Long story


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――愚問 

 事故現場には今も花が供えられていた。この場所は事故が多いらしく、吉田隆以外にも何人か被害に遭っているようだ。どうして事故が多いと分かるかと言うと、事故現場の周りの空間だけよどんでいるからだ。人の形をした人ではないものが何人もいる。事故が多いと言う証拠以外の何物でもない。
 花は、吉田隆に向けて供えられたものかもしれないし、ここにたたずんでいる他の誰かのために供えられたのかもしれない。何にしても、成仏してくれるようにと花を供えた主の思いとは裏腹に、この場所にいる人ではないものたちは、吉田隆を含め成仏できずにこの世に留まっている。何とも皮肉なことだ。

「で、ここからどうする?」

 人目を気にせずに吉田隆と会話をするにはどうするかということを随分と考えたが、その必要はなかったようだ。この通りは事故こそ多いが、人通りが異常に少ない。だからこそ、人がいないと思って走っている車がたまたま歩いている歩行者や自転車と接触してしまうのかもしれない。歩道がないということが、事故を増やしている原因にもなっているだろう。

 ――家はこっちだ。
「思い出したのか?」
 ――完全に思い出したわけじゃないが、こっちのような気がする。
「おい、気がするなんて曖昧な直感で行き先を…って、俺の許可なく歩くなよ!」

 秋生が止めるが、吉田隆は聞かずに秋生の身体を動かした。逆らうこともできたが、そうすれば足がもつれてこけて、結果的に怪我をするのは吉田隆ではなく、自分のこの身体だ。秋生は大人しく従うことにした。

 ――お前たちは、いつもこんなことをしてるのか。

 話題なくしばらく黙々と歩く中、吉田隆がふと秋生に疑問を投げかけてきた。

「こんなことって?」
 ――幽霊の望みを叶えるために時間を浪費しているのかってことだ。
「…うちの学校に出る奴は大抵イカれてるから、お前みたいに理性が残ってる幽霊が出てくるのは珍しい。だから、いつもこんなことしてるわけじゃない。むしろ、滅多にしない。学校に出ない限り、俺はお前みたいな奴とは関わらないようにしてるし」

 変に干渉すると、後々面倒なことになり兼ねない。加奈子がいい例だ。加奈子はまだ可愛げがあるから許せるが、あれが中年男性だったら華蓮はきっと即座に叩き斬っているだろう。しかし、華蓮がいない間に付きまとわれたらどうする。どうしようもない。それに、害のないものならいいが、そうでないものも沢山いる。パッと見ただけではその善悪は見分けられない。だから、秋生はなるべく関わりたくないのだ。

「先輩にも関わるなって言われてるし」
 ――お前は、あの男に入れ込んでいるんだな。
「い、入れ込んでるって、変な言い方すんな!」

 それではまるで秋生が華蓮に恋をして熱烈アタックしているみたいだ。

 ――違うのか?
「違うわ!…俺は先輩の役に立ちたいだけだよ。ちゃんと役に立つって、認めて欲しいだけだ」
 ――だけ、ねぇ。
「なんだよ、その顔は」

 実際に表情が見える訳ではないが、頭の中に浮かんできた。吉田隆は意味深な表情を浮かべている。

 ――別に。

 そう言って、にやりと笑った。なんだか見透かされているようで気に喰わない――別に何を見透かされるということもないのだが。自分の心の奥を覗かれているような感覚だ。
 話しているとどんどん心を見透かされてしまいそうだと感じた秋生は、それ以上華蓮について話すことはやめた。しかし、何も話さないというのも気まずい。

「お前、なんか話題ふれ」
 ――そういうのは自分が話題を振ってからするもんだろう。

 そう言われると、返す言葉もない。秋生はさてどんな話を振ろうかと考える。今回の一件についてはほぼ話はまとまったから話すことはないし、吉田隆の身の上の話については深月の調査により一方的に知ってるため聞く必要もない。さて、どうしてもんかと再び考える。

「……お前さぁ、彼女とかいんの」

 中学生のような質問だ、と秋生は口に出してから後悔した。そんな秋生の思いを悟ったのか、吉田隆は秋生の口からくつくつと笑い声を漏らした。

 ――クラスが変わってクラスメイトとそんなに仲良くないから会話が続かないけど、場が持たないからとりあえず質問を絞り出してみました。
「それっぽいシチュエーション言わなくていいから!恥ずかしいから!」

 顔が赤くなるのが伝わる。これが吉田隆にも伝わっていると思うと更に恥ずかしさがこみ上げる。吉田隆は秋生の口で笑うことはやめたものの、まだ体の中でくつくつと笑っている。そんなにいつまでも笑い続けることもないだろうと、秋生は次第に恥ずかしさより怒りを感じてきた。

 ――そう怒るなよ。そもそも、死んだ人間に対して彼女がいるかどうか聞くのはおかしい。いたかどうかを聞くべきだ。

 吉田隆は秋生の感情を感じ取ったららしい。笑うのをやめ、そして急に声が真剣になった。

「いきなり現国教師っぽくなるんじゃねぇよ」
 ――ぽいんじゃない。正にそう――なる予定だったんだ。
「…あっそう。で、彼女いたのか?…答える気がないならそれでもいいけど」
 ――死んだときにはいなかった。それ以前にいたことはあるが。
「それならまぁ、悲しむ人が少なくて……よかったわけじゃないけど」

 悲しむ人間は少ない方がいい。悲しむ人が多くても、悲しみは分けることができない。悲しむ人が多ければ多いだけその悲しみも多く、強く、そして深くなる。
そんなことを考えていると、秋生の表情が本人の意志ではなく驚きの表情に変わった。

 ――お前、案外優しいところあるんだな。
「案外ってなんだ、案外って」

 別に自分を優しいと思っているわけではないが。

 ――音楽室で会った時の態度からは想像が出来ん。
「ああ。あれは、好きなバンドの話を中断されて苛々してたから。…お前こそ、お前呼ばわりするなって言ってた割に、もうそのことはいいのな」
 ――言っても聞かない奴に言っても無駄だろ。自分が気にしなければいいだけの話だ。
「…なるほど」

 素直に感心した。自分もそう思うことができたら、華蓮の言動にいちいち過剰反応することもない。秋生はそう思い、吉田隆を見習おうと軽い決意を抱いた。


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