Long story


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陸拾参ーー立ちはだかる壁

 テストとはあっという間に過ぎるものだ。
テストが終わるとそれだけで一息吐けるのだが、しかしそれですべてが終わるわけではない。テストが過ぎ去ると、次に待ち受けるのはその結果で、それが分かるまでは気の抜けない日々が続く。

「双月」
「42位」
「侑」
「40位」
「よし、俺の勝ち!38!」
「うそー、絶対カンニングだ」
「努力の成果だよ!」

 深月はそう言って、すべての教科の点数と順位が書かれた紙を机に叩き付けた。
 誰も彼も顔もよくて勉強もそれなりに出来るなんて、羨ましいことこの上ない。

「ちなみになっちゃんは?」
「11」
「えっすごっ」

 秋生と春人の声が揃った。
 11位なんて、掲示板に張り出される順位だ。張り出されるのは各学年の階なので、後からこっそり3階に見に行こうと、秋生は密かに思った。

「夏が20位以内なのはいつものこと。それより、もっとおかしいのがそこにいる」

 深月はそう言って、澄ました顔で座っている李月に視線を向けた。

「李月さん、何位だったんですか?」
「さぁな」

 秋生の問いに李月はそうはぐらかした。
 どうやら答える気はないらしいが、深月の言っている“おかしい”というのはいい意味でおかしいのか、それとも悪い意味でおかしいのか。

「3階の掲示板見に行ってみろよ。一番でっかく名前が載ってるから!」

 深月がそう言って机をバンと叩いた瞬間、新聞部の部室にいた華蓮以外の全員が目を見開いた。

「ええええ!?李月お前、1位だったのか!?」
「うっそ!!え、その結果用紙貸して……本当に1位なんだけど!?」
「侑先輩、僕にも見せてくださ…全教科満点んんん!?」
「ぜろが…ぜろがいっぱいあるう〜〜……!」
「お…俺…こんなの初めて見た…!!」
 
 李月の結果用紙は一通り回って一人一人から絶叫を掻っ攫い、持ち主の元に戻っていった。真っ白だった用紙は、もみくちゃにされて散々なものになっている。

「だから言っただろ、おかしいって。お前、何したんだ?」
「別に…適当にヤマ張ったら当たっただけだ」

 適当に張ったヤマで全教科100点が取れたら、世の中の学生はきっとみんなテストが大好きなはずだ。

「ヤマ以前に、中学行ってなかったんだよな?それでどうして授業に付いて行けるんだ?」
「ここに大先生様がいらっしゃるだろ」
「あああ!!そうか、なっちゃんと同じクラスなのか!!ずるい!そんなのずるい!」
「大げさな……」

 華蓮はすこぶる嫌そうな顔を浮かべているが、秋生は侑の意見に賛成だった。
 常に華蓮が傍にいれば、普段は聞く気のない数学や英語の授業もきっと真面目に受けることが出来ると思う。それは秋生が華蓮を好きだからとかそういうことではなくて、単純に家庭教師的な意味合いでだ。

「なっちゃんは自分の偉大さが分かってないんだよ!ていうか、教えてる側なのに抜かれて悔しくないの?!」
「言っておくが、こいつが1位なのは俺が教えたからじゃなくて、こいつの頭が人間離れしてるからだ。海外なら10歳くらいで大学なんて卒業してる。そんな奴に嫉妬して何になる」
「違うだろ。李月が1位なのは頭が人間離れしてかつお前が教えたから!じゃなきゃいくらなんでも満点1位はない!10歳で大卒に異論はない!」

 そこは異論がないのか。
 だが、10歳で海外の大学を卒業できるのなら、18歳で日本の高校で満点1位くらい大した話ではないような気がしてしまう。

「僕なんて59位だよ。恥ずかしいよ」
「いや、それが普通だから。てか、小学生もすっ飛ばしてるのに凄いと思うよ」

 春人の言葉は言う通りだ。小学校にも行っていないのに60番以内に入るなんてすごいことだ。
 しかし、前回の中間テストが72番だった秋生としては、なんだか複雑な気分だった。しかも、あの時も華蓮による手助けのおかげで数学がそこそこの点数を取っているにも関わらず順位なので、なおのことだ。

