Long story
伍拾肆――終息への足取り
新聞部を出てからすぐ、桜生を新聞部に連れてきたと連絡があった。双月はやることが早い――いや、この場合は春人をほめるべきなのか。新聞部を出る前に少し話し合った結果、どうして新聞部に連行されたのか本人には伝えない方向で行くことになった。今ごろ深月が上手いことごまかしているはずだ。これで今のところ、桜生のことは心配しなくても大丈夫だろう。
ということで、心置きなく根源を叩くことに専念できるわけだが。
「どこから探すか…」
勢いよく新聞部を出てきた李月は、とりあえず校舎の正面玄関まで来て立ちつくしていた。なぜ玄関に来たかと聞かれれば、特に理由はない。あえて理由を言うなら一番大きい入口だからかもしれない。とにかく、特に理由なくここまで来たはいいが、さてどうやって標的を探せばいいだろうか。まるで当てがないために、動くに動けない。
「この学校は部外者が入るのに許可はいらないのかしら?」
李月がどうしたものかと考えていると、隣にいた世月が声を出した。
「いるだろうが、侵入しようと思えばいくらでも出来るだろ」
校門は開きっぱなしだし、玄関の扉も開けっ放し。誰でも簡単に入ることができる。
これでは、許可なんてあってないようなものだ。
「けれど、許可なく入ってしまうと自由に行動できないわよ。それでは不便じゃないかしら?」
「確かにそうだが…世月は今回の犯人が部外者だと思っているのか?」
「ええ。この時間に入って来たというなら、生徒や教師ではないでしょうね。私が犯人でそのどちらかなら、そんな不審な行動はとらないわ。自分が犯人だと名乗り出ているようなものじゃない」
世月の意見は文句なしの正論だった。
なにせ今は既に授業中だ。この時間に生徒が登校してくることもなければ、廊下を歩いているわけもないので一目瞭然だ。教師であっても、普通はこんな時間に登校したりしないので職員室で問えば一発だ。しかし、もし教師か生徒が犯人ならば、そんなことはしないだろう。世月の言う通り、自分で犯人だと言っているも同じだ。
「生きていない可能性は?」
「それなら、秋生君が気付いているはずでしょう」
「ああ…そうか」
世月が見えるようになってから既に数十分が経過している。それがもしも悪霊ならば、いくらおっちょこちょいな秋生でも気づいているだろう。華蓮といちゃついていたとしても、さすがに気付くと信じたい。
ということは、やはり世月の言うように部外者の人間である可能性が高いということか。
「しかしそれで許可を取って入っているなら、それこそ一目瞭然だろ」
そんなこと、事務に行って聞けば一発で分かる。一般生徒には教えてくれないかもしれないが、こっちのバックには妖怪の生徒会長に大鳥グループのご令嬢がいるのだ。ものの30秒で教えてもらえるに違いない。
「確かにそれはそうだわ……あ、そうか。そういうことね!」
世月は何かを閃いたようにパッと顔を明るくし、そして手槌を打った。
「何がそういうことなんだ?」
李月が問うと、世月は明るい表情のままで人差し指を立てた。
どこか勝ち誇ったような顔が若干気に食わないが、後が怖いので指摘はしない。
「突然の訪問者がいたなら記録は残っているでしょうし、簡単に教えてくれるでしょうね。でもそもそも、そんなどこの馬の骨とも分からない訪問者に簡単に入校許可を出したりしないわよ」
「…お前が部外者って言ったんだろ」
「物分りが悪いわね。許可は得ているのよ。でもそれは今日突然やって来て許可を得たわけじゃない。予め入校許可証を与えられていて、定期的にこの学校に入ることが出来る。許可証を与えられている人の訪問なら、事務の人たちもいちいち記録になんて残さないわ」
「定期的に…あれか」
李月は世月が何を言いたかったのか理解して、視線を別のものに移動させた。
「そう、毎日いたらおかしいけれど時々見る分には不審じゃない。生徒に接触することだって可能だわ……あれならばね」
世月はそう言って、玄関前の廊下の―――自販機を指さした。
自販機の補充員。それならば、定期的に学校に入ることも可能、許可証はあるのだろうがほぼ顔パス、そして生徒に接触することもできる。
「学校内の自販機の場所は?」
「私は例え死んでも兄弟の中で一番優秀なのよ、憶えておきなさい」
それはつまり、把握しているということだろう。
自販機のこともそうだが、いちいち言い方が回りくどい。
「それならさっさと潰すぞ」
「いいでしょう。そこの下等生物、私に付いてくるがいいわ」
どこの天使が人間に向かって下等生物なんて表現をするだろう。おまけに、態度もこれ以上ないくらい偉そうだ。天使らしいところなんて見た目だけではないか。
「やっぱりお前、天使じゃなくて魔王だろ」
李月はため息を吐きながら、さっそうと廊下を歩いて――飛んでいると表現した方がいいだろうか。とにかく、無駄に威張って風を切って進んでいく世月の後に続いた。
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mokuji
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