Long story


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拾弌――話は実に都合よく進む

 華蓮はすこぶる機嫌が悪かった。
 応接室に戻った矢先に電話がかかってきて、深月が今すぐ来いと言って電話を切った。てっきり他の連中が仕事を終わらせて戻ってきたのかと思った。だから、重い体を動かして再び新聞部に向かったのだ。
 しかし、いざ新聞部に戻ってみたら、深月と加奈子が憑依したぬいぐるみ以外は誰もいない。話を聞けば、声がしただけだというではないか。加奈子でも深月でもない誰かの声が加奈子だけではなく、深月にも聞こえたらしい。
 だからなんだというのだ。声なら前に秋生も聞いていた。しかし、秋生は声意外に何も感じることができなかった。秋生が感じることができなかったものが、華蓮だから感じられるという保証などない。あればとっくに感じているに決まっている。だから今、その正体を探るために侑や世月が動いているのだろう。


「いやあの、本当にすみませんでした」
「何発か殴らせろ」

 バットに手を掛けると、深月の顔が青くなった。

「夏川さん目がいってますって。思いきりバットで来る気じゃないですか死にますよそれ。何でもしますから勘弁してください」
「何でも?」
「うわ目の色変わったよこの人。やっぱり前言撤回、ある程度のことなら…」

 華蓮はバットを振り上げる。

「何でもやります!何でもやりますからすいません!」

 当たり前だ。そうでなければ、支障がない程度に本当に殴っていたところだ。
 華蓮がバッドから手を離すと、深月は安堵の溜息を吐いた。

「そんなにけだるいの?私のせい?」

 ウサギのぬいぐるみがちょこちょこと華蓮の方に寄ってきた。表情は分からないが、声の様子から心配しているのだということが受け取れる。

「…気にするな」

 華蓮が答えると、加奈子は小さく頷いた。

「加奈子ちゃんって、結構ぞんざいに扱われてる割に夏にも懐いてるんだな」
「夏は普段は冷たいけれど、本当は優しいのよ。でなきゃ、こんなことしてくれないでしょ」

 加奈子はそう言って、ぬいぐるみのお腹をぽんぽんと叩いた。

「加奈子ちゃん、秋生よりよっぽど夏のこと分かってるじゃん」
「まぁねー」

 深月に頭を撫でられた加奈子は自慢げに胸を張った。それほど威張るところではないと思うが。

「しかし、こんな無愛想な奴にどうして人が寄ってくるかなぁ」

 そんなことを言われても、華蓮の知ったことではない。別に華蓮が何をしたというわけでもない。ただ、近くにいる者が害にならないのならそれなりの対応をしているだけだ。

「確かに、秋よりも夏の友達の方が多いのは不思議」
「……それは十中八九夏のせいだなぁ」

 深月が苦笑い混じりに溜息を吐く。華蓮は否定しない。

「どうして夏のせいなの?」
「夏は人気もあるけど、1年生からしたら異質の存在だろうからな。そんなのと常に一緒にいたら近寄り難いだろ?それに、秋生が特別待遇に引っ張り込んだのも夏だろ。遅刻しても授業受けなくてもいいとなっちゃあ、妬む奴も出てくるだろうし…やっぱり夏のせいだな」

 華蓮と一緒にいて近寄り難いというのは全くもってその通りだろう。もし秋生にそのせいで友達が出来ないと責められても文句は言えない。とはいえ、特別待遇に関しては、誘ったのは華蓮だが最終的に決めたのは秋生だ。特別待遇になって華蓮と行動を共にすれば他の生徒から距離を置かれることは最初から予想できたことであるし、文句を言うくらいなら、最初から心霊部などはいらない――秋生なら、後先考えずに目先のエサ(遅刻の許可や授業の任意参加など)につられて入ってしまったということも十分あり得る。

「…秋が特別なのは、秋にしかできないことがあるからでしょう?」
「その通りだけど、一般生徒はそれを知らないからな。可愛い顔してるから、こんな状況じゃなきゃそれなりにモテると思うけど……ああ、でも秋生はそっちじゃないから、その点は好都合なのか」

 加奈子に説明しているはずだが、深月は段々と自問自答になっていき結果的に自分で納得して頷いていた。

「秋生、友達が少ないこと気にしてんの?」
「ううん。ただ私が気になっただけ。だって、どこからどう見ても夏よりも秋の方が友達できそうでしょ」

 加奈子は平然と喋っているが、実に失礼なことを言っているということに全く気付いていないようだ。

「俺がなんて?」
「だからー、秋の方が友達多そう…って、うわぁ!」

 加奈子が驚きの声を上げると同時に、ウサギが飛び跳ねた。


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