Long story
玖拾漆―――愛の形もまた
スマホのマップなど当てにはならない、というのは言い過ぎだ。彼らには常日頃からお世話になっている。しかし、そこに映るものが全てとは限らない。
秋生は手にしているいちごみるく味という…聞く人が聞けば邪道とも取れる味のたい焼きを食べながら、つくつぐそう思った。
「何かこう、田舎ならではのお店が多いですね。人も意外と多いし」
「最近はこういう昔懐かしいのが流行りなのかもしれないな」
商店街、というのとは少し違った。道そのものは本当に田舎の道路という感じで、片側一車線にも関わらず2台通れそうなほどに広い車道と、負けじと広い歩道。無駄に道路が綺麗なのは田舎の特徴だ。
しかし人のいない田舎と違うところは、その道脇には色々なお店が立ち並んでいて、どれもそれなりに賑わっているということだ。アクセサリーショップや喫茶店といった一般的なものから、駄菓子屋や和の専門店街など…外国新受けがしそうなお店も沢山ある。
この場所を分かりやすく表すなら、清水寺への土産通りが近いかもしれない。
「いやお前らさ?何を普通に買い食いしてんの?仲良く楽しくデートですか?デートですよね!?」
「耳元でうるさいっ。ちょっと立ち寄ってたい焼き食べてるくらいいだろ」
「ちょっと!?もう10分も座って仲良く半分ずつ食べて道行く人を眺めて楽しそうに会話してますけど!?もう10分も!!」
「10分くらいで大袈裟な…つーか、まじうるさいっ」
たい焼き屋を見つけて、たまには和菓子も作ってみるか思いその参考にするべく立ち寄った。そしたら思いの外種類があって、王道なあんこと少し変わり種のいちごみるくと迷っていると…李月がどちらも買って半分ずつ食べればいいと提案してくれた。
食べ歩きという手もあったが、秋生には難度が高いのではということになり…店の横の食事スペースでサービスの緑茶を啜りながら優雅なお茶タイムを決め込む流れになった次第だ。
「うるせぇのはテメェだ!さっさと教会に連れていけ!このトンチキ!!」
「うるさいのはどっちだよ…」
「そんなに急がなくても霊は逃げやしないだろうが」
「逃げなくても教会の清らかな空気に浄化されて成仏しちまったらどうすんだよ。こうしてるうちに俺の恋人候補が減っちまう!」
いくら外国人は愛をストレートに伝えるとはいえ、自分の利益のために他人に成仏して欲しくないなんて思うような霊と付き合いたいと思う外国人幽霊が果たしているだろうか。佐藤に恋人が出来なかったのはポエムのせいも勿論あるだろうが、この怒りっぽく若干自己中っぽい性格も大きく影響しているはずだと秋生は思う。
たい焼きを食べ終えてお茶を飲み、お店の人に礼を言って店を立ち去ろうかという頃には佐藤はもう10メートルほど先にいた。せっかちなのもマイナス面に追加だ。
「何であんなにイライラしてるんですかね」
「楽しそうな観光客も多いしな。幸せな人間たちを見てるのが憎たらしいんだろ」
「典型的な悪霊予備軍…あ、帰りにあの茶屋に寄ってもいいですか?みたらし団子食べたいです」
「ああ。…あいつを無事に始末できたらどこでも寄って行けばいい」
「始末って…」
「はーやーくーしーろぉー!!」
「教会で見つからなかったら本当に始末してやろうか……」
李月が呆れたように溜め息を吐く横で、秋生は苦笑いを浮かべる。
前方で大声を上げる佐藤は李月と秋生にしか見えないので、沢山の観光客などの迷惑には ならないかと思われるが。叫び声によって生み出された突風に店頭のものが転がったり、鞄が飛ばされそうになったりと…かなりの迷惑行為だ。
秋生は昨日この霊を無害な霊史上最も有害だと断言したが、それはやはり間違いではない。
「お前らは亀か!歩くのも遅い!」
「黙って進めないのかお前は?せめてポエムの予習でもして大人しくしろ」
「いや李月さんそれはちょっと」
「未だ見ぬ麗しの君…その瞳に……」
「うわぁ始まった!」
秋生は頭を抱えるようにして顔をしかめ、気を逸らそうと辺りを見回した。そうして歩いていると、通りすぎる人の視線がちらとこちらを向くことがある。まさかこれほど人が多いと思っていなかった秋生と李月はどちらも制服姿だ。平日の昼間となると目立っても仕方がない。
しかし、店の人に声をかけられても「課外学習で」という一言でその訝しげな視線も嘘のように穏やかなものになるのだから…楽なものだ。これも田舎だからこれほど緩いのか、どこでもそうなのかは定かではないが。
「2人で愛の」
「はいはいブラックホールブラックホール。耳元で喋んな」
「てめぇは馬鹿にしてんな!」
「あんたのそのポエムにときめく人間が1人でもいたら、その時は心から謝罪してやる」
「……秋、それじゃあいないことが前提になってるだろ。俺たちの方が困る」
「あ、そっか。…やっぱ今のなし!」
「前言撤回は受け付けねーよ!覚えてろ!」
負けて逃げ帰る悪役のような台詞を吐いて、佐藤はまたしても勝手に進む。それを追うように足早に歩いていると、道の先に十字架が掲げられている建物が目に入る。そこまで来た頃には、先程までの道すがらに観光客が賑わっていたのが嘘のように全く人気がなくなっていた。
目の前に現れた教会は、思っていたより神聖さよりも不気味さの方が上回った場所だった。
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mokuji
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