Long story


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佰拾肆ーーーカウント、6


 いつの間にか、知らない場所に立っている。深月の視界には、どこの異世界だろうというような景色が広がっていた。
 見渡す限り焼け野はら。所々で火があがって、焦げ付く臭いが鼻につく。ゲームの世界観で例えるなら、今正に爆撃があったばかりというような場所だった。
 当たり前だが、そんな場所にはひとっこひとりいやしなかった。

「多いな。俺はそんだけ力不足ってことか」

 明らかに普通ではない光景。それを目の前に不思議とも思わず、そんな不満染みたことを呟いているのはガトリン次男こと幸人だった。
 深月はまずその姿を目にして、次に幸人とは対照的にあんぐりと口を開けている双月。それからその隣にいるのは……またしても双月、ではない。

「世月?」

 深月が顔をしかめると、世月は少しだけ驚いたような顔をした。
 はやり世月だ。

「あら、私が見えているのね。双月も?」
「見えてる。世月、久しぶりー」
「久しぶりね…あ」

 双月がハイタッチを促すように手を上げ、世月がそれに応じる。その瞬間に音こそしなかったが、確かに触れあっていた。
 世月はまた驚いた顔をした。双月は、もっと驚いた顔していた。

「触れる…?」
「……お前、双月の体乗っ取って来たんじゃねぇだろうな?」
「馬鹿ね。じゃあこの双月は誰なの?」

 深月の冗談に、世月は睨み付けるような視線を寄越しながら返した。冗談とはいえ…もしかしたら双月を分割して…と少しだけ考えはしたが。流石にそんなことはしていないようだ。
 しかし、今まで見えもしなかった世月が見える。それだけではなく、触れられる。一体この世界はどうなっているのだろう。

「地獄だからな。色々と変化もあるだろ」
「ああ、なるほどそれで…は?」

 あまりに自然な一言に一瞬納得しかけたが、深月はすぐにその言葉の驚愕な点に気が付いて首を傾げた。
 地獄という言葉が聞こえたが、聞き間違いだっただろうか。もしくは、そういう紛らわしい地名なのだろうか。

「地獄って…え?そういう地名の場所ってこと?」
「どうして私に聞くの?…流石に地名ってことはないでしょうけど」

 やはり聞き間違いではなかったようだ。双月が深月と同じような疑問をなぜか世月に問いかける。それに対して世月は顔をしかめながらも、自分の考えを返答していた。
 そして、世月の考え通り地名ではないということは。

「正真正銘の地獄だよ。どうしてこんな事態になったかってーと、お前たちの父さんは大人になっても相変わらずですねって話だ。詳しいことは帰って他の連中にでも聞きな」

 全く何も理解できない説明だった。そして理解していようといまいと、これ以上説明するつもりはないらしい。
 となると、ここに来るまでの大人たちの会話と、何も理解できない言葉と状況。そこから察するしかないのだが…やっぱり何も分からなかったので、幸人の言うように帰って誰かに聞くしかないだろう。

「………いや、だとしても何で俺たちが地獄に落とされてんの?…ですか?」

 双月が普通に喋った後でハッと相手が年上だと思い出し、慌てて訂正する。それに対して幸人は「別に普通にしろよ」と笑った。
 という、そんなやり取りはいいとして。
 ここに来ることになった経緯は置いておくとしても、せめてその理由は知っておきたい。それは深月も同じだった。

「ここに落とされた理由としては、琉佳さんの分身をけちらして地球をブラックホールの脅威から守るためだ」
「……え?これって、意味分かんない俺がおかしい?」
「いいえ。貴方は正常よ」
「ま、その辺も詳しくは他の連中に聞いてくれってことで。とにかく、琉佳さんの分身…ってか魂を蹴散らしゃ帰れっから」

 これは単に説明するのが面倒臭いのか。高校生の面倒を見るのが面倒臭いのか。単純に早く済ませて帰りたいのか。そのどれにしても、やはりこれ以上説明する気はないのだろう。
 つまり、考えるだけ無駄。ことの経緯を詳しく知るには、さっさと目的を果たして帰る。そして他の詳しく聞いている誰かに、自分達が何をしていたのかを聞く。それが得策だ。

「……で、その魂ってのはどこにいんだ?」

 双月への態度を見ていた深月は、最初から敢えて敬語は使わないことにした。その判断は間違っていなかったようで、それを指摘されることはなかった。
 深月の疑問に「そうだな」と呟いた幸人は、何かを探すように辺りを見回す。そして、双月を…その背後を指差した。

「多分あれかな」
「あれ?……何だありゃ、シェルター?」

 双月の背後、数十メートル先に四角い、そして真っ白い箱のようなものが見える。大きさ的には新聞部の部室ひとつ分といったところだろうか。
 何にしても、焼け野はらの中に存在してるのには、場違い感が半端ではなかった。あれだけ目立つのに、言われるまでは全く気が付かなかったというのも不思議な所だ。

「あれは琉佳さん、蓮さん、瀬高さんの誰かの記憶だ。あそこに行くか、見るか、聞くかすりゃあ、出てくるんじゃねーかな?」
「……適当なのね」
「俺あんま真面目に話聞いてねぇかんな。とにかく地獄に記憶があって、それを見つけたら近くに地獄には存在し得ないものがあるから、それを探してぶっ潰せば魂ゲットってことしか」
「………すごく適当なのね」

 説明するのが面倒臭い訳でも、高校生を相手にするのが面倒臭い訳でもない。きっと、自分でもきちんと理解していないーーする気もなかったため、説明出来ないのだ。
 世月はちょっとだけ呆れたような視線を向けていたが、幸人は気にもしていなかった。そして、シェルターのような記憶に向かって歩きだす。

「……もしかしてあれ、病室?」

 幸人に続き白い箱に近寄って行くと、それが部屋であることが分かった。そして双月の言った通り、それは紛れもなく病室だった。
 いやーー正確には、病人が入院するような病室ではない。そのことを深月は知っていた。過去に全く同じものを見たことがあったからだ。
 霊安室。
 扉の上にそう書かれてある文字が光っている。それは、そこに人が存在するということを示していた。



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