Long story


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参拾捌――結末はいかなるものか


 もはや化け物と化している悪霊の上に飛び乗り突き刺すと、突き刺したところから瘴気が溢れだしてきた。李月はすぐさま刀を抜いて距離を取ろうとするが、まるで何かに絡みつかれているかのように刀が強い力で食い止められている。もっと簡単に言うと、抜けない。

「李月、そっち」
「うるせぇ話かけ―――八都ッ!」

 まるで緊迫感のない八都の声が頭上から聞こえる。文句を言いながら顔を上げた李月の一瞬動きが止まった。刀を抜くことに気を取られていたせいで、化け物の一部が自分めがけて伸びてきていたことに気が付かなかった。瞬時に体を逸らせ、そしてそのまま化け物の上から飛び降りる。ぎりぎりのところで交わして咄嗟に名前を呼ぶと、八都は方向転換をして再び李月に向かって来ようとしている物体を鋭い牙で噛みつき、そして食いちぎった。

「あ、食べちゃった」
「いいから戻ってこいッ!」
「無理だよ。抜けない」

 刀からにゅるっと顔を出す八都は、引きちぎった化け物の一部をむさぼりながら刀にくるくると巻き付いた。状況を理解していないからこれほどまでに呑気なのか、それとも理解していて余裕をこいているのか。どちらにしても腹立たしい。

「ああ、くそ!八都!」

 李月は再び瘴気の立ち込めている化け物の上に乗り、刀を抜きにかかる。きっと、刀に絡みついてきているのはこの化け物に呑みこまれてしまった無数の霊たちだろう。再び八都の名前を叫ぶと、むさぼっていた化け物の一部を吐きだし、李月の腕に絡みついてきた。

「三、四、六、一緒に手伝ってー」
「馬鹿!勝手に呼―――」

 体の中の血が沸騰したような感覚に襲われ、李月は一瞬意識が遠のいて行くのを感じた。しかしそれをどうにか耐え、刀を握る手に力を込める。腕に巻き付いている頭が四つに増えていた。

「抜けないね」
「抜けないわ」
「抜けないや」
「抜けないよ」

 八都を初めとして、蛇の頭四つ。輪唱のように言い合って、そしてカラカラと笑った。李月の怒りのゲージの容量が一気に増していく。

「そんなとは分かってんだよ!!一匹残って後は戻れ!」

 だからこいつら複数呼びたくない。出て来る数が増えれば体にかかる負荷が増えるのに、その上出てきて役に立たないとは、リスクしかないではないか。
 苛立ちを声に滲ませて李月が叫ぶと、八都を筆頭に3匹が姿を消した。残ったのは三番目、三都(みと)だった。どうして最初にいた奴と別の奴が残るのだ。李月は残るものを指定しなかったことを後悔しつつ今すぐ八都を呼び戻そうかと思ったが、しかし背後から化け物の一部が伸びてきたのでそれは叶わなかった。

「忙しいのが見て分からねぇのか!」

 言っても無駄だとは分かっているが叫ばずにはいられない。李月は背後から伸びてきた一部を蹴り飛ばして刀から手を離すと、自分に絡みついている三都の首を掴んだ。

「ぎゃふっ…ちょっと、荒いよ」
「うるせぇ黙って言うこと聞いてろ」
「うわぁあ!!」

 首を掴んだまま振りぬくと、長い首の先にある顔が蹴飛ばした一部に向かって飛んで行った。噛みつくだろうと思ったら案の定噛みつき、そしてそのまま食いちぎる。すると、千切れたところから今度は4本に分裂して物体が伸びてきた。

「増えたー!」
「喜ぶな」

 三都の能天気ぶりに頭を抱えたい李月であるが、そんなことをしている場合ではない。刀さえあればこんなもの一掃できるのだが、くい込んだ状態から全く動く気配がないので使い物にならない。
 そうこうしているうちに、最初に八都が食いちぎったところからも別の物体が飛び出してきた。飛び出してきた物体は分裂を繰り貸して無限に増え続けながら、一方で勢いよく李月に向かってくる。

「らちがあかないね」
「黙れ!」

 本当に危機感が無さすぎる。
 これは流石に刀がないと防ぎきれないと判断した李月は再度刀を抜こうと試みる。引いてもダメならいっそ力を注ぎ込んで中で絡みついているものを先に抹消してしまうしかない。今にも爆発しそうなこの化け物に更に負荷をかけることはあまり望ましくないが、そんなことは言っていられないだろう。
 李月は再び刀を掴むと、今度は引くのではなくてはばきのぎりぎりまで突き刺した。その瞬間、化け物に刀を突き刺しているところから半径1メートルくらいの範囲が膨らむ。同時に、絡みつく力が弱くなったのを感じた。これならいける。

「李月」
「話し掛けんな」

 集中が途切れてしまう。集中は切らしていないはずなのに三都に返答したことでせっかく膨らんでいたところがしゅんっと音を立てて少し小さくなってしまった。少しでも気を散らした駄目だということか。

「でも、あの子、いいの?」
「知ったことか―――あの子?」

 李月は今度こそ完全に集中を切らせてしまった。しかしそんなことはどうでもよく、三都が顔を顰めて見ている方に、急いで視線を移動させる。

「!!」

 無数に増えた物体の一部のいくつかが秋生に向かっている。李月はそれを目にした瞬間、頭で考えるより先に体が動いた。




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