Long story


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参拾玖――突然の連休には

 6月は一年の中で唯一祝日のない月だ。そのため、高校生の休みは時季外れのインフルエンザが流行して学級閉鎖になってみたり、学校に爆破予告が来て見たり、もしくは温暖化による異常気象の影響で竜巻に見舞われ校舎が半壊してみたり、そんな怪奇現象にも近いようなことがない限りは土日しか休みがない。もしかすると私立高校などは例えば校長の誕生日とかで休みになることがあるのかもしれない。その辺の事情は知らない。
 県立大鳥高校はその名の通り県立高校なので校長が誕生日だろうと休みになることはない。しかし、6月中旬の現在。平日にも関わらず県立大鳥高校では、自宅待機という名の休みが、かれこれ10日も続いている。その原因は言わずもがな、華蓮と李月が派手に暴れ回ったせいで校舎が半壊したからだ。その日のうちに学校は閉鎖。大鳥財閥の権力を駆使して早急に復旧作業が開始され、本来なら次の日には元通りの予定だったらしいが。土地の影響か、復旧作業が思うように進まずに難航しているらしい。自宅待機解除の目処は立っていないとのことだ。おかげで、7月に予定されていた文化祭は延期になってしまった。
 この騒動のせいなのかおかげなのか全国ニュースに取り挙げあれた大鳥高校は、一気に全国区の高校になった。ニュースでは校舎半壊の理由は「原因不明の竜巻による大破」とされており、頭の悪そうなコメンテーターは温暖化がどうだCO2がどうだと言っていた。ここ数日、毎日のように色々な系列のテレビに登場しては同じようなことを何度も自慢げに説明している。本当の原因を知っている大鳥高校の生徒たちはさぞ冷たい目でそのコメンテーターを見ていることだろう。秋生もまぎれもなくその生徒たちの一人だ。
 ちなみに、校舎を半壊させた華蓮と李月、並びにその助手(ということになっていた)秋生たちは無罪放免。誰の力添えなのかは分からないが、何の処罰も与えられることはなかった。

「あんた見てると、本当に温暖化なんかしてんのか疑問に思えてくるな」

 秋生は自分で作ったシュークリームを口に入れながらテレビに向かって呟いた。
 学校が半壊してから数日。秋生は週休がどうして2日である意味を分かった気がしていた。休みになって初日はウキウキだった。2日目もそれなりに休みを満喫し、3日、4日目とだらだら過ごし、満喫していると感じていたのはせいぜい5日目までだ。
 5日より長い長期休暇と言えば夏休みや冬休みがあるが、それには宿題がつきものだ。特に夏休みはそれに追われているからか1か月半という日数もあっという間に感じる。また、夏休みには宿題以外にも風物詩的な楽しみが沢山あるからかもしれない。冬休みはそもそも2週間しかないくせに、宿題ばっかり夏休みばりにあるのだからもはや休みという気がしない。あっと言う間に年を越していて、あっという間に学校で「あけましておめでとう」と言っている気がする。
 しかし現在は6月。6月の風物詩と言えば雨だが、そんなものは何の楽しみにもならない。むしろマイナス点だ。おまけに今回は突然の自宅待機のために宿題も出ていない。つまり、何も追われるものもないということだ。毎日学校に通っていた生活から、突然何もしなくていいと言われ、だらだら過ごすのには限界があった。余りにすることがなかったためにお菓子作りに手を出した秋生は、ここ数日でかなりの種類のお菓子が作れるようになった。それどころか、アレンジお菓子すら簡単に作れてしまうようになった。今食べているシュークリームも、生地はクッキー生地にして、中のクリームはパイナップル味にしてある。他にも、ブルーベリー味とか、ざくろ味とか、普通のお店に売ってなさそうな味付けに挑戦している。ちなみに、パイナップル味は結構いける。だが、こんな毎日もう飽きてしまった。スイーツを作るのは楽しいし、美味しいと食べてくる人たちがいるのは嬉しい。だが、毎日毎日そればっかりではまるで同じ毎日を繰り返しているみたいで嫌になってくるというものだ。
 平和と言えば聞こえはいいかもしれない。しかし、これを言うと反感を買うことは分かっているので口にはしないが。こんなに無限ループが続くようなことを平和と言うならば、平和なんてくそくらえだと思ってしまっている自分がいる。秋生なそんな自分にうんざりしながら、テレビを見つめているのだった。


