Long story
陸拾陸ーーその繋がりの重さとは
そっくりな顔が二つ並んでいた。何も知らない人物が見たらまず双子と間違えるに違いない。しかし片や金髪にジャージ、片や黒髪に着流しという点において若干の違和感を覚えなくもないが、趣味の違いか見分けるためのファッションと言われれば簡単に信じてしまうだろう。
「だから、本当に俺じゃないって」
お前がやった俺じゃないというやりとりを重ねること数回。亞希はどこか呆れたように、かつ疲れ切った様子でそう言うと、お手上げのポーズを取って見せる。
どうやら、本当に亞希の仕業ではないらしかった。
「だったら一体誰の仕業だ?」
「良狐か八都。…その子にお仕置と同時に二重で術をかけていたんだよ。その子の発熱の術から、お前たちの取った行動の何かがトリガーとなってもう片方の術にシフトした結果、そうなった。だから、その子の熱はもう引いているだろ」
亞希はそう言って秋生に視線向ける。
「え?…あっ、本当だ……」
目の前の状況についていくのに必死だった秋生は、自分の体調の変化に全く気付いていなかった。
言われてみると、秋生に死を感じさせたすべての症状がまるで最初からなかったかのように消え去っている。
「だからまぁ、その子の体調を良くした代償とでも思って諦めることだな」
「どんな代償だふざけやがって」
亞希がそう言って逃げるように消えて行くと、華蓮は吐き捨てるようにそう言って、ソファに腰を下ろした。
座ると秋生よりも小さいということが目に見えて露見する。
その姿がいつもと打って変わって心もとなくて―――無性に抱きしめたくなった。
「せ…先輩、ごめんなさい!」
「は?…うわ!」
絶対に嫌がられると思ったので予め謝った上で、秋生は自分よりも小さくなったその体を抱きしめる。
一瞬、違う誰かと触れ合っているような奇妙な感覚がしたが、伝わる体温はいつもと同じだったのですぐにそれが華蓮であると感じることができた。
「秋生、苦しい」
「えっ…あ、すいません」
少し力を緩めて見下ろすと、華蓮と視線がぶつかった。
まさかいつも見上げている顔を自分が見下ろすことになるなんて。想像したこともなかった。
どこか不貞腐れたような顔で秋生を見上げてくるその姿は、破壊力抜群だった。いつもならば心臓が爆発しそうになるところだが、その容姿が小さいからだろうか。いつもとは少し違う感情が心の中に湧き上がった。
「なんだよ」
「いや、可愛すぎて…」
これが世に言う萌えという感情だ。
秋生は初めてそれを感じた。
「冗談じゃない」
「至って真面目ですよ俺は」
今の華蓮はどんな表情をしていても可愛く見えてしまう。
だから、怒っていると分かっているのに、いつものように一歩引くことができない。
「今の先輩なら、ずっとこうしてられます。ていうか、ずっとこうしてたいです」
いつ元に戻るか分からないのだから、一時も無駄にしたくはない。
出来る限りこの可愛さを堪能したいと思った。
「……飯は作れよ」
「えー、いやです。離したくない」
「今すぐ離せ」
「分かりましたご飯は作ります!!」
多分小さくなっていても、力は華蓮の方が上だろう。バットなんて出されてしまったら簡単に引きはがされてしまうに違いない。
そんなことでこの時間を不意にするのは嫌だったので秋生は慌てて訂正してから、再び華蓮を見下ろした。いつもよりも大きい瞳が見上げていて、その表情はどこか不満げに見えたが、秋生にはそれすらも愛おしく感じた。
だから華蓮がいつもしてくれるように、秋生はその幼い目元にキスをした。
「な―――!?」
かぁっと、まるでいつもの秋生のように華蓮の顔が一瞬で赤くなった。
それは、秋生の知らない華蓮だった。
「先輩が…照れた……!」
「ちっ…ちが…っ!」
「可愛い!先輩超可愛いです!!」
「黙れ!!」
華蓮はそう言うと、まるで逃げるように秋生の胸に顔を埋めた。その仕草に、秋生の中に目覚めた華蓮可愛いゲージが更に跳ね上がった。
苦しいと言われたことも忘れて強く抱きしめると、小さい腕が秋生の背中に回されて抱きしめ返してきた。これはもう、萌えという言葉で表せる範疇を超えてしまっているに違いないと、秋生は確信した。
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mokuji
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