Long story


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参拾伍――苦肉の策とは

 右を見ても左を見ても幽霊ばかりうろうろしている。老若男女、武士からOLまで属性は様々だ。大抵の幽霊はいるだけで何もしないが、中には特定の人間に付いて行ってみたり、不特定多数の人間を脅かしてみたりしている者もいる。とはいえ、その程度なら可愛いもの。いつもなら華蓮や秋生が注意喚起(加奈子の時のように)、従わなければ強制成仏(抹消)にかかるところだが、今は注意喚起どころか完全にスルー。どうでもいい霊が増えると言うことは、危ない霊もそれだけ増えるということで、どこかのお化け屋敷程度に脅かしている霊に構っている暇などないというのが現状だ。
 ここ最近、大鳥学園にやたらと悪霊の類が増えたのは秋生にそっくりで華蓮と同じ名前の人物の影響だと、秋生の兄である琉生が言っていた。しかし、霊が増えても心霊部の部員は2人。深月や双月は見えるだけで成仏(抹消)させる力はないらしく、それがいいものか悪い物かを見極める能力もないらしい。侑は妖怪だからそれなりに力があるのか知らないが、本人は全くやる気がない上に最近はほとんど学校に来ていない。バンドの活動の方が忙しいらしい。春人に至っては天使と同行しているらしいが、その天使が悪霊を天にいざなってくれるわけでもない。
 以上のことから、現在の心霊部は多忙も多忙。ブラック企業顔負けに働かされており、1日中学校内を走り回っている状況である。本日も朝からずっと走り続けている2人を、最近全く相手にしてもらっていない加奈子は楽しそうに見守って(高みの見物)いた。

「先輩、あっち!あっちです!」
「騒がずに走れないのかお前は」
「あっ…でもそっちの方にも出た!」
「近い方だ!」
「じゃあやっぱりあっち!」

 先ほどから行ったり来たりを繰り返しながら、本日5度目の悪霊退治。この時点で既に6度目の目処も立ってしまっているようで、秋生と華蓮は足早に校内を移動している。

「大変だねぇ、クロ」
「にゃー」

 2人の後を追いかけながら加奈子はクロに話しかける。クロはどうでもよさそうに鳴いてから、これまたどうでもよさそうに欠伸をした。

「おー、やってるやってる」

 華蓮と秋生が走っている前方から、これまたやる気のなさそうな声が聞こえてくる。幽霊何て気にも留めずに歩いている琉生は、からかうように笑っていた。

「兄貴…!暇なら手伝えよ!」
「残念、俺はこれから授業なのー。精々がんばれ!社畜ども!」
「あー、うざい!!」

 秋生は苛立って叫ぶと、すれ違いざまに琉生に舌を出した。すると、同じく苛立っている華蓮に前を見て歩けと頭を叩かれていた。

「お前、兄に向って何つう口の利き方を…!これだから華蓮の傍に置いておくのは嫌なんだよ」

 琉生の言葉を秋生も華蓮ももう耳には入れていないだろう。走る方が大事なのだ。琉生は2人が角を曲がって見えなくなったのを確認してから、溜息を吐いた。

「しょうがないよ。これじゃあ」
「加奈子か。お前らも、あまりウロウロしない方がいいぞ」

 琉生はため息を吐きながら辺りを見回した。そこら中にうろついているものは小物だが、これがいつ悪霊になるか分からない。そして、そうなってしまうと、加奈子やクロが取り込まれないとも限らない。

「暇なんだもん」
「だからうちにいろって言ったのに」
「こっちがお祭りだって聞いたから来てみたけど、その方がよかった」
「祭りの意味が違う」

 琉生はそう言って再び溜息を吐いた。
 ここ最近、加奈子の拠点は主に琉生の家だ。秋生はほぼ華蓮の家にいるし、華蓮の家では睡蓮と喧嘩することもままならないくらいに人が多くなってしまったため、居心地が悪くなってしまった。それで退屈していたら、琉生が自分の家に誘ってくれたのだ。
 琉生の家には理由は分からないが沢山の霊たちが住んでいて、その中には加奈子と同じくらいの霊もいるために暇を持て余すことはない。それに、ときどき睡蓮が遊びに来て定期の喧嘩も怠っていないので充実した日々を送れている。そのため、最近はちっとも学校にも来ていなかったので学校が祭りと聞いて久々に来てみることにしたのだ。
 その結果として、加奈子はとても後悔しているわけだが。

「しかし…確かにこのままじゃ収集がつかないな。増えてく一方だ」
「何か対策があるの?」
「ないことはないが………」

 琉生はそう言うと、腕を組んで顔を顰めた。
 そんなに考え込むなんて、よほど危険な策なのだろうか。

「難しい?」
「ああ……いや、まぁ説得してみるか」

 苦虫を噛み潰したような顔でそう言うと、琉生はまた歩き始めた。

「一緒にいてもいい?」
「ああ。でも授業だから、相手はできないぞ」
「うん、ありがと」
「にゃーん」

 どうせ秋生と華蓮と一緒にいても走り回っているだけなので、加奈子は琉生にくっついていくことにした。クロもそっちの方がよかったのか、琉生にお礼を言うように泣き声を上げた。




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