Long story


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***―――out number

 ふと気がつくと、目の前に何かがいた。
 それが生きているものではないことはすぐに分かった。ただ、どうしてそんなにも怯えているのか…その理由は全く分からなかった。

「お願いだ…助けてくれ…助けてくれ……お願いだから……」

 そう懇願する霊体は、今にも消えてしまいそうだった。それは成仏するという意味ではなく、文字通り跡形もなく消えてしまうという忌みだ。
 怯えた様子でそう懇願する姿を見てやっと、この霊体をここまで追い詰めたのが自分だということに気が付いた。

「………消えな」
「…た、助けて……くれるのか…?」
「さっさと消えろ」

 自分がまた、おかしくなってしまう前に。
 そう言うより早く、霊体は逃げるように目の前からいなくなった。


 自分の手を見つめる。

 もう何度目ということもない。
 きっと、気が付かないうちに消してしまっている存在も沢山いるのだろう。
 害を成すものも、成さないものも。見境なく、邪悪なものに侵された本能のままに…消してしまっているのだろう。

「……時間の問題だな」

 スマホを出して時計の時間を確認する。最後に時間を見てから経っていた時間は意外にも30分程度だった。
 最初はほんの一瞬だった。それが数秒になり、数十秒になり、数分になり……そのうち1時間、2時間となり…いずれは24時間―――つまり、全ての時間が支配されてしまう。

 最初から分かっていたことだった。
 それを承知の上で、それでも成すべきことがあった。
 自分の決断を後悔はしていない。
 何度思い返しても、最善の策だった。その気持ちに嘘はない。


 だが、それでも。


 今まで消し去った……本当に消し去ったのかも分からない魂たちの、その悲痛な叫びが聞こえるような気がしてならない。
 元よりこの世には存在しないはずのものだ。それを消し去ったところで、誰が泣き暮らすということもない。それは分かっている。
 分かっているけれど。
 この、どうしようもない罪の意識を振り払う方法はない。
 自分で選んだ道だ。その罪悪感を振り払うことすら許されないことも承知の上だ。
 深く溜め息を吐いて、空を仰ぐ。雲ひとつない快晴の空が、琉生の中に犇めく罪の意識をより強固なものにさせた。



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