Long story


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拾弐――欲しかったもの

 大鳥グループの力――世月の発言力というのは、大鳥家の中でどれほどのものなのだろうか。少なくとも、ただの娘ではないことが、深月に与えられた病室からうかがえる。それからもう一つ、深月の交友関係もきになるところだ。


「みつ兄、これも食べていい?」
「ああ。そんなにあっても食べきれないし」


 ソファに腰かけてお菓子をほおばる春人に、深月はテレビ画面から目を離すことなく返した。テレビの横には最新のテレビゲーム機、手にはコントローラーが握られていた。深月の持ち込みではなく、病院からの貸し出しらしい。

「秋も食べるなら置いとくけど、どうする?」

 春人がお菓子を食べる手を止める。お菓子は山のように積まれていて、とても人一人の見舞い品の量ではない。しかし、春人の食べ進める速度を見ていると、全部食べてしまいそうだが。

「えー、あーうん。これ終わったら食う」

 深月のゲームの相手をしながら、秋生が答える。対戦形式と協力形式のある戦闘系ゲームだ。対戦形式で深月と戦っているわけだが、これが全く勝てない。

「あっ、しまった」

 と、言った次の瞬間に深月の操作する機体に撃ち落されてしまった。先ほどからこれの繰り返しだ。

「はっはっは。ゼロは何も答えてくれませんねぇ、秋生くん」
「ちょっと操作ミスっただけっすよ」
「ミスらなくても俺のフリーダムに勝てる奴なんていませんけどね」
「…あとでぼこぼこにしてやる」

 秋生はふてくされたように呟いてから、コントローラーを置いて春人の元に場所を移った。病室にソファが置いてあることは珍しいことではないが、このソファは明らかに違った。まるで学校の校長室のようなソファと、その間にガラステーブルが置かれている。普通の病室ではまず考えられない。

「夏、相手して」
「遊びにきたわけじゃない」
「世月が来るまでどうせ暇だろ」

 そう言って深月が言うと、華蓮は面倒臭そうにしながらもソファから立ち上がり、さきほどまで秋生がいた場所に移動した。


「…このゲームやったことある?」
「いや」
「じゃあお前ジオングな。俺はフリーダム」

 鬼畜だ。機体の選出に配慮が全く感じられない。華蓮は深月が口にした機体の性能の違いが分かっているのかいないのか、反論することはなかった。秋生は春人が残しておいてくれたお菓子をつまみながら、華蓮が気の毒になって苦笑いを浮かべた。

「操作はやりながら覚えろ」

 もはや外道だ。ここまでいくといっそすがすがしい。

「やりながら覚えろって…みつ兄、プライドとかないの〜?」
「俺には病人っていうハンデがあるんだよ」

 どこがハンデだ。確かに深月は肋骨が数本折れていて、足なんて複雑骨折をしていて首ずつをする羽目になったのだが。それとゲームとは何の関係もない。
 深月がハンデを口にしならが手術後の足を撫でていると、ガラリと扉が開いた。入ってきたのは、世月とそれから肩に乗った加奈子だ。加奈子は今日もぬいぐるみに憑依している。以前はボイスレコーダーが無造作に貼り付けられていて不細工だったぬいぐるみだったが、世月がボイスレコーダーをぬいぐるみの中に縫い込んだらしく、随分と見栄えがよくなった。ちなみに、前回の憑依から既に3日以上経っているが、何かのご褒美ということで再び憑依させてもらったらしい。


「それじゃあハンデにはならないわよ、深月」
「うっせ」
「世月先輩、加奈子ちゃん、おかえり〜」
「ただいま〜」

 春人に声を掛けられ、加奈子は世月の肩から春人の腕の中に飛び移った。加奈子はすっかりこの場に馴染んでいて、実体ができて会話できるようになったことで、華蓮と秋生意外にもくっついて行くようになっていた。

「これから始めようってとこだったのに」
「やればいいじゃない。どのみち、私は少し休憩するわ」

 世月の言葉を聞いて、深月と華蓮がゲームを開始した。

「世月先輩も食べます?」
「ええ」

 世月が春人の隣に腰かけて、春人からクッキーを受けとる。なんとも絵になるが、横からドンとかバンとか、キャラの台詞とかのゲーム音が聞こえてきて台無しだ。

「春君と秋生君はしないの?ゲーム」
「秋はさっきまでやってましたよ。みつ兄にぼろ負けで」

 春人がニヤリを笑う。秋生はクッキーを食べる手を止めて顔を顰めた。

「だから、それはちょっとしたケアレスミスで…」
「まぁ、深月はここに来て毎日あればっかりやっているから、しょうがないわね」

 世月はクスリと笑う。そうだ、経験の差だ。

「うわあ!」

 話を遮るように、深月の声が響く。と同時に、テレビからドカーンと音がする。
 ソファに座っていた全員が、テレビの方に視線を向けた。画面に大きく映っているのは――華蓮が使っていた機体だ。


