Long story


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肆拾参――その結末

 肝試しに最適なんてものではなかった。
 校門を入ると、まるで幽霊たちがパーティーでもしているかのように騒いでいた。突然大都会の真ん中に放り込まれたような感覚だ。これだけの量がいれば、その中にいる悪霊も10人、20人の話ではないだろう。事実として入って3分も歩いていないのに、秋生は既に数人危なっかしそうなのを目にしていた。これでは復旧工事が進まないのも無理はない。

「面倒なのがいても目を合わすなよ。雑魚に割いてる時間はない」
「気を付けます」

 辺りを見回している秋生に気付いた華蓮が釘を刺してきた。
 しかし、どこを見ても幽霊ばかりなのだから、いつかは目を合わしてしまいそうだ。それが害のないものなら問題はないが、秋生はこういうときに限って余計なものと目を合わすのが得意なのだ。もちろん、自主的にそうしようというわけではない。

「お前の手をちょうだい……」
「え?…あっ」

 耳元で聞こえた声につられて振り返ると、いかにも悪いですと言わんばかりのオーラを漂わせた霊と目が合ってしまった。
 ほらみたことか。秋生が自分の間抜けさに半ばあきれながら溜息を吐くと、同時に目の遭った霊の姿が消えた。否、消されたと言った方が正しいかもしれない。秋生の隣で李月が刀を鞘に納めている。

「先が思いやられるな」
「全くです」
「反省しろお前は」
「痛っ!」

 李月の言葉に心底納得して頷くと、華蓮に頭を叩かれた。こうなることも大体予測できていた。

「先輩だって、こうなることは予測できてたでしょ。俺はできてました」
「威張るな」

 2発目が器用に同じ位置にヒットした。絶対に狙ってやっていることは明らかだ。

「痛っ!…これ以上馬鹿になったらどうするんですか」
「もう一発叩かれたいのか」

 秋生が頭を抑えながら言うと、華蓮が睨みをきかせてきた。
 近頃はこうして睨まれることもなかったが、ここまで本気で睨まれると流石に恐怖が滲む。

「ごめんなさいもう生意気言いません!」

 頭を押さえたままそう言うと、華蓮は納得したのか分からないが溜息を吐いた。
その光景を見ながら、李月が苦笑いを浮かべている。

「変なのに捕まったら俺が処理する」
「李月さん優しい…」

 華蓮とは大違いだ。とは言葉にできない。
 絶対に3発目が飛んでくる。

「お前が何かに絡まれるたびに痴話げんかを見せられるのが嫌なだけだ」
「えっ」

 嫌そうな顔でそう言われてしまうと、何とも言い返せない。本人が痴話げんかをしているつもりは毛頭なくても、他人からそう見えてしまうことはどうしよもない。
 加えて、自分が何気なくしていた会話が他人から見るとそんな風に見えているのかと思うと、途端に恥ずかしくなってきた。

「照れるな、褒めてない」
「す、すいません……」
「言ったからには処理しろよ。こいつは反省もしなければ学習能力もないからな」
「ああ」

 酷い言い草だが、秋生はそれを否定できない。李月ですら指摘しようとしないのだから、本当に秋生の馬鹿は周知の事実となって定着しているのだろう。それを嘆くべきなのか、それとも喜ぶべきなのか。結論は出ないが、そんなことを考えるよりも先を急がなくてはならない。止まった分を取り戻すように華蓮は足早に歩き始め、秋生と李月は後に続いた。



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