Long story


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――班分けなど地雷以外の何物でもない

 時計を探すと言っても、結局どこを探せばいいのかわからず宛もなく適当にあちこち回っていると、昼休みを待たずして華蓮から新聞部に来いという連絡があったため、秋生と加奈子、そして吉田隆は新聞部に向かった。
 校内を探し歩く過程でも、秋生の吉田隆に対する当たりはきつかったが、吉田隆は全くそれを気にすることもなく。というよりは、ああいえばこういうというやりとりが延々と続くような感じであった。

「…で、今日はその加奈子ちゃんと、もう一人幽霊がいるの?」
「そうそう、この辺に」
「へぇ……」

 秋生が指差したところに春人は手を伸ばすが、吉田隆の身体をすり抜けていると分かっているのは秋生と華蓮、加奈子と吉田隆本人だけだ。秋生が「すり抜けてる」と状況を教えると、春人は慌てて手を引っ込めた。

「で、そこにいるらしい吉田隆さんだけど。この前の田中明子に比べて随分あっさりとわかったぜ」

 深月はそう言うと、何枚かの写真を取り出してきた。そこに写っているのは紛れもなくこの場にいる吉田隆だ。写真には吉田隆の他に数人の学生。大鳥高校の制服だった。

「…吉田隆は大鳥高校の生徒だったってことっすか?」
「なら制服を着ていないのは不自然だ」
「あ、そうか」

 ならば教師だろうかとも思うが、それにしては若いような気もする。

「さしずめ、教育実習生と言ったところか」
「ご名答。5年前にうちの学校に教育実習に来てた。だから探すのも簡単だったよ」

 5年前とは、これまら前回の数十年単位に比べれば随分と最近だ。秋生も生まれているし、近くの中学に通っていたからもしかしたらすれ違ったこともあるかもしれない。

「そして、その5年前の教育実習中に交通事故で死んでる」

 小さくだが、新聞にも載っていた。居眠り運転のトラックが歩道に突っ込み、歩いていた男性を轢いてしまったという内容であった。場所は白鳥高校のすぐ近くだ。男性は轢かれた際に数メートル吹っ飛び、頭を強く打って即死だった。もしかしたら、その時頭を打ったのが原因で記憶が欠落しているのかもしれない。

「俺は…教師になる予定だったのか」
「何か思い出しそう?」
「いや……分からない」

 加奈子の問いに対して吉田隆は首を振った。それを見た秋生はため息を吐く。

「俺はさっさと終わらせて朝礼の余韻を取り戻したいっていうのに…」
「まぁ、しょうがないよ。…俺も時計探すの手伝うし〜。てか、初めて授業さぼっちゃった」

 春人は「テヘペロ」とでも言い出しそうな表情だ。そういえば、今はまだ昼休みになっていないため、本来なら授業を受けているはずだ。

「…吉田隆のこと調べるためにさぼったのか?」
「というより、せっかくの高校生活だから、1回くらいさぼりってのをしてみたかったの〜。それプラス、秋と早く話の続きをしたかったからねぇ」
「ありがと。探しながら話そう。あと、また昼奢るよ」
「別にいいよ。俺は好きで出てきてるわけだし〜」

 春人は一言で表すとズバリ癒し系だ。友達としては一部を除き性格も申し分ない。秋生は自分が春人の友人であることが申し訳ないくらいだ。後は、他人の不幸に手を叩いて喜ぶことさえなければ完璧だと思うのだが。

「夏は秋生を見習え!ありがとうの一言も言えんのかお前は」
「俺が礼を言っているところを想像してみろ」
「気色悪いな」
「だろうが」

 確かに、華蓮が礼を言っているところなど秋生も想像できない。人を罵倒したり見下したりするスキルには長けている分、人を敬ったり労ったりできなさそうだ。

「どうでもいいけど〜。はやく探そうよ、時計」

 会話に入れない加奈子がしびれを切らして声を出す。ふらふらと秋生の前や華蓮の前、深月、春人の前を行ったり来たり。秋生と華蓮はそれを目で追うが、他の2人は加奈子がいる場所が分からいし声も聞こえていないので反応はない。

「本人が何も思い出さないと言っている以上、しらみつぶしに探すしかないのかー」

 面倒臭い。と言う言葉はどうにか飲み込んだが。秋生は白鳥高校の教室や体育館、グラウンドの数を数えながら眩暈がしそうになった。

「他に情報はないのか」
「んー、色々調べたけど、役に立つかどうかは。…小学校から高校までは近くのところに通ってて、大学は県外。小学校のこそからずっと水泳をやっていて、中学校の時は地元の小さい大会で優勝してる。大学は文学部で、高校の現代文の教師を目指していた。家族構成は、両親、兄、妹、の5人家族。近所の話によると、仲睦まじい家族だったと。ちなみに、教育実習で担当したのは3年5組。…夏のクラスの近く?」
「隣のクラスだ」
「じゃあ、そこは夏の担当だな」
「断る」
「即答かよ。何でだよ、別にいいだろそれくらい」

 その場にいた全員が深月の意見んに賛成だ。

「5組はキチガイバンドのクラスだ」
「ああ…うん。なるほどな」

 華蓮の言う「キチガイバンド」とは、shoehornのことだろう。もし言っているのが華蓮でなかったら、秋生と春人が全力で噛みついているところだ。

「でも、紅先輩っていつも生徒会室にいるから、教室にいることなんてないじゃなかったけ〜?」

 何でも、あまり校内をうろつくと色々と問題らしい。それはまぁ、そうだろう。国民的人気バンドのリーダーが廊下を歩いていて騒がないわけがない。そのため、侑は学校に来ても生徒会室から出ることはあまりない。華蓮が特別なように、侑もまた違う意味で特別なのだそうだ。何かのう条件付きで、授業への不参加――それどころか、基本的な不登校までも認められているらしい。だから、そもそもあまり学校に来ていないという噂もある。