「うそ…夏川先輩が勝ってる……」
「すげぇ…」

 春人と秋生は唖然とした表情を浮かべた。

「だから、ハンデにならないって言ったじゃない」
「いや…ジオングならいけるかなって思ったんだって!アッガイは俺のプライドが許さなかった…!」

 深月にもプライドはあったらしい。

「何にしても、どうせ負けるのはお前だ」
「うぜぇえええ!まだだ!まだ終わらんよ!」

 深月が叫び声を上げる。看護師が注意に来ないといいのだが。

「お前次、アッガイな!」

 とうとうプライドを捨てることにしたらしい。
 しかし、初めてのプレイで深月に勝ってしまうなんて、華蓮の呑み込みの早さには驚きだ。毎日ゲームばかりしているだけのことはある。


「みつ兄、勝てると思います?」
「そうねぇ…今日はかーくん、乗ってこないでしょうし」

 世月は少し顔を天井に向けて、何かを思い出すようなそぶりを見せる。

「乗ってこない?」
「本気にはならないってことよ。だから、かーくんがゲームに完全に慣れる前に、ガンタンクで戦ってもらったら勝てるかもしれないわね」

 世月の説明は、華蓮がいかに強いかを明確に示していた。一応弁解しておくが、決してジオングがフリーダムに劣っていると言っているわけでもないし、ガンタンクがアッガイに劣っていると言っているわけでもない。ただ、初めてプレイする人には使いにくいだろう――と、そう言いたいだけだ。

「先輩たち、こうやってよくゲームするんすか?」
「暇な休日に時々よ。かーくんの家は基本的にゲーム関係揃っているし、何より広いから遊ぶには絶好の場所なのよ。あと可愛い弟君がいて、一緒に遊んでいるわ」

 こんな風に、と深月に視線を向ける。プライドを捨て去って挑んでいるようだが、表情を見る限り苦戦しているようだ。時々「ああっ」とか、「バカっ」とか誰に向けてでもなく声を漏らしていた。そんな深月とは対照的に、華蓮は涼しい顔でもくもくと操作している。

「…なんと羨ましき弟君」

 春人がつぶやく。秋生も完全同意で、何度も頷いた。

「別に羨ましがらなくても、今の状況と何ら変わりないわ…って、そう言えば、侑は来ていないのね」

 世月がふと辺りを見まわす。いないのははなから分かっていることだが、条件反射みたいなものだろう。

「連絡はしたが、生徒会の仕事が忙しいと言っていた」
「あれ、あの子仕事はいつも……ああ、なるほど。そういうことね」
「そういうことだ」

 前に深月との間でも行われていた、詳細を離さなくても2人で通じ合っているあれだ。一体何がそういうことなのかはわからないが、それよりも秋生はこの通じ合っている感じを見ているのが何だか嫌だった。

「さて、じゃあ休憩も済んだことだし、本題に入りましょうか。2人はやりながら聞いてね」

 本題――と言われて、秋生は一瞬「何だっけ」と口に出しそうになった。しかし、すぐに“現在大鳥高校では原因不明の病が流行っていて、その元凶がこの病院にいるということでそれを調べに来た”という本題を思い出した。もしあのまま「何だっけ」なんて口に出していた暁には、華蓮に罵倒されていたに違いない。


「かーくんが今回の現況だっていう生徒、入院したのは2年前からよ。入学して3か月もしないうちに白血病になって、それで長期入院らしいわ」

 入学して3か月。学校に慣れてきて友達もできてきて、部活に入ったなら頑張って行こうと燃えている時期だ。正に、これから青春を謳歌していこうと、意気込んでいる時期だ。


「名前は本田紀彦(ほんだのりひこ)。病室はこの真上よ」


 そう言って、世月が上を指さした。真上って、先ほどから騒いでいる声が響いていなければいいのだが。秋生は少し心配になった。


「…で、どうしてこの生徒が今回の元凶なの?いい加減、教えてくれてもいいんじゃないかしら?」


 全くもってその通りだ。声だけ聞こえる謎の幽霊(かどうかも分からない)。それと今回の謎の流行病事件。そして突如出てきた入院中の生徒。華蓮は全てがつながっていると言うが、全く共通点が見られない。

「そうだな。…そろそろとどめを刺すか」
「今まで遊んでましたみたいな言い方すん…あああ!」

 ドカーンと、テレビから爆発音がした。どうやら勝負あったようだ。

「本気で喧嘩したら、お前が俺に敵うはずないだろ」
「こいつ!俺の機体の台詞を…!」

 深月が唇をかみしめる。厳密に言うと、乗っているパイロットの台詞だ。あと、秋生の記憶が正しければ、その台詞を言っていた時に乗っていた機体は深月が使っているものではなかったはずだ。何にしても、華蓮がそれを真似するとは意外だった。

「安心しろ。お前は一生言うことがない」
「うあああ!うぜぇえええええ!」

 深月はわなわなと震えており、華蓮はまるでどうでもよさそうにコントローラーを置いた。それを見ながら世月が意外そうに「案外乗っていたのね」と華蓮に向かって言ったが、華蓮は返事をしなかった。一体どの辺が乗っていたのか、秋生にはさっぱり分からなかった。


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