、それから先は鮮明に覚えている。
 春人が「秋生が死んじゃう!」と(なぜか)世月に連絡したらしいのが2限終わりの休み時間。世月から連絡を受けて深月と侑が教室までやってきて、大騒ぎになったのも2限終わりの休み時間。侑に抱えられ周りから酷く注目されながら新聞部に移動した時間も上に同じ。
 それから新聞部のソファ(正確には、生徒会室から無断で持ち出してきたソファ)で横になっていたところ、華蓮がやってきたのが3限。馬鹿だの間抜けの罵られるかと思ったら、「大丈夫か」と心配されてときめいたのも3限。
 しばらくそのまま横になっていたのだが、雷が鳴るたびに侑が騒ぐものだから休むに休めず、今度は華蓮に抱えられて心臓が止まるかと思いながら心霊部に移動したのが3限終わりの休み時間。


 そして今現在。心霊部の華蓮御用達のソファを乗っ取って、いつぞやの憑依事件の学習能力もなく、またしても多くの人に迷惑をかけて後悔しているのが、4限。
 秋生が大きなため息を吐くと、華蓮少し呆れたような様子でいつも秋生が使っている椅子に座った。わずかながら距離が遠くなったことが、少しさみしい。

「家で倒れて誰も気付かないより、ここで倒れてくれてよかったと春人は安心していたし、病人を颯爽と抱えていくというシチュエーションを1回やってみたかったと侑は楽しんでいたし、お前が倒れたことで生徒会室から新聞部にソファが渡ってきたと深月は喜んでいたし、春人がお前を心配して泣きそうな顔しているところを写真に収めて世月は満足していた」
「…つまり、どういうことですか」

 春人以外は個人の利益の話にしか聞こえない。

「誰も迷惑していないから、安心しろ」

 むしろ内3人は得をしているのだから、感謝はされても迷惑がられることはない。華蓮はそう言ってから、机に頬杖をついた。

「…それならいいんですけど。……でも、先輩は?」

 結果的に今こうして秋生の面倒を見ているのは華蓮だ。それなのに、華蓮には何もメリットがない。

「お前を山車にして校長からの呼び出しを断った」
「え!?…それ、めちゃくちゃ不味くないですか!」

 思わず起き上がってしまった。頭をハンマーで殴られたような衝撃が走り、体がふらつく。

「大人しくしていろ」

 倒れそうになった体を華蓮に支えられ、今度は心臓に衝撃が走る。これでは身が持たないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「でも……」
「大した話じゃない。部の顧問が変わるから、その顔合わせだ」
「顧問…なんかいたんすか。この部」

 1回も見たことがない。てっきり、華蓮が部長兼顧問のようなものかと思っていた。

「顧問がいない部活があるか。…この部の顧問は、毎年変わる。誰も請け負いたがらないから、俺が所属するクラスの担任が強制的に顧問になる。来週から、その担任が育児休暇で臨時の担任が来るから、強制的に顧問もその臨時になるということだ」

 色々と制度が決まっているのだな、この部も。秋生は今一度ソファに横になりながら、改めてこの部の奥の深さに感心した。
 そして何より、今日このタイミングで華蓮を呼び出してくれた校長に感謝だ。

「迷惑かけてないなら、よかった…」
「気にしすぎだ、お前は。そんな暇があったらさっさと治せ」
「大丈夫です。俺は風邪引きやすいのと同時に、治りも早いですから」

 秋生はそう言って、目を閉じた。本当はもっと華蓮と喋っていたいが、体のけだるさがそれを妨げたからだ。秋生が目を閉じたからか、それ以上華蓮が話しかけてくることはなかった。




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