Long story


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参拾陸――その提案先は

 数週間も一緒に暮らしていると、住人達の大体の行動パターンは分かってくる。深月は基本的に侑が仕事のときは帰ってくるまで待っている。それが夕方だろうと夜中の3時だろうと待っている。大抵リビングでゲームをしていて、だからPS4で最近華蓮と深月が嵌っているゲームは深月の方がレベルは高い。
 双月は李月か睡蓮と談笑をしていることが多い。睡蓮は午後9時を回ると眠かろうが眠くなかろうが「寝ないと」と言って自室に戻っていく。そうすると、李月と話してる場合はそのまま続行するかもしくは桜生の通訳で世月と話したり、座敷童がいれば一緒に遊んだりしている。そして、日付を跨ぐ辺りを目処に自室に戻っていく。ちなみに座敷童は侑が帰ってくると侑と風呂に入り、そして深月と寝るらしい。隠し子と言われても仕方がないと思う。
 秋生と春人は午後10時を回ると大概眠気を訴え、見たいドラマやバライティがない限りは寝床に入る。桜生は秋生が寝るのと同時に一緒にくっついていくので、就寝時間帯は唯一李月と離れている時間ということになるだろう。李月はみんなが寝た後も最後までリビングに残っている。すくなくとも毎日丑三つ時までは残っている。残って何をするでもなくコーヒーを啜っている場合が大半だ。時々ゲームをしていて、華蓮と深月が2人がかりでクリアできなかったステージをいとも簡単にクリアしていることもある。
 現在はその丑三つ時。大半がいつも通りのサイクルで眠りにつき、不規則な侑も午後9時過ぎに帰宅していて、既に寝ている。だから、リビングに明かりがついているとしたら、そこにいる人物は一人しかいない。
 一度部屋に戻っていた華蓮はこの時間を待って、再びリビングまで下りてきた。本当は降りてきたくなどないので、足取りは重い。しかし、秋生も言っていた。背に腹は代えられないと。琉生はお前次第だと言った。危険を回避するためには、多少の妥協も必要だ。

「……おまえ、何してるんだ?」

 華蓮が決意も弱めにため息を吐きつつリビングに入ると、一番にコーヒーの匂いが鼻を突いた。そしてその次に、ダイニングテーブルの上に見たこともないようなものがいくつも並べられているのが目に入る。その前で李月が何やら作業をしているようだ。

「見たらわかるだろ。コーヒー淹れてるんだよ」

 見て分かるか、と言いたいところだ。どちらかと言うと匂いで分かると言った方が正しい。

「どっから持ってきたんだその機械は」
「今日前の家を引き払ったから運んできた。元々はネット通販」

 最近は本当に何でもネットで買えてしまう時代だ。睡蓮が以前、欲しい本を探しているときに動物もネットで購入できることを知って、なんかちょっと嫌だと言っていた。確かに、何でもかんでもネットで買えるというのも考え物な気がする。まぁ、コーヒーを淹れる機械くらいは許容範囲だろうが。

「全部でどれくらいするんだ、これ」
「覚えてないが、3万程度だろ」
「程度じゃねぇ……」

 華蓮が若干引きながら言うと、李月は何がおかしいというような顔をする。

「お前だって、テレビにつないでその場の高揚感を満たすだけの機械に何万も叩いてるだろ」
「ゲームと言え。大体、お前一体どっからこんなもん買う金が出て来るんだ?」

 華蓮は李月の収入源を知らない。毎日華蓮たちが学校に行くのと同じようにでかけているようだが、何をしているかは聞いたことがないし興味もなかった。

「桜生はよく悪徳霊媒師と言っていたな」

 李月はそう言って、実に性格の悪そうな笑みを浮かべた。

「は?」 
「悪霊祓いますって駅前の掲示板に貼っておくだけでも意外に集まる。ポルターガイスト関連が多いが、大体は近所トラブルでの嫌がらせとか、痴情のもつれの上の嫌がらせとかが大半だ。それでも解決したことに変わりはないから、霊のせいにしてぼったくる。そうこうしているうちに噂が広まって、高い金払って駅前掲載しなくても依頼が舞い込んでくる。有名になれば取る値段も上がる。そうなればこっちのもんだろ」

 華蓮が言えたことではないかもしれないが、それにしても性格が悪い。自分で悪徳と自覚してやっているところが尚悪い。

「毎日そんなことしてたのか」
「如何せん暇だからな。暇つぶしに数件片付けてたら、1日に数十万は軽い」
「毎日金にもならないのに学校に行ってる俺は何なんだ…」

 華蓮は心底溜息を吐いた。それも、学校行っても勉強をしているわけでもなく、やっていることは李月とほぼ同じだ。それなのにかたや暇つぶしに大金を稼いで、かたやブラック企業張りに働いて無償。どうかしている。

「俺はお前の方がよっぽどいい生活してると思うが?」
「同じようなことして一文ももらえない生活のどこがいいんだ」
「それは一部分だろ。その他で充実してないなら、とっくの昔にやめてるんじゃないのか?お前は学歴なんてなくてもバンドの収入で十分食っていけるだろ」

 そう言われれば否定はできない。

「それに引き替え、俺は微塵も楽しくないからな。暇じゃなければ週1、2回で十分だ」

 李月はそう言って、本格的な機械で淹れたらしいコーヒーを啜った。今更だが、こんな時間からコーヒーを飲んでよく寝られるものだと感心する。

「なら、もし俺と同じような生活ができればそっちを取るということか」
「まぁ、今さら無理だけどな」

 確かに、李月はずっと逃亡生活のような状態で年月を過ごしてきて、そのため高校どころか多分中学もまともに通っていない。だから、本来なら高校に入学云々の前に中学を卒業することから始めなければならないだろう。
 しかし、大鳥財閥は不可能を可能にする大企業だ。

「無理じゃなかったら?」
「は?」

 李月の訝しげな表情を前に、華蓮は今度こそ決意を固めた。
 そして、李月が座っている椅子の向かいの椅子に腰かけて、深呼吸をした。



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