「桜生…60切ったのか?」
「あ、そうだ…そうなの!だから約束通り、連れて行ってね、遊園地!!」
「ああ」

 いつの間にそんな約束をしたのか知らないが、桜生は思い出したように切り出した。
 先ほどまでの落胆は、一体何だったのか。

「約束と言えば…春君はどうだったの?」

 李月の1位公表のときは完全に双月に戻っていた双月(世月仕様)だったが、落ち着いたからか口調が世月になっている。
 そしてなんと、その口ぶりからするとどうやら春人も何か約束をしているらしかった。

「ふっふっふ…俺もその辺は抜かりありませんよ!48位!」
「あら、凄いじゃない」
「でしょう、でしょう!ちなみに俺は50位以内なので、温泉に連れて行ってもらいます!」
「おおー、よかったね!」
「桜ちゃんもね!」

 楽しそうにきゃいきゃいとはしゃぐ桜生と春人は、どこか女子高生みたいだ。
 可愛いと思った反面、少しだけ羨ましいと思った。

「そういえば、秋は何位だったの?」

 春人の視線がこちらに向く。


「……23位」

 このタイミングでまさか自分に矛先が向いてくるとは思わなかった秋生は、少しだけ答えるのに間が空いた。そしてできれば、このタイミングではあまり言いたくはなかった。

「は……?」
「今…なんて?」
「23位……」

 目を見開いた春人と桜生に今一度答えると、目の前の机に置いていた結果用紙をひったくられた。
 一瞬の出来事過ぎて、阻止しようとする間もなかった。

「え、ちょっと待って。数学が99点とか意味不明な数字叩いてるんだけど」

 春人が思いきり顔を顰める。
 それは多分、華蓮に一番長く時間をかけて教えてもらった上にヤマまで張ってもらったからだ。ヤマを張ってもらったところだけテスト前に復習していて、本当にその場所が出た時にはテンションの上がり具合が尋常ではなかった。

「最終兵器夏川先輩を召喚したからだ」
「え、何それ?」
「テスト週間の最終日に、問題集が終わってなくて寝そうだった秋生を叩き起こすためにいつくんが召喚したんだよ。秋生、夏川先輩が傍にいるとひっちゃかめっちゃかで寝られたもんじゃないでしょ」

 それは確かにそうだが。
 こんな大勢の前でそんなこと言わなくてもいいと思う。

「しっかし…中間72位を23位まで跳ね上げるなんて…最終兵器夏川先輩、すごすぎ」
「いや、72位は言わなくていいから」
「あ、ごめん」
「秋生、中間僕より下だったの?」
「い…いいんだよ、今回は23位だったんだから!」

 桜生が少しだけ馬鹿にしたような視線を向けてきたので、反論しながら結果用紙をひったくった。
 そうだ。前の順位が何位だろうと、今回は栄えある23位だったのだからいいのだ。…栄えある23位でも、桜生のように遊園地に行けるわけでもなければ、春人のように温泉に行けるわけでもないけれど。

「桜生ちゃんが遊園地でー、春人君が温泉。ちなみに…秋生君、どっかいきたいところあるの?」

 侑に聞かれて、秋生は腕を組んだ。
 遊園地に行きたいかと聞かれれば、行きたくないわけではないがそれほど魅力は感じない。なれば温泉?それも同じように、それほど魅力は感じない。
 秋生は他にどこか魅力的に感じるものはないかと考え、ふと視線を泳がせたときに視界に華蓮が目に入った瞬間、自分の行きたい場所がぱっと思い浮かんだ。

「あ……家電量販店」

 この前華蓮と一緒に行った家電量販店は、すこぶる楽しかった。
 侑の質問に秋生が答えると、両隣にいた春人と桜生が同時に噴出した。

「家電量販店って…秋生、それは……!」
「秋ってば、超うける!もっと他にないの…?」
「おっ…俺にとっては遊園地や温泉より家電量販店の方が魅力的なんだよ!ほっとけ!」

 桜生と春人よりも順位が高かったはずなのに。桜生や春人のように連れて行ってもらえるわけでもなく、挙句の果てに必死に考えておきたい場所を出した結果爆笑されるとはどういうことだろう。秋生は桜生と春人に声をあげて言い返しながら、侑の質問に答えたことをつくづく後悔するのだった。

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