「本人がいるかどうかってあんま関係ないんだよな。とりあえず、今日は本にが学校にいるって時点で大盛り上がりだし。特にあの教室は独特というか、俺でも拒否るわ」

 深月までもがそこまで言うなら、よほどのことなのだろう。ならば教室の調査は放課後までできないだろう。3年5組に時計がないことを祈るばかりだ。

「じゃあ〜、まず、優先的に探すところはどこ?教室は後回しにするとして、職員室〜?」
「それも後回しじゃーん」

 となってしまうと、教育実習生が行きそうな場所など見当がつかなくなる。

「夏はどう思う?ピンポイントで絞るなら」
「絞るならば4か所だ」
「やっぱりそうなるよな。じゃあまず、その4か所当たってみるか」
「そうだな」

 2人だけで話を分かち合わないでほしい。どうせ説明する羽目になるのだから、最初から他の人にも分かるように話してくれればいいのにと秋生はつくづく思った。

「俺たちは言葉を交わさなくても通じ合ってますアピールはいらないからさ〜、説明してよ〜」

 春人は秋生の思っていたことをバッサリと言う。それも、秋生が思っていたよりもキツい言葉で言っている気がする。

「探すなら4か所。旧校舎、裏庭、体育館倉庫、水泳部部室」

 華蓮が何も指摘をしないということは、華蓮の意見もその4か所ということだ。

「俺は通じ合えない〜」
「俺も通じ合えない。…ってことは、通じ合えない者同士、俺と春人は通じ合ってんじゃね?」
「あ、なるほど!照れちゃう〜」
「何なのコイツら。若干朝のテンション残ってないか」

 若干どころではない。今は押さえているだけで、いつでも朝のテンションに戻る準備は出来ている。というより、早く戻りたいから今こうして時計探しをしようとしているのではないか。

「…どうしてその4か所なの?」
「理由を説明してやれ」

 誰も聞かないからか、加奈子が疑問を投げかけた。それに対して華蓮は自分で返事はせず、深月にそれを促す。

「そもそも、室内に落ちていたら誰かが気づくだろ。毎日掃除するし、学期末には普段は掃除しないところも掃除する。だから、普段屋外か普段掃除をしない旧校舎かだ。てことで、第一候補旧校舎。この前行ったヤバい方じゃなくて、夏たちが使ってる方な。その中でも特に、最近でも物置として使われているところのみでいいだろう。で、次に裏庭。ここは単純に誰も掃除をしないから。告白するときくらいしか利用しないし、何せ草だらけだからな。時計が落ちててもまず分からない。そんで、体育館倉庫。教育実習中には体育に顔を出すこともあったはず。体育館ならば誰かが気づくかもしれないが、倉庫は掃除もしないし、気付かない可能性もある。舞台の下の椅子をしまっている辺りとかも。最後に、水泳部の部室。これは吉田隆が水泳をしていたから。もしかしたら、実習中に水泳部に顔を出して練習に参加していたかもしれない」
「なるほど…あなたはこの中で心辺りがある場所はないの?」
「分からない。行けば、何か思い出すかもしれないけど」

 ということは。手分けして探すのではなくて全員でその場所に行って探すということか。なんとも合理的ではない。まぁ、時計を見つけても本人に確認しないといけないから、それぞれの場所に本人がいる方がいいのは確かにそうだが。

「とりあえず手分けして探して、手がかりが見つかったら随時その場所に移動ってことで。4つに分けるのは難しいから、俺と秋生と幽霊どっちか。春人と夏と幽霊どっちかで」
「その意味不明な組み合わせは何だ」
「夏川先輩に同意です!」

 華蓮と春人が異議を申し立てる。それはそうだろう。春人と華蓮には接点がほとんどない。秋生でさえ華蓮とはあまり会話をかわさないのだから、春人と華蓮が会話をしたことなど数えるほどしかないはずだ。

「幽霊が見える奴がそれぞれにいた方がいいだろ」
「ならみつ兄と先輩でいいじゃん!俺と秋でいいじゃん!」
「お前と秋を一緒にしたら、キチガイバンドの話で盛り上がって真面目に探さない可能性があるからです」
「…それは一理ある」
「だろ。ということで、組み合わせはこれで決定。変更は受け付けません!幽霊たちはどっちに付いて行く?」

 深月は聞いているが、方向は加奈子と吉田隆とはあさっての方を向いている。

「全く会話がはずまなそうだけど黙々と作業を進めそうなグループと、多少作業はおろそかになりそうだけどそれなりに会話ははずむグループとどっちがいい?」
「…会話に参加する気がないから前者でいい」
「じゃあそうしよう。私が秋たちの方に付いて行くよ」

 そんな決め方でいいのかと思う秋生だが、加奈子の選択肢はそれなりに的を射ているし、本人たちがそれでいいならいいだろう。
 秋生は深月にどちらがどちらに付いて行くかを告げ、まもなく深月・秋生グループは体育館倉庫と水泳部部室。華蓮・春人グループは旧校舎と裏庭にそれぞれ出発した。


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