Long story


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拾参――出逢いはいつも突然に

 学校全体を巻き込んだ怪事件も無事解決してから、早1週間。
 学生たちの大敵、テスト期間がやってきた。テストで好成績の者にとっては、自分を目立たせる最高の機会のため、むしろ待っていましたテスト期間なのだろう。秋生はいつもなら前者。しかし、今回はそうでもなかった。
 怪事件のせいでテスト習慣が1週間ずれたのが幸いだった。そしてそのテスト習慣の間に目立った事件がなかったのも幸いだった。さらに授業に出られない秋生のためにノートを取ってくれる友達が春人だったこともよかった。春人のノートは実に読みやすく、分かりやすかった。そして何より、自分が心霊研究部であってよかったと思った。図書室などは混むので華蓮に迷惑がられるのを覚悟して部室で勉強することにしたが、華蓮は迷惑がるどころか、秋生が理解できずに項垂れていると助け舟を出してくれた。これがまた教えるのが上手いものだから、勉強がはかどった。
 以上のことから、秋生はテスト習慣中実に上機嫌だった。テスト自体は大敵だが、テスト習慣は好きだという矛盾した状態であった。


「うへー、やっと終わった」

 春人が前方から声を出す。

「疲れた…」

 たった1日たった3時間のテストであるが、普段の授業よりも体力を消費する気がする。これがあと2日も続くかと思うと、気が滅入ってしまいそうだ。改めて、中学のようにはいかないのだと実感する。

「やっぱり俺、現文苦手だなー。作者の意志なんてしらないよー」
「全くだ。何で俺たちがあったこともない奴の深層心理に触れなきゃいけないんだ」

 2人して勉強ができない人間の典型的な言い訳を口にしている。言っていることはもっともなのだが、そんなことを言っていたら勉強なんて出来やしない。どの教科だって、同じような言い訳で片付いてしまう。

「秋、夏川先輩に勉強教えてもらったんじゃなかったの?」
「教えてもらったのは数学と英語と漢文と物理に…とにかく、現文は教えるようなもんじゃないって言われた」
「ずるいなぁ。みつ兄なんか、歴史以外受け付けないって言うんだよー。酷くない?」
「深月先輩なら言いそう」

 秋生はその光景を想像しておかしくなり笑った。

「笑いごとじゃないって。しょうがないから歴史だけ教えてもらおうとしたら、妖怪の話にシフトしていくし〜。俺が知りたいのは妖怪の歴史の話じゃないんだよ?テスト期間にいらない知識叩き込まないで欲しいよ、全く」

 あまりにも容易に想像できる光景に、秋生はもっと笑った。春人は顔を顰めて秋生を睨むが、おかしいものはしょうがない。

「まぁ、世月先輩が代わりに教えてくれたからいいけどー」

 その言葉に秋生の笑いがぴたりと止まる。

「ちゃっかりいい思いしてんじゃん」
「まぁ、それなりにね」

 そう言って笑う春人は幸せそうだ。その笑顔を見ると、何となく秋生も気分がよくなった。

「で、秋生はどうなの?夏川先輩と勉強して心境の変化はあった?」
「別に何も。…しいて言えば、最近優しくなった気がするくらいかな」

 秋生が思い出すように喋るのを聞いて、春人はにやりと笑った。

「…なんだよ、その顔は」
「ううん、何でもないよー」

 何でもないという表情にはとても見えなかったが、春人は問いただしてもこれ以上何も言わないだろう。

「さて、じゃあそろそろ帰りますかー」

 納得していない秋生の視線が重くなったのか、春人は一気に荷物をまとめて立ち上がった。秋生はまだ腑に落ちなかったが、しょうがなくそれに続いた。


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