「朝っぱらからテレビと会話してるのか。寂しい奴だな」
「へぇ?…あ、先輩」

 背後から声がして顔を後ろに傾けた。ソファの後ろに、欠伸をかみ殺しながら華蓮が立っている様子が逆さまに見える。姿が逆さまでも、欠伸をかみ殺している表情でも、整った顔は崩れない。

「睡蓮は学校に行ったし、休みだからって見事に誰も起きてこないし。桜生ですらまだ起きる時間じゃないとかって何度寝するんだか。俺はもう寝てるのにも飽きました」

 大体桜生は霊体だ。眠気などあるのかと不思議に思う。とはいえ、本人が眠いと主張するのだからあるのだろうが、しかし例えば食欲とか、その他の欲求はないらしい。人間のさまざまな欲求の中で眠気だけが既存しているというのが、これまた不思議なところだ。
 それはそうとして、秋生も寝ることができれば寝ていたいのはそうだ。しかし、3度寝の時点で目を閉じていることも憂鬱になったために起床し、シュークリームを作ることにしたというわけだ。

「それで挙句にテレビと会話か」
「シュークリーム作り終わっちゃったらすることもなくなっちゃって。この際、会話してくれるなら頭の悪いコメンテーターでも大歓迎ですよ。……食べます?」
「ああ」

 華蓮は差し出した皿からシュークリームをひとつ取ると、ソファの背もたれを跨いで秋生の隣に腰かけた。そして、テレビに視線を向けながらシュークリームをかじる。

「ちなみに今先輩が取ったのはざくろ味。味の保証はしません」
「……そういうことは口に入れる前に言え」

 華蓮は表情を曇らせてからシュークリームから口を離し、さっと飲み込んだ後に呟いた。一口目で結構大きくいったらしく、三分の一がなくなっている。

「どうです?」
「ざくろの味だ」
「それは知ってます。シュークリームとしてありかなしかって話です」

 逆にざくろ以外の味がしたらびっくりだ。プリンと醤油でウニの味みたいに、ざくろとホイップクリームで〇○的なことがないともいえないが。そういうのは大体当てにならない。プリンと醤油も、秋生は一度試したことがあるがただの醤油味プリンだった。

「無しではない」
「え、まじすか」

 結構な即答だった。そうこうしている間に残りも全部食べてしまったから、本当に有りだったのだろう。華蓮が不味かったら罰ゲーム用にでもしようと思いながら作っていたので、かなり意外だ。

「その感じでブルーベリーもいきます?」
「調子に乗るな」
「すいません」

 仕方がないので、ブルーベリーは自分で味を見ることになりそうだ。しかし、その前にまず意外といけるらしいざくろを食べてみよう。秋生は残っているパイナップル味を2個食べ終わってから、ざくろ味に手を出した。

「あ、本当に美味しい」

 これはパイナップル味より美味しいかもしれない。そう思いながらざくろ味をあっという間に2個たいらげた。ちなみにパイナップル味は全部で4個作り、ざくろとブルーベリーは味が分からなかったので3個ずつにしたのだが、ざくろはパイナップルよりも後味がすっきりしているから、こちらを多く作ればよかったと少し後悔した。

「よく食うな」
「このコメンテーター見てると苛々して食欲促進になるんですよ」

 秋生はそう言ってテレビの中で未だに見当はずれの持論を展開しているコメンテーターを指さした。

「そんなに苛々するならチャンネルを回せばいいだろ」
「“天皇陛下の今を伝える”と、“おねえさんと一緒”と、“平均台職人の執念の仕事”と、どれがいいです?」
「……今のままでいい」
「でしょ」

 秋生だって別に見たくてニュースを見ているわけではない。
 現在午前10時30分を少し過ぎたところ。この時間帯はどこの系列もろくな番組をしていない。天皇陛下が嫌いなわけではないが、別に今を追わなくてもいい。おねえさんと一緒位に歌って踊る年齢ではないし、どうしてよりによって平均台なのだ。その内容も、もっと他にあっただろうと言いたくなるような内容だった。


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