Long story


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捌拾参―――それは確かに

 朝から家の中が騒がしく、普段はギリギリまで起きて来ないような面々も今日は早々に顔を連ねていた。
 それはそうだろう。今日は年に一度の大イベント、大鳥高校文化祭の当日だ。それを皆が楽しみにしていたことはよく知っている。
 そしてそれは、文化祭を開催する側の当事者ではない睡蓮とて同じだ。
 だから、その中で全員に聞こえるように体調が悪いことを主張し、頭を抱えてソファに寝ころび、今日の一大イベントに赴けないことを嘆くという――名演技をやってのけた。

「睡蓮ってほんと、性格ひん曲がってるよね」
「普段なら泣かすけど、今日は気分がいいから褒め言葉として受け取っといてやるよ」

 加奈子の言葉にそう返し、睡蓮は颯爽と大鳥高校文化祭の入園ゲートを潜った。
 他の入場者に混じって受付を華麗にスルーし、ついにやってきたこの場所に高鳴る胸を抑えきれない。

「普通に来ればいいのに、わざわざそんな変装までして」

 加奈子に指摘された睡蓮の服装は所謂ゴスロリというファッションで統一されている。
 普段からこういう服を好んできている友人に経緯を説明して貸してもらったものだ。宿題3日分はなかなか手強いが、背に腹は変えられなかった。

「馬鹿だな。僕が来るって分かってるんじゃ、いつもと同じでしょ」

 見たいのは、自分のいる彼らの日常ではない。
 未だ知ることのなかった、自分のいない彼らの日常だ。

「睡蓮がいるからって何か変わるの?」
「それは分からないよ。でも、僕がいたらその時点でそれが華蓮たちの日常なのか、それとも僕がいるから気を遣ってるのか分からないでしょ?」
「つまり…いない場所で隠れて覗けば、確実に夏たちの日常を見れるってわけね」
「そういうこと」

 加奈子は毎日色々な霊と交流しているため、最初に会った頃より随分と理解力が増している。
 それに扱えるポルターガイストも増え、こうして話している間にも受付の机から違和感なくパンフレットを飛ばし睡蓮の手に乗せた。

「でも、たぬくんまで来るって言い出したのは意外だったけど」
「……少し興味があったから」

 睡蓮の腕に抱えられているぬいぐるみがボソッと声を出した。
 出掛ける時に華蓮に内緒にしてくれるようにお願いしたら理由を問われ、素直に答えたら付いてくると言い出したのだ。流石に置物は重たいし目立つので、都合よく部屋に飾ってあった狸のぬいぐるみに鞍替えをしてもらい抱き抱えてやってきた。
 ちなみに、本日の睡蓮は服装のみならず髪型もツインテールととことん極めているが、これは狸がやってくれたものだ。意外と芸達者だなと誉めたら、他の髪型は出来ないからそんなことはないと謙遜された。数ある髪型の中でどうしてツインテールだけなのか謎だが、そこはそれほど突っ込むところでもないだろう。

「で、何を見るの?」
「一番の目玉は秋兄と桜お姉ちゃんが出るって言ってたミスコンだね」
「なるほど…それに出てる2人を嫌そうな顔で見てる夏といっきーを面白おかしく見るのね」
「分かってるね、加奈」

 顔を見合わせてニヤリと笑う。
 さっきは人の性格をねじ曲がっていると言っていたが、同じ発想をする辺り加奈子も大概だ。

「でも、それは昼からだから…まずは春くんと桜お姉ちゃんのメイド喫茶でも行こうか」
「…私、一緒にいて大丈夫?」
「一応、中には入らないつもりだけど…念のためにウサギは持ってきたから」

 睡蓮はそう言いながら、鞄の中からウサギのぬいぐるみを取り出した。これは以前、加奈子が華蓮に憑依させてもらって……色々大変だったらしいが。
 それを随分前に琉生に改良してもらい、加奈子自身の霊力でも憑依出来るようにしてもらったのだ。

「なんだか…わくわくしてたね」
「うん、凄くね」

 加奈子の言葉に意気揚々と返した睡蓮は、ぬいぐるみを2匹抱えて目的のメイド喫茶に向かって歩き出す。

 さぁ、楽しい文化祭の始まりだ。


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