Long story


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佰弍拾くーーー今まで歩いてきた道

 だらだらと列が続く中、その列とは逆の方に歩く。秋生はその光景を目にしながら、アニメや漫画で見たままだなぁと…そんな呑気なことを考えていた。
 これらは全員、閻魔大王に審判を待つ魂たちの行列だということだ。この先に待つ閻魔のいる間で、ここにいる魂たちが天国に行くのか地獄に行くのか、地獄ならば何階に行くのか、その判決が下る。

「1日に3千人から4千人死んでるとして…どう考えても1日に同じだけの数は捌けねぇもんな。待機組が増えてく一方じゃん」
「それはどうだろうな。地上?…とは時間の流れも違うだろうし、私たちの1日がここでの3日とかなら…そう難しい話でもないだろう?」
「いやいや、仮に3日だとしても1日千人じゃん。ちょっときちぃだろ」

 秋生がぼけっと歩いている中、真柚と柚生は冷静に分析をしていた。
 その話を聞きながら、今歩いている人たちは一体何年前に死んだ人たちなのだろう?と秋生は思う。実際に流石に着物姿の…という人はいなかったが、一昔前に死んだんだろうな。というような格好の人物は少なからずいた。

「1日で千人程度も捌けないから、日本の閻魔は無能だと言われるんだ」
「えぇ…父さん、随分と閻魔に対して厳しいな。俺らも死んだら裁かれるってのに、そんなこと言ってっと酷い目に遭わされんじゃねぇの?」
「お前が死ぬ頃には父さんが閻魔にでもなってるだろ。媚を売るなら今だぞ」
「え!?マジで!?…お父様、肩をお揉みいたしましょうか?」
「馬鹿なこと言ってる暇があったら、母さんの出産をバックレた言い訳でも考えたらどうだ?」

 そう言えば、春人は今日は朝から弟が生まれるから…と、急いで家に帰っていた。それなのにこんなところに呼ばれて、きっと大丈夫と思っているから、相澤家の面々はその点について焦りを見せてないのだろう。
 ただ、違う点には焦りを見せているようで…隼人と幸人は思いきり顔をしかめていた。それを見てくすくす笑う春人の楽しそうなこと。なんとも愉快な家族だ。

「……あの家族見てたら、俺らはまだ普通だっって思えるよな」
「うん、すっげぇそう思う」
「ところで、双月はどうしてそんな格好してるんだ?世月が憑依してると関係があるのか?」
「え、李月気付いてたのか」
「そりゃあ見れば分かるだろ、そんなこと」

 李月は当たり前のようにいうが、少なくとも秋生は全く気付いていなかった。それに気付いた李月も凄いが、憑依されている状態で全くもって普通にしていられる双月も凄いと秋生は思った。
 そして同時に、自分に霊を憑依させてその母親と話をしたことを思い出す。無事に霊を成仏させたはいいが凄まじい反動で動けなくなり、華蓮におぶって帰って貰ったあの頃が懐かしい。

「世月が双月の服は嫌だって駄々捏ねてたら、春人の父さんが1回帰って持ってきてくれたんだよ」
「我が儘娘も過ぎるだろ」
「本当にな。それも、わざわざ母さんに電話までして用意して貰ってさ。ちょっとくらい我慢しろってんだよな」
「あんなパンクな格好、好みじゃないんだもの」
「お前よ、出てくんなら今じゃねぇだろ…」

 双月から分離するように世月が出てきた時点で、決して普通ではない。秋生にも世月が見えるのは、きっとこの場所が特殊だからだろうが…それにしてもやっぱり、普通ではない。
 そもそもどうして世月は、見えるのに双月に憑依していたのだろう?そして、世月が分離したのを見て深月が呆れたような声を出す意味も分からなかった。

「普通って話をするなら、僕たちが一番そうだよね。ほら見て、仲良し兄弟」
「うわっ、あぶねっ」
「桜生、秋生が転ぶぞ」
「いいよいいよ。転ばせとけば」
「よかねーよっ」

 桜生は右手に琉生の腕を、秋生の腕を無理矢理引っ張り抱き込んで歩く。今の秋生は疲労困憊で平坦な道でも山道を歩いているような気分だというのに、そんなこともお構い無しに進んでいく。
 このままのペースで行けば確実にどこかで転ぶが。もしも本当にそうなったら、絶対に道連れにしてやろうと思った。

「……闇落ちお兄ちゃんと狐憑き双子か。どこにでもいそうな兄弟だな」
「ああ。至ってどこにでもいそうだ」

 馬鹿にしている。こちらを見る真柚と華蓮の目付きは、明らかに秋生たちを馬鹿にしているものだった。
 揃って触ってはいけないものを触り、とんでもないものを呼び込んだお騒がせ兄弟が何を言っているのか。そう文句のひとつでも言ってやりたいが、兄弟ではない2人にそう返すことはできない。そう思うと、何とも複雑な気分になった。

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