Long story


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参拾漆――似た者同士の行動学


 たった1人増えただけで、学校の様子は大分マシになった。相変わらず歩いているとそこかしこに霊がうろついているが、その数も前に比べればマシになったし、倒す側が2人いれば悪霊を倒しに学校の端から学校の端まで移動することもなくなったので心霊部の社畜たちの体力的にもすごく楽になったらしい。しかし、全部が全部いいように運んでいるわけではないようだ。

「成仏するか、俺に消されるか今すぐ選べ」

 廊下からそんな声がして覗いてみると、何だか悪そうなものを漂わせた霊に李月が詰め寄っていた。端から見たら完全にカツアゲ以外のなにものでもない。おまけに聞いたくせに返答がある前に日本刀で真二つにしてしまうものだから、もはや悪霊に同情すら感じてしまいそうだ。
 深月はその光景を新聞部の部室から覗きながら、苦笑いを浮かべた。一緒に部室でくつろいでいた春人も深月の下から顔を覗かせて、同じような表情を浮かべている。

「さっきから1回も返事聞いてないですよ」
「答えるのが遅いんだ」
「李月さんが切っちゃうのが早いんですって」

 深月と春人は顔を合わせて目を見開いた。
 李月の後ろからやってきたのは、桜生ではなく秋生だった。深月と春人は桜生も待機していたのかと秋生がやってきた方を見るが、桜生の姿はない。一体どういうことだろう。

「そんなことより、さっさと次」
「はーい。えーと…桜生たちがあっちに行ってるから、じゃあ次は旧校舎の体育館の方に面倒そうなのが」

 秋生はそう言うと、振り返って体育館の方を指さした。しかし、李月は顔を顰めるだけで動かない。

「遠い、却下」
「即答っすか」
「お前、さっきから走りっぱなしで疲れてるんじゃないのか。わざわざ体育館まで行かなくても、掻き消されてる奴がいるだろ?」
「先輩より優しい……。ちょっと待ってください……」

 秋生はどこか感動するようにそう言ってからその場を一周しようとして、新聞部の部室を目にして立ち止まった。深月と春人を見つけた秋生は、不思議そうな表情を浮かべた。

「何してるんですか…?」

 秋生に指摘された2人は、部室から顔を覗かせるのをやめて部室から出ることにした。

「変な光景だなぁと思って見てたー」
「どうして秋生が李月と一緒にいるんだ?」

 深月が率直に疑問をぶつけると、秋生が苦笑いを浮かべて溜息を吐いた。

「簡単に説明しますと……」

 秋生の話によると、華蓮と李月がどちらの方が多く悪霊を倒せるかと喧嘩をし出したことが事の発端らしい。それを聞いて深月は全て察したわけだが、ここは一応最後まで説明すると。さて、自分の方が多く倒せると喧嘩になった末、では実際に数を数えればいいと結論が出た。出たはいいが、もしかしたらどっちかが嘘を主張するかもしれないとお互いが相手を疑ったという。そこで、華蓮の案内人である秋生と、李月の案内人である桜生(秋生と同じように桜生にも霊がどこにいるか感じることができるらしい)がお互い入れ替わって、秋生が李月を監視し、桜生が華蓮を監視することになったのだという。そのために秋生は今、李月と行動を共にしているのだ。

「お前らは何かと張り合わないと気がすまねぇの?」
「張り合ってはいない」
「あっそう。…大変だな、秋生」
「俺より桜生の方が大変だと思います。先輩ずっとバージョンHだし、すっげぇ機嫌悪いから」

 秋生はそう苦笑いを浮かべて言った。
 それは本当に可哀想だ。華蓮がバージョンHの状態で不機嫌なんて、これまた悪霊に同情してしまうレベルに違いない。

「どうしてそんなに機嫌が悪いの?」
「…さっき休憩してる時に琉生が部室に来て、李月さんが来たおかげで今までの3倍は減ったなってからかって出て行ったから」
「あー、地雷」

 深月はその光景を思い浮かべながら遠い眼をした。もしもその場にいたら、李月と顔が似ているからという意味不明な理由で殴られていてもおかしくなかった。

「それで、休憩もろくに取らずに出てっちゃいました」
「あっそう。…でもあれだろ。李月は今みたいにでっかい獲物は無視して小物ばっかり消してるから量が多いんだろ?」

 深月がそう言うと、李月の目じりがぴくっと動いた。それからその眼に徐々に怒りが滲んでくる。予想通りの反応だ。

「……秋、行くぞ」
「え?」
「さっさとしろ」

 李月は殺気に満ちた目で秋生を睨み付けると、そのまま踵を返して体育館の方に向かい始めた。睨まれた秋生はビクッと肩を鳴らし、すぐに李月の後を追って行った。
 2人が見えなくなるまで見送ってから、春人が訝しげな表情で深月を見上げた。

「みつ兄、わざとでしょ」
「桜生だけ大変なのは可哀想だろ」

 李月の地雷も爆発したはずだから、きっと悪霊たちは選択の余地もなく(元々ないに等しかったが)消されていくだろう。そして、その案内役の秋生は今以上に振り回されるはずだ。


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