Long story


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――花子さんは時代遅れのようです

 校門に生徒がぞろぞろと入っていくのが見える。
 今が登校のピークだ。ホームルームまであと10分。校門には今時には似合わない竹刀を持った教師が経っており、数人に1人のペースで呼びとめられている。進学高だけあって、校則には厳しいのだ。制服の着こなしから、中のシャツの色までチェックされる。規律を守るためというのは大前提だが、捕まった生徒は完全に教師のストレス解消のような扱いを受けている。気の毒に。

「…大変っすねぇ、茶髪で引き留められてますよ」

 秋生は、窓から校門を見ながら、哀れそうに呟いた。赤みがかかった茶色い茶髪は、入学して最初の頃こそ校門の餌食になっていたが、今はもう、引き留められることはない。彼は特別だ。

「知ったことじゃない」

 さも興味がないというように、華蓮は吐き捨てる。窓から離れたソファに横になって、PSPを動かしている。音量がゼロなため、何のゲームをしているかは不明だ。ソファの横の机には大量にゲームソフトが置いてあるため、きっとそのどれかをしているのだろう。

「もし先輩が一般生徒なら、他の生徒は安全に校門を通れるでしょうね」

 半分隠れているとはいえ、その整った顔立ちはたとえきちんと制服を着て黒髪あっても人目を引くだろうに。その服装は校則を全く無視した上下真っ黒のジャージ姿。更に黒のネッグウォーマー。その黒一色で揃えた服に異様に目立つ金髪、耳に光るのはピアス。極めつけは愛用の金属バット。ところどころへこんでいることから、随分使い古しているということが分かる。
 ターゲットにもしたくないような、一目で危険だと分かるような容姿だ。ただ、華蓮がターゲットにされないのは、教師からも危険視されているからではない。彼もまた、特別なのだ。それも、秋生なんかとは比べ物にならないくらい。

「仮に一般生徒だったとして、誰が校門なんか通るか」
「……そうっすか」

 特別だろうとそうでなかろうと、この男は校則などどうでもいいらしい。ただ、もし特別でないなら、絶対に既に退学になっているような気がする。秋生はそんなことを思いながら、再び校門に目を落とす。

「今日はいないか」
「今のところは。久々に、1限の授業受けられそうっすよ」

 格好は適当でも、授業にはきちんと出ようとするのが華蓮の不思議なところだ。とはいえ、出ようとするのと出られるのとはまた違い、実際に1限から授業に出られたためしなどないのだが。

「3週間ぶりだ」

 華蓮はそう言うと、PSPの電源を落としポケットにしまうと、おざなりに立ち上がる。
 首を左右に傾けると、パキパキと音が鳴った。

「普通、夜に活動するもんなんじゃないんすかね」

 腕時計に視線を落とすと、ホームルームまで5分を切っていた。

「夜だと誰にも気づいてもらえないからな。今は警備が厳しいから、肝試しに忍び込む生徒もいない」
「なるほど。宿直の制度もなくなりましたしね」

 誰もいないところでいくら暴れたって、ただ虚しいだけということか。だからといって、人がいれば暴れていいわけでもないのだが。
 部屋を出て、応接室と書かれた札が今にも落ちそうにぶら下がっているため、慎重に扉を閉める。廊下を歩いている者はいない。当たり前だ。朝っぱらから旧校舎などに出向く生徒などいないだろう。朝でなくても旧校舎は曰くが多いく、誰も近寄りたがらないのだ。本当に怖いのは、人のいない旧校舎ではなく、人のいる校舎だというのに。
 とはいえ、その生徒たちの勘違いのおかげで、毎日旧校舎を貸切状態で好き勝手に使えるのだが。旧校舎と言えど、木造建築、なんて古臭いものではない。鉄筋コンクリートでできているし、校長室近くのトイレなんてウォシュレット付きの個室がある。電気も水道もガスも通っているから、応接室の隣りの給湯室も使い放題だ。教師たちから文句を言われることもない。


「あ」

 旧校舎を後にして、普段使用している校舎に足を踏み入れた瞬間、ふっと、頬を生暖かい風が撫でた。空気の出入りからなるものではない。

「何だ」

 秋生の異変に気付いた華蓮が、数歩先を歩いていた足を止める。
 その声色から「勘違いでした」という一言を待ち望んでいることが読み取れた。

「…今日も無理みたいっす、1限」

 苦笑いで告げながら風を感じた方向を指差すと、花蓮は思い切り眉間にしわを寄せる。「聞くんじゃなかった」と目が訴えていた。しかし、すぐに諦めの溜息を吐きながら、秋生が指差した方向に向きを変えた。


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