Long story


Top  newinfomainclap*res





参拾弐――神様の帰る場所

 何事もなく何日も時が流れた。
 カレンが現れて春人を襲おうとし、それを阻止した華蓮がカレン消そうとした。それを李月が止めて、華蓮と争って。その結果、秋生の双子は実は別のところで生きているということが分かった。華蓮が李月のところに乗り込んでいき、過去を乗り越えて桜生を助けると約束して戻ってきた。そして、春人に手を出せなかったカレンは次の標的を侑にした。馬鹿にされたと怒った侑は何を思ったか新聞部から出ていって。
 たった2日の間にそれだけのことが起こった。しかし、それから何も起こらない。
どうして何かが起こるときは一気に起こるのに、何かが起こって欲しいときに何も起こらないのだろう。何か他に意識を集中できることがあれば、こんなにも窓の外ばかりを眺めて時間をやり過ごすこともないだろう。まるで、もう数か月も経ってしまったかのような感覚だ。一分一秒が長くて嫌になる。
 侑は夜までには戻ると言っていたが、それは一体いつの夜の話をしていたのだろうか。華蓮は五月蠅いのがいなくて清々すると言っていたが、リビングの窓の鍵を決して閉めない。春人と双月は洗濯物を干す当番を侑の分までこなしていて、後でツケを払わすのだと記録にとっている。秋生は朝も昼も夜も、侑の分の食事を用意している。
 でも、侑は帰ってこない。もう一週間だ。

「お前、勝つ気ないだろ」
「…あるに決まってるだろ。何言ってんだ」
「いつからそんなに嘘を吐くのが下手になったんだ」

 PS4のコントローラーを置いた華蓮が呆れたような目で深月を見て、そのまま本体の電源を落とした。ついこの間買ってきたばかりの最新ゲーム機。本当ならもっとわいわい言いながら楽しむはずなのに、全然楽しめない。
 華蓮の指摘は少し違う。勝つ気がないのではない、集中できないのだ。

「止めた方がよかった?」

 聞かなくても分かっている。
 あの時無理矢理にでも侑を止めていれば、きっとこんな思いはせずに済んだ。きっと侑を止めるのには苦労するだろうが、少なくともこんなに何日も気が気じゃなく過ごすことはなかった。
 いつかのように、怒って口も利かなくなるかもしれないが、それでも傍にいるのだったらそれでよかった。

「知らん。だが、少なくとも俺がお前の立場なら行かせない」

 深月はどこかで「そんなことない」と言ってもらえるのを望んでいたのかもしれない。しかし、隣にいる冷徹な友人はそんなに優しい言葉をかけてはくれない。

「何でその時に言ってくれないかな」
「自分の過ちの人のせいにするな」

 華蓮は「そんなことない」と言わなかったばかりか、はっきりと深月の行為を「過ち」と断定した。その言葉が深月の心に突き刺さり、現実を真正面から突き付けてくる。自分のしたことは「過ち」だったのだと、改めて思い知らされる。

「帰って来なかったらどうしよう?」

 前にも、こんな思いをしたことがある。あれは、李月がいなくなって、双月までいなくなったときだ。世月が死んで、李月も出て行って、そして双月までいなくなった。4人で使っていた部屋が、突然1人きりになって。途方もない孤独感に襲われた。誰も帰ってこないのでないかと思った。だから、双月が戻ってきたときは本当に嬉しかった。そして同時に、救われた。
 あの時、双月が帰ってきていなかったら、自分はどうなっていただろう。そして今、侑が帰ってこなかったら自分はどうなってしまうのだろう。

「そんな下らないことを考えている暇があったら、さっさと探せばいいだろ」
「俺が何もせずにただ待ってるとでも?」

 ただ待っているだけならこんな風には思わない。そもそも、一週間も戻ってこないのに待っているだけで何もしないような相手なら、そもそもこれほどまでに気をもんだりはしないだろう。
 いくら探してもまるで手がかりを掴める気配すらないから、こうなっているのだ。

「侑が帰ってこないのをいいことに5日間寝ずにゲーム三昧だな」
「そうそう、おかげで随分と強く…って、そういう言い方すんじゃねぇよ」

 確かに間違ってはいない。
 この5日間で深月の使用しているキャラクターは尋常でないほどのレベルアップを遂げていた。華蓮の使用しているキャラクターとのレベル差は実に30近くにもなるが、それでも華蓮に勝つことが出来ない。

「今は誰が探してるんだ?」
「がしゃどくろ」
「それだけ探して手掛かりもないのか?」
「あったら寝てるっつの…」

 そう言った瞬間、また深月の使っていたキャラクターが力尽きた。今日だけでもう10連敗だ。
 深月が集中できないということも勝てない原因であることに間違いはないが、それを除いたとしてもこのレベル差で勝てないのならばもう一生勝てないのではないかと柄にもなく思ってしまう辺り、自分がいかに憔悴しているのかを思い知らされる。

「まぁ俺は、歌わなくてよくなるから帰ってこない方がいいが」

 一見本気で言っているように見えるが、本気でないことは分かっている。
でなければ、いつカレンが現れるかもわからない危険な状態で窓の鍵を開けておくわかげない。

「素直じゃないな」
「お前ほどじゃない」

 深月に言葉に華蓮は少し口元を緩めた。だからつられて、深月も小さく笑っていた。
 窓に何かが叩きつけられるような音がしたのは、そのすぐ後だった。



[ 1/4 ]
prev | next | mokuji


[しおりを挟む]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -