Long story


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佰拾弌ーーー向こう側では


 コントローラーを投げたくなる程、ゲームに苛立ちを感じることは久々だった。
 最近はどんな初見ゲームでもそつなくこなせるようになってしまい、最初から縛りプレイでやっても1日あればクリアしてしまう。あまつさえ、一通りやってしまうと隠しシナリオや隠しキャラがどうすれば出てくるかということさえも攻略を見ることなく予想できるようになってしまった。3日経てばただの作業ゲーのようになってしまうので、正直やり甲斐を失いつつあった。
 そん中自分の手元にやってきたこのマイナーゲームは、華蓮にゲームに対する熱意とやり甲斐をを思い起こさせてくれる救世主だった。深月曰く、「ゲームに慣れすぎた人の為のゲーム」がコンセプトとして売り出された名前も売れていない小さい会社のゲームながらも、絶対にクリア出来ないとネットで噂になっていたものらしい。それを知り興味本意で買った深月だったが、チュートリアルで躓き華蓮に投げつけてきた。

「…あ」

 自分が動かしていたキャラクターが全く予期せぬ方法からの射撃に突如ゲームオーバーした。明らかにアフリカ辺りの戦地で木に忍者が隠れてましたなんて、そんな設定があっていいのか。さっきは同じタイミングで空からミサイルではなく空母がそのまま降って来て潰されゲームオーバー、その前は地面の下から謎の地底人が登場して噛みつかれゲームオーバー。
 チュートリアルは終えた。それからシナリオ進行度20のうち、3まで終えるのに3日もかかった。そして今現在。華蓮は進行度4の段階で、本格的に躓いていた。

「いい加減諦めたらどうだ?」
「冗談抜かせ」

 ダイニングテーブルから聞こえてきた李月の声に返しながら、華蓮は顔をしかめつつセーブをして電源を落とした。決して諦めた訳ではない、一時休戦するまでだ。

「でも明らかに1人でクリア出来る内容じゃないだろ。だからと言って、俺や深月じゃ足手纏いにしかならないしな」

 その言葉を否定したいところだが、その通りなのだから返しに困るところだ。進行度3までは多分、やっていればどうにかなる。空母も忍者も地底人も、分かっていれば対策が取れるからだ。
 しかし、進行度4は本当に1人ではどうにもならないほどに鬼畜仕様だった。流石に空母と地底人と忍者とそれから宇宙人とキメラまで同時に襲って来られては、どうにもならない。このゲームは2人プレイまで可能だが、華蓮が空母と宇宙人の相手をしている間に、忍者と地底人とキメラを同時に相手出来るくらいの手練れがいないといけない。もしくは逆でもいいのだが。しかしどちらにしても、李月にも深月にもそれは不可能だった。

「お前がもう1人いればいいのにな。…いやまぁ、いるにはいるが」
「…いやでも、あいつの元は秋生と桜だからな」
「そうじゃなかったら候補に入れる気か」

 もしもカレンの元が自分で、自分と同じだけゲームスキルがあれば或いは…と華蓮は一瞬だけ考えた。しかし、それを李月が察して「それこそ冗談抜かせよ」と呟いたのを聞いて我に返り、確かにとんだ冗談だと思い直した。


「いーつーきー!コーヒー煎れて!」

 変な案まで候補に入れ始めてしまった辺り、集中力の低下は著しい。今日の挑戦は諦め、一度じっくり考えてみるとしよう。リビングから廊下に繋がる扉が開いたのは、華蓮がそんなことを考えながらゲームを片付けようとしていた時だった。
 深月は入ってくるや否やダイニングテーブルに座っている李月の向かいに座り、テーブルに体を張り付かせた。どうやら、相当疲れているらしい。

「そこにインスタントがあるだろ」
「李月がいるのにインスタントなんて邪道だろうが!李月への冒涜だ」
「当人がインスタントをオススメしてるのに何が冒涜だ」
「李月お兄ちゃんのいれたコーヒーが飲みてぇなー。世界一美味しいコーヒーが飲みてぇなーっ」
「気色悪い」
「ひでぇ。朝方までお仕事だった弟になんて仕打ちだよ」

 同じ顔が向かいあって互いに顔をしかめて同じ顔で、鏡のようだなと華蓮は思う。
 深月はやはり遅くまで出掛けていたらしい。一般職の夜勤というならともかく、一流企業の御曹司が朝方まで仕事だなんて…どこかで闇取引でもしていたのだろうか。

「李月、コーヒー煎れて。侑とチェスしてたら疲れたー」

 リビングはいつからか李月が経営するカフェのようになっているらしい。
 今度は双月がやってきて、深月を押しやるようにしてその隣に腰を下ろした。鏡の状態が解消される。

「何がいい?」
「うーん、カフェラテかな」
「ねぇちょっと李月お兄ちゃん?」

 深月との扱いの差が露骨だ。
 思わず突っ込みを入れたくなるのも無理はない。

「ついでにお前も」
「えっ、まじ?やったー。じゃあ俺はブラックで…じゃなくてお兄ちゃん?」

 という言葉を李月が華麗に無視した頃、再び扉が開く。しかし話し込んでる面々は誰もそれに気が付かない。
 華蓮はというと、アホみたいな兄弟トークを尻目にゲームを片付けていたのだが。テレビ台の横に置いてったプラスチックケースに目が行き、それを手に取っていた。

「ちょっと李月お兄ちゃん?」
「何だ」
「同じ弟なのにこの扱いの差は何?お兄ちゃん?」
「……双月への負い目?」
「え?それ本人の前で言っちゃうと俺が気にしちゃうやつだよね?なんかごめんね?」
「僕カフェモカ!」
「うぉあああ!?」

 深月と双月の間から侑がひょこっと顔を出すと、2人は飛び上がらんばかりに肩を鳴らして大声を上げた。

「うるさいなぁ」
「いやお前!マジお前!殺す気か!」
「死んだと思った!いや多分一瞬死んだ!」

 侑が顔をしかめる両サイドで、深月と双月が顔を真っ青にしていた。
 もしも2人の心臓が老人並みに機能低下していたなら、間違いなくショック死していただろう。それ程の驚きようだった。

「いつからぬらりひょん機能搭載するようになったんだ?」
「すごいでしょー。深月の妖力がいよいよ溢れすぎて僕の妖力と混ざって来ちゃってね。ほんの僅かなことだけだけなら深月の力を使えるようになったんだよ。ほら」

 深月が吸い込まれるように消えるのとは違い、侑はゆっくりと霧に呑まれるように消えていった。李月が「凄いな」と言うと、いつの間にかその隣に侑の姿がある。確かに精度としては劣るが、深月の力だ。
 それは華蓮と秋生が互いの妖怪を呼べるようになっているのと似ているが、呪術ではないという点で大きく異なる。華蓮は思わず未だに呪いがかかったままの自分の腕を見て、溜め息を吐いた。

「華蓮は?どうする?」
「いる。ブラックでいい」

 李月に問いに答えながら、華蓮はプラスチックケースを開けた。
 それはこの間、呪詛でがんじがらめにされた箱を見つけたときに一緒に見つけたもの。過去の録画映像が焼かれたDVDが入っているのものだ。

「……その箱がどうかしたの?」

 先程の光景を見ているため、いつの間にか侑が隣でケースを覗き込んでいても驚くことはなかった。
 華蓮はその中の一番端を指差す。

「この前は気付かなかったが、このDVDだけメーカーが違う」
「……あ、本当だ」

 華蓮が手に取った理由は、そのメーカー名が視界に入ったからだった。
 DVDに記されているのはとても小さい文字だったが、華蓮はその違和感を見逃さなかった。

「あれ?このメーカーって、ここ最近統合されたやつじゃなかったっけっか?」

 深月がやってきたのは足音で分かった。続くように、双月がやってきたことも。
 そして深月も華蓮と同じように、その違和感――というより、状況的におかしいということに気が付いたようだ。

「ああ。この、元のDVDにあるメーカーが吸収された形でな。……確か、2年前だ」
「おかしくね?」
「おかしいな」

 だから華蓮も気になった。
 どれも古いメーカーのものに焼かれているDVD。当たり前だ。その当時、1枚だけあるこのメーカーは存在していなかった。
 ならば、これは一体いつ紛れ込んだものなのか。そもそも、このプラスチックケースはいつから床下に置いてあったのか…という話にまでなってくる。

「見てみりゃ分かんじゃね?」
「……でも、罠だったりしねぇよな?」
「罠って、何の?」

 と、そんなやり取りを聞いている間に華蓮はそのDVDをレコーダーにセットした。
 ここでいくらやり取りをしたところで、見ないことにはどうにもならない。仮に罠だったら受けて立つ。もしも呪いのビデオだったとしても、これだけの人数がいれば分散されるだろう。

「容赦ねぇな!呪いのビデオとかだったらどうすんだよ!」
「死なば諸とも」
「勝手に巻き込むな!」

 そう言ったところで後の祭り。
 ブツッと回線が切れるような、電源が入ったともとれるような音がする。そして、どこか薄暗い室内が映し出された